Project - 2『Star man』
発端は今より三年前の2014年の夏のことだ──人類は初めて地球外知的生命体とのコンタクトに成功し、メッセージを受信した。
ん? そんなことはニュースになってない?
もちろんである。このことは公にはされていないのだから。これはトップシークレットである。トップもトップ、最重要事項のトップシークレットなのだ。どこぞのお笑い芸人と女子アナの入籍スキャンダルの揉み消しがAカップくらいだとすればこの件はGカップくらいだろう。Gカップシークレットだ。なぜブラに例えているのかとお思いだろうがそこには毛ほども理由はない。ちょっと言ってみたかっただけだ。
それほど、その内容は恐るべきものだったのだ。
…………あ~、余談だが当時2014年はノームコア風ファッションというのがはやった。いわゆるファッションファッションしてない風のファッションというやつで、ファッションに興味のない僕にとってはそういうのは実に助かるわけである。女子の間では花柄、ホワイト、そしてシースルーにスリッポンが流行ったというが……スリッポン? スリッポンてなんだ? 発音がなんか面白いのであとでググってみることにする←《メモ。要確認事項》
閑話休題。
解読したそのメッセージの内容は当時から換算してかっきり10年後、地球時間にして2024年の9月1日より地球侵略を開始、人類を一人残らず滅亡させるという驚愕の予告状だったのだ。つまりそれが何を指すかといえば、この予告が現実になった場合、学生たちはその年の夏休みの宿題に頭を悩ませる必要はなくなるということである。
…………え~、ちょうどその頃といえば兵庫県のとある県議員がテレビの会見で号泣していた時期であるわけだが、おそらくこのこととは何も関係ないものだと思われる。また、その年、2014年には『笑っていい〇も』が終了したりもしている。ついこのあいだのように思えるがもう3年も経つのだなぁ。号泣とまではいかないがその時は僕自信も目頭が熱くなったのを覚えている。
オホン、閑話休題。
国防総省は彼らを“クロフネ”というコードネームで呼び最高レベルの警戒体制を敷いた。そして人々がパニックに陥らないようにそれらに対抗するべく極秘プロジェクトを水面下で秘かに、確実に、そして急速に進行させたのである。
ただ、完全に伏せてしまうと情報公開法というやつに引っ掛かってしまうので東スポにだけは『宇宙人襲来!七年後に人類滅亡か?!』と載せるよう指示した。嘘は言ってない。っていうか、まんまである。万が一この真実が国民にバレてしまった時、『ホラね、ちゃんとここで言ってるじゃーん?』っていう逃げ道も対策しておかなければならないのだ。そう、それが行政というやつである。
…………余談だが、ペイザンヌという人物の書いた『あの映画は面白かったのか?』という書物によると2014年は映画界にとっては不作の年であったらしい。ハリウッド版『ゴジラ』が公開され、日本では小栗旬主演で『ルパン三世』の実写化作品が公開されている。あ、これ当時付き合っていた彼女と一緒に見に行った気がするな。懐かしいな~、はたして彼女は今どこでどうしているのか……幸せを祈るばかりである。
エヘンエヘン、閑話休題。
緊急国際サミットが開かれた。もちろんこれも新聞沙汰にはなってないしマスコミだってこのことをいっさい知らない。各先進国の持てる力、優秀な頭脳を総動員させ、“クロフネ”側を上回る人類最強の兵器を10年のうちに開発することが各国ともに最優先事項とされた。
そしてもちろん我が国においても首都である東京にさっそく極秘プロジェクトチームが置かれた……の、だが…………
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「えー、私がこの研究所を任された葉加瀬二郎である。そんなわけで我々はこれから2024年までの10年という長い時間を共に過ごすわけであるからして、まずは互いに自己紹介から始めたいと思う。まずは、そうだな、君から」
「城之内です……城之内一と申します。出身は長崎県。今年で25になります。……よろしく、お願いします」
「おお! 長崎かね? 長崎のからすみは旨いからねぇ、うんうん。あれだ、今度、里帰りした時はぜひともよろしく頼むよ~。うひひ」
「えーと、所長」
「あいたたた……所長はないだろ、所長は。あいたたた、だよ、城之内くん」
「…………(ナンナノ、コノイタイヒト(-_-;)?)」
「お茶の水博士に南部博士……。そう、鉄腕のアストロボーイを作ったのも科学忍者隊を指揮したのもみんな“博士”だ。私はね、そんな感じで博士と呼ばれたいがためにこれまで青春を犠牲にしてまで頑張ってきたと言っても過言でないわけだよ。だから…… さ、ささ、遠慮はいらん。呼んでみたまえ、は・か・せ・と」
「いや、顔近いし。し……しかしですね、葉加瀬所長のことを博士と呼ぶと葉加瀬博士となるわけで、なんかプリンセスプリンセスやオレンジレンジみたいになってしまうのではないかなと」
「なるほど、ますだおかだみたいな感もあるな」
「とはいえ“はかせ”だけだと、なんだか呼び捨てしてるみたいだし。『葉加瀬~』って、なんか中島がカツオにむかって『おい、磯野~』って言ってるみたいなニュアンスになるっていうか……よろしいんですかね?」
「まあまあ、そんな小難しい理屈は研究の時だけにして」
「(ココ、ケンキュージョダヨネ(-_-;)?)」
「さ、ささ」
「は、ハカセ……」
「何かね! 城之内くん!ハッハッハ」
「えと、ハカセ?」
「どーしたんだね! 城之内くん!ハッハッハ」
「…………(ナニコレ(-_-;)?)え~、ひとつ、質問が」
「言ってみたまえ! 城之内くん!」
「気のせいか、この部屋、僕以外誰もいないみたいなんですけど?」
「みたいじゃなくて、いないんだよ」
「は?」
「あたりまえでしょ。このプロジェクト・チームは君と私の二人だけなんだから」
「は?…………はっ、はっ、は?」
「ハッハッハ!」
「…………((-_-;)ソウダネ、ソコハワラエルトコロダヨネ)」
「おっともう一人、いや、もう一匹いるぞ。ほーれ、ほれほれ」
「ネコじゃないですか」
「ただのネコじゃないぞ。彼だって重要なチームの一員だ」
「“彼”ですか。あ、確かに、こりゃ立派なオスだ。城之内でーす。よろしくー(……(-_-;)モウ、ヤケクソ)え~と……彼のお名前は?」
「うん、それが本日の議題だ」
「え、これ、会議なの」
「地球の未来を担うこのプロジェクト・チーム。その一員であるその彼。どうかね、彼に相応しい名前をぜひキミに検討してもらいたいのだが」
「…………チキューのキューちゃんとか」
「うーん、そりゃネコというより鳥っぽいな。むしろ漬け物みたいだな。なんかもっとないかね、ふなっしーみたいに御当地キャラみたいな名前……ちなみに長崎県のマスコットキャラは?」
「人面石くんとかありますけど」
「……ださ」
「えええっ!( ̄□ ̄;)ガーン!!」
「もっとほれ、日本を、いやこの地球を代表するような……」
「まてよ……長崎? 日本……そして“クロフネ”…………《リョーマ》。 坂本龍馬の《リョーマ》ってのはどうですかね?」
「おお、それだ! いい名前をつけてもらってよかったでちゅね~、リョーマくん。今日からこのお兄ちゃんがキミの飼い主でちゅよ~」
「……………………は?」
「ん?」
「……………………へ?」
「オホン、では城之内一くん、キミの第一の任務だ。本日この瞬間より、この『動物界脊椎動物哺乳類食肉目ネコ科ネコ属イエネコ類・プロジェクト・ネームNo.611、通称《リョーマ》』の厳重なる保管、及びこの先10年間の生命維持をキミに命ずる」
「……………………ぬ?」
「なんだ“ぬ”て。ちなみに611ってこの建物の六階にある君とこの《リョーマ》の部屋の室番でもあるから。とっとと速やかに引っ越してくるように。ハイ、これ、鍵ね。611号室、間違えないようにね」
── これが、3年前のことであった。その時のリョーマはまだ“喋ることさえ”できないただの可愛い猫だった。今思うとあの頃が懐かしくもある。