1◆室内犬が欲しい
とある土曜の夕方。
「でね、新田さんの家のワンコが可愛くてね!」
「ほー、そうか…」
意気揚々と話す小春の言葉を、俺は話半分で聞く。
“新田さん”というのは、小春が以前勤めていた会社の女先輩だ。小春は出産を機に退職したのだが新田さんとはそのあとも連絡を取り合っていたらしい。今日のお昼頃から新田さんの家にお招き頂いていた小春は娘たちと遊びに出掛けていたのだった。
そのおかげで俺は久しぶりに、一人の時間を満喫したのだった。
「ええと種類はねぇ…何だったかな…」
「ママ、キャバリアだよ」
「あぁそうそう!キャバリア!鈴、よく覚えてたわね」
「結香お姉ちゃんに教えてもらったの。」
得意気な顔で母を見上げる鈴は、今日も安定の天使ぶり。可愛すぎる、頬擦りしたい。
「海音、鈴にばっかりそういう顔するのやめてー!」
(――娘に嫉妬する母…今日も健在だな…。)
俺は頬を膨らませる嫁を、無言でスルーする。
ああ、ちなみに結香お姉ちゃんというのは、新田さんの娘さんで今年中学生だそうだ。
「でね!私も室内犬飼いたいなって思って!今からペットショップ行ってきていい?」
「は?今から?」
「見・る・だ・け・だ・か・ら!」
懇願する目でこちらを見つめてくる小春。
「いや、良いけどさ…。何も今からでなくても…」
俺も犬はいつか飼いたいと思っていたわけだし。
犬を飼うことは賛成だ。
少し心配なのは、小春は“こうしたい”と思ったら何も考えずに突っ走る性格であることだ。
本気で飼うのなら、俺だって一緒に選びたい。
―――つうか、以前に俺が“犬飼いたい”と言った時、全力で“無理”っつったの、お前だよな?相変わらず、心境の変化すげぇな。
それを口にしたらめんどくさいことになるので、俺は何も言わずにいた。
「鈴も行く!」
「しゃらも!!」
鈴と沙羅も手を勢いよく上げ、乗り気になっている。
「とにかく落ち着こう、一旦。…な?」
俺が小春と娘たちをなだめて、翌日家族でペットショップに行くことで、話はついたのだった。




