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女神様の去った後

夢のような夜が終わり会社へ向かう立花だったが不思議と寝不足のダメ-ジは出ていない。


アイドルが自分の家に泊まっていた記憶がアドレナリンを出していてご機嫌だったからだ。


一目惚れに近い形でファンになった彼女が、自分を頼って自宅アパートにやってきた。


誰も見た事がないだろう、

至近距離で見た現役アイドルの寝顔


その記憶は自分だけの宝物だ


さっきまでの幸せの余韻に浸っていた時に気付いた。


『サインを貰っていない』


いくらでもチャンスはあったじゃないか

そう悔やんでいた時に


『ツ-ショットの写真も撮っていない』事に気付き頭を抱えて、倒れんばかりに後悔をしている。


バタバタして何も頼めていなかったじゃないか。


記念品が何も手元に残ってない


『きっと、もう会えないのに』


そう思いながら、彼女とやりとりをしたL INEを見直している。


調子に乗って、また連絡をしたら

『収録が終わったから、もう連絡しないで』

そう言われてブロックされて終わりだろう


本人確認の為に送って貰った2枚の写真で充分じゃないか


そう自分に言い聞かせて会社に入って行った。


立花の勤務する会社はFAXとコピーが一体化した複合機を作っている世界規模のメ-カ-の子会社で納入している会社の定期メンテナンスや利用カウンターの確認


故障をした際の緊急修理や新規の設置が主な仕事だった。


彼の所属している支店には経理や事務の人間も在籍しており100人ほどいる。


彼と同じ職種は女性も含めて50人ほどいるが、立花に話しかける人はいない。


飲み会に誘われても行かないし、仕事中も会話に加わわる事もなく


世間話を振られても返ってくる事がないので業務連絡を伝える事も嫌がる女子社員もいるくいらいだ。


そんな立花に

『なんだ、今日はやけに早いな?』と

声をかけてきた男性がいる。


彼と同期入社の棚橋だ。


その声に気付いた立花があくびをしながら

『俺が早くちゃ悪いか』と悪態をつきながら答える。


『いや、早出残業を嫌って就業時間ギリギリに出社する立花さんが』

『就業時間30分前に出社していればビックリするだろう?』と返してきた。


実際、朝早くから立花の姿を見た一部の社員は

『今日って緊急朝礼だっけ?』と

予定を忘れていたのは自分では?と不安になり心配をしていた。


その事も棚橋から聞いた彼が

『ちょっとヤボ用で、昨日は一睡もしてないだけだよ』と説明すると


『女がらみか?』と冷やかすように聞いてきた。


これは運動部のジャガイモのような彼女がいない男3人組みの会話で

『明日の予定は?』と聞かれ

『ちょっとヤボ用でムリ』と返された時に


『女がらみだろ?』と聞く

男の社交辞令のようなものだ。


実際は母親と近くのイオンモ-ルに行くジャガイモも

『ちげぇ〜よ』と答えて終了する

誰も傷つかない会話のキャッチボールである。


聞いた棚橋も、そのつもりだったが

『女がらみか?』


『そうだ』と

立花が答えた返事を頭の中で消化出来ずにいた。


30秒の無音の後に確認するように

『寝不足って、女がらみなのか?』と

再度、同じ質問を繰り返す。


『そうだ、って言ってるだろう』と答え


同期入社の彼は立花が冗談を言わないタイプだと知っていたので


『マジかよ?』と


学校の教室ほどの広さの営業フロアにいる全員が振り返るほどの大きな声で絶叫した。


『声がデカいよ』と

棚橋にヘッドロックをして引き寄せた立花に


『だって、そんな話を聞いた事が今まで無かったからよ』と説明する。


その反応を見た立花も

全部話すのはマズいと思い始めた。


絵色女神がアパートに来た事は芸能人である彼女にとってはマイナスだろうし


ましてやゲ-ムのレクチャーを受けに来た事を説明するには


自分がエクシブハンターと言うゲ-ムをしている事を説明しないといけない。


立花 隆イコ-ルGODって事は絶対にバレてはいけない。


言ってみれば彼の聖域だ。


『詳しく教えろよ』と言う棚橋に

『秘密だ』の一点張りだった。


お金を払って自宅に訪問してくれる、お姉さんが昨晩泊まって行った


棚橋の勝手な憶測に

『そうです』と呆れ顔の立花が返事をして、その場は落ち着いた。


くだらない男同士の掛け合い、いつもと変わらない日常が始まっていく。


営業全員が参加する朝礼が始まった時に異変は起きた。


女性上司である藤波係長が全員に色々な伝達事項を発表した後

『一件、緊急でのヘルプが目黒のオメガ商事から入っているんだが』

『誰か行って貰えないだろうか?』と全員に問いかけた。


当日のスケジュールは全員決まっておりキャンセルなどが、無い限りは予定は埋まっている。


そこに飛び込みの依頼が入れば当然、負荷となり自分の仕事が多くなるので、みんな嫌がる。


『俺、今日はソッチ方面ですから行きましょうか?』

聞こえないフリをする社員ばかりの中、立候補した人物がいた。


『立花?』


頼んだ張本人の藤波係長が驚いて、周りをキョロキョロと見渡した。


『今日、目黒の合同庁舎の近くに行きますんで、一緒に診てきます』

そう立花が言った後


全員がザワついた。


以前、立花の担当先の隣のビルにあるオフィスから緊急の依頼が入った事があり


当日、そのエリアに行く予定だった立花に

『隣のビルだから行ってくれないか?』と

上司が頼んだのだが


『自分の担当だけで、手いっぱいです』と断り、大問題になった事もあった。


全員、その事を知っていたので驚きでザワついていたのである。


『なら、お願いしようかな?』

半信半疑な藤波係長が、あたふたしていたが


『後で資料をください』と

何事も無かったように立花は受け答えていた。


そして朝礼が終わった瞬間に

『頭がおかしくなったのか?』と話しかけながら棚橋が近づいて来た。


『何がだよ?』

不服そうに立花が聞き返すと


『だって、お前』

『誰のヘルプもしなかったじゃないか?』

『それが突然、自分から手を上げるなんて』

『具合が悪くなったのかと思うじゃんか?』と

言ってきたが


『うるせ〜、ほっとけ』と一蹴して、棚橋を追い返そうとする。


確実に立花の中で変わった事がある。


仕事への意気込みである。


もちろん影響を与えたのは絵色女神だった。


年下の彼女の、ひたむきな仕事に対する姿勢を自分も見習わないとダメだと感じていた。


それはヘルプ案件を立花に依頼していた上司も、

先方の要望や注意点の打ち合わせをしているうちに、すぐに分かり資料を彼に渡していた。


元々仕事は出来ていたので、会社に非協力的だったが大きなお咎めが、なかったのだ。


『このタイプですと経年劣化でピンチロ-ラ-も摩耗していると思います』

『先方の了解が取れたら、ソッチも交換してきちゃいます』


昨日までの立花からは聞く事が出来なかった言葉に上司は感動すらしていた。


その後、自分の本来の担当先の資料をまとめて

『行ってきます』と

一番最初に事務所を出て行ったのである。


事務所の人間は全員ポカンとしていた。


『立花さんが行ってきますって言った』


外国の教会でマリア像が涙を流したくらいの衝撃だったようで


別人のような立花の変化の真相を知りたい他の社員達は


唯一立花とコミニケーションを取れる棚橋の元に走って行った。


『何が起きた?』

『偽物じゃないか?』と色々な憶測が飛び

その輪の中に女性上司の藤波係長もいた。


『どうやら女と朝まで一緒にいて寝不足らしいですよ』と棚橋が仕入れたばかりの情報を発表すると


『立花って、彼女いたのか?』と大騒ぎとなり


『彼女じゃなくて風俗の女みたいですよ』と、棚橋の憶測が先行して


最終的には延長料金は払う為に残業に精を出していると言う事になっていった。


ある種名物社員の立花の変化は他部署でも話題となり


風俗女性への延長料金の話に尾ひれが付いた結果

、夕方に立花が会社に帰ると


『立花さん、ベネゼ-ラ人と結婚したんですか?』と本人に聞く人間もいたくらいだ。


『誰が、そんな嘘を』と言いかけて

1人の人物に思い当たるフシがあった立花は

黙って棚橋のデスクに向かい頭を軽く叩いたのだった。


ビ-ナスの洗礼を受けたGODの日常に変化が起こり始めたのである。




時間軸を今朝に戻そう。


立花が出社した後、アパートで目覚めた彼女は

立花が出社前に書いて残した手紙を何度も読み返して、微笑んでいる。


仕事柄、たくさんの手紙は貰ってきたが、今までで一番嬉しかったようで


大事に折り畳み、旅行用のキャリーバッグにしまったのであった。


『立花さん、シャワーを借りますね?』

家主不在だが、声に出して了解を取って浴室に向かう律儀な彼女である。


ビジネスホテルにある浴槽と洗面台とトイレが一緒になっているユニットバスを使うのも二回目なので慣れてきた。


立花の家にあるシャンプーとボディーシャンプーを手に取り、不思議そうに眺める。


『何処のメ-カ-のだろう?』

初めて見るシャンプーを凝視しているが彼女には分からないだろう。


100円ショップのダイソーのシャンプーなど、年頃の女の子は絶対に使わない。


『コッチは徐々にでも良いから、まずは食器類と家電かな?』と呟いた後


シャワーヘッドを頭の上に固定して、顔面にシャワーを浴びながら今日の予定を思い出す。


テレビの収録と新曲の振り付け練習、ボイストレ-ニングが終わるのは20時過ぎだ。


シャワーを浴びた後に身支度を終了した彼女は、彼が置いていった1万円札に頭を下げて

『大事に使わせてもらいます』と礼を言った。


『鍵はポストに入れると』と

立花からの伝言を唱えながら

『忘れ物は無いかな?』と

部屋を見渡しながら再確認をする。


『忘れていても取りにくれば良いか』と言って部屋を出て駅に向かう事にした。


スマホのGPS機能をONにして自由が丘駅へと向かいながら考えている事がある。


今の時間は10時過ぎ、立花は仕事中だから電話をするのは失礼だ。


でも受けた恩義に対して自分の声で、お礼を言いたい。


起きて時間が経過しているのに連絡一本を入れないのは失礼ではないか?


さっきから、その事で頭を悩ませている。


LINEを入れるにも文面は?

悩みながら歩いて20分かけて自由が丘駅に着く


『昨晩は本当にお世話になりました』

『きちんとお礼が言いたいので、何時だったら連絡しても良いでしょうか?』

『連絡をお待ちしております』


移動中の電車の中で、悩んだ末の文章だった。


そのLINEを打ってからは返事を待っていた彼女だが、返事どころか既読にすらならない。


それはテレビ番組の収録が終わってからも変わらず、


収録が大成功に終わった事を1番に報告したかった彼女にとっては心配事になっていった。


嫌われた?


思い当たるフシはある、あり過ぎる。


どうしよう?


実際には彼女の影響を受けて、今まで以上に仕事に専念しており


自分のスマホに触っていないだけだった。


だが連絡が取れない時こそ悪い予想が発展していき


あの1万円は2度と関わり合いにならない為の手切金のようなものなのかな?


急に不安になり、自分が寝ていた時の動画を見直す。


『無防備過ぎだろ?』と

寝ている彼女に立花が語りかけているシ-ンを何回も再生して


『大丈夫、大丈夫』と

自分に言い聞かせるが


この後、何か粗相をしたのでは?


悪い予測は堂々巡りで彼女の中でループしていたのである。
















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