ケース3◆水族館
今日は、娘のリクエストに応えるべく、家族で水族館にやって来た。
俺はインドア派なので、子供が生まれるまでこれといって出掛けることはなかった。デートも家で済ますことが多かったくらいだ。
「パパー!これ、なんてお魚さんなの?」
四歳の娘の鈴は、興味津々だ。まだ文字が読めないため、俺が説明する。
「これは、鯛だよ。食べられる魚だ」
「へぇー!タイってゆーんだぁ!」
ガラスに手をつきながらくいるように見つめる鈴。
天使だ、ここに天使がいる!
「ねぇ、海音ぇ!」
はっ!
忘れていた!!
心春の存在を!!
「ん?どした?」
嫉妬して怒っているのかと振り向くと、心春は俺ではなく、でかい水槽をじっと見つめていた。
「魚ってさぁ…エラ呼吸だよねぇ?」
顎に手を当て、考え込むように心春が言った。
「そーだな。」
当たり前のことを聞かれ、当たり前のように答える。
「エラから水って、入らないかなぁ?」
「・・・え?」
ごめん。
よく聞こえなかった。
というか、幻聴だと思いたかった。
(お前、今…なんて言った?)
「見てよ、ほら。私今まで気にしたことなかったけどさ、エラがパカって開いたとき、そこから水入りそうじゃない?」
「・・・・」
俺は、呆れて声が出なくなった。
というか、混乱している。軽く目眩がする。
―――俺はなんて答えたら良い?
「ねぇ、海音は頭良いんだからさ。知ってるんでしょ?もったいぶってないで教えてよ!魚のエラから水って入らないの?」
「…いや、水入ってたら、死んでるよね?」
そんな俺は多分、今、死んだ魚の眼をしていると思う。
「だよねぇ」
なぜ勝ち誇った顔をしているんだろう?
というか…声、でかいから。
恥ずかしいから。
俺が。
「パパー、あっちのお魚さん見に行こうよぉ!!」
鈴に手を引かれて、俺は我に返るとそのまま心春を置いて、我が天使・鈴と水族館をまわることにした。
――――他人のふりをするかのように。
「え!?ちょっと海音!?私と沙羅置いてかないでよぉ!!」
その後俺は心春が、鈴の無邪気さに嫉妬してわざとああいう質問をしてきたのかもしれない、と考え直してみた。
それならまだ分かる…。
しかし、何度そう思おうとしても出来なかった。
あの時の心春の顔が…――――本気だったからだ。




