4-16 ワー・モンの襲撃
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
突如、暗闇の中に光が生まれた。
アルが片方の手の平を上にして頭上に掲げ、小さな光の球を生み出していた。光は二人の周囲をくまなく照らした。
高く短い悲鳴をリアはあげた。
光が生まれた時、リアの顔の直前に獣の顔があったからだった。
獣は全身を短く白い毛で覆われていた。顔面は死人のように青白く、人の顔に近い造作をしているのに肉が深く落ち窪んで縦の筋を何本も刻んでいた。洞窟の中で退化したのか、眼球までが白い。鋭い乱杭歯をむき出してリアの体にしがみついている。不気味な様相をした獣は、アルの光に照らし出された途端に視界から消えた。
ワー・モンだった。魔界に広く分布して生息する類人猿の一種だ。ただし、通常はこげ茶色をした体毛が白いところが異なっていた。変異体かもしれなかった。
ワー・モンの群れは、光の出現とともに退散した。甲高い鳴き声とともに一方向へ固まって逃げていき、勢いに押されてリアは岩場に倒れ込んだ。短く悲鳴をあげた。
アルが駆け寄り、跪いて声をかけた。
「あたしは平気よ」
返事をして身を起こすとリアはザックを背中から下ろした。蓋が開いていた。
中身を調べると食料の残りと水筒がなかった。地図と注意書きは破れて地面に散らばっている。残されたのは痛んだザックだけだった。
リアは目を閉じてうなだれた。残っていた気力もなくなっていた。
「…アル、あなたの荷物は?」
尋ねる気力ぐらいは残っていた。
「何とか無事。ちょっと危なかったかも」
リアと同じように蓋の開いたザックを調べたアルが言った。失う食料と水は半分で済んだようだった。