4-17 アル、あたしね…
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「…ごめんなさい。馬鹿みたいだけど、他に言える言葉がないわ」
「何を謝るのさ。今のはしょうがないよ」
リアは顔を上げた。光に浮かんだアルの顔は小さく笑っていた。
リアは無言でアルの顔を見つめた。
アルの言葉がしおれきった心に染みていた。たとえ魔王になれなくても、この男と共に生きていきたいと心の底から思った。思った時にはアルを抱き締めていた。
「リア?」
「アル、あたしね…」
「しっ!」
続けようとしたリアの言葉はアルに遮られた。
「? どうしたの?」
「何か聞こえる」
体を離したリアは耳を澄ませた。大きな水音は途切れることなく続いている。
「…別に、何も…」
否定しようとしたリアの耳に、水音に混じって聞こえるものがあった。
獣の鳴き声だった。複数の鳴き声が、しかも近づいてくる。
「これって…」
「まただ!」
アルはリアの手を取って立ち上がらせた。
「走って!」
声が届く逆の方向へとアルは駆け出した。空のザックを背負ったリアも追随する。怒りが気力に変換されていた。走りながらリアは叫んだ。
「この試練を考えたやつって、間違いなく人をいたぶるのが好きな性格異常者よっ! とびっきりの変態だわっ!」
「同感っ!」
二人は水音と平行して走り続けた。鳴き声は暗闇の奥から追ってきていた。