4-19 「バカ」
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「…どうして、あたしを助けたの?」
静かにリアは問うた。
単純な疑問ではなく、アルを問い詰める言葉だった。水流から脱出できても、最終試練の場である洞窟から外れてしまっていた。魔王への道は断たれたも同然だった。助けられた喜びよりも、魔王の座をアルが自ら放棄したことへの怒りと、掴みかけた目標を逃した失望感がない交ぜになってリアを支配していた。虚脱状態だった。
アルが顔を上げてリアを見た。
「…どうしてって…、助けちゃいけないの?」
「いけないに決まってるじゃない! あなたは魔王の座を捨てたのよ!?」
不服そうなアルの声にリアは声を高めた。憤りが気力を取り戻させつつあった。調制士の救助は立派なことだ。しかし、魔王の座を捨てては何の意味もない。
アルが突如として立ち上がった。
「リアがいないのに、ぼく一人で魔王になっても仕方ないじゃないかっ! リアがいてくれないなら、魔王の座なんてぼくはいらないっ!」
涙ながらにアルが叫んだ。
驚きにリアは目を見開いていた。アルの語気はそれほどに強かった。ギーツがリタイアした時以来の激しい感情の吐露だった。アルの激白はさらに続いた。
「…ぼくは、…ぼくはリアのことが好きだもの!」
言い放つと、アルは跪いて泣き崩れた。制服の袖で涙を拭い、咽びながら泣いた。まるで子どものようだった。
眺めるリアの胸に温かいものが生まれた。温かな気持ちは、憤りも失望も押しのけてリアに笑みを浮かばせた。
「バカ」
「?」
涙の残る目を向けたアルの前に膝をつくと、リアは口づけをした。アルは目を丸くしてリアを見つめた。
「バカ」
もう一度繰り返すと、リアはアルの首を抱きしめた。