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女神様がお泊まり 3

深夜3時の自由が丘のボロアパートの一室

昨日までは存在すら知らなかった男女が小さなベッドに2人で寝ている。


こう書くと若干、色っぽく聞こえるが実際は、そうでもなかった。


身体を横にして2人とも同じ方向を向いている姿は


小学校の整列の〝小さい前ならえ〟で前の人との間隔を縮めたようで滑稽である。


後ろに駆け出しとはいえアイドルが寝ている状況


部屋の電気は小さな灯りだけにしているが、徐々に暗やみに目が慣れてきて部屋の状況は分かる。


後頭部越しに彼女の息遣いを感じて、余計に緊張してしまう立花だった。


だが彼女はまるで気にしていないようで

さっきからのご機嫌モ-ドが継続中だ。


生殺し状態の立花に彼女が

『GODさんって、今いくつなんですか?』と

質問をし始めた。


『27才です』


ゲ-ムを教えていた時には緊張などしないで会話の主導権を握っていたが


現在は職務質問をされた学生のようにギクシャクしてしまう。


俺を男として見ていないのか?


いや、逆に誘っているのでは?


だが、ここで勘違いをしたら新聞沙汰になり人生が終わる


色々な事を考えて、睡魔すら襲ってこない。


『GODさん、聞いてます?』


自分自身の良心と葛藤していて彼女の話が耳に入ってきていなかった。


『ごめん、もう一度言ってくれる?』

その問いかけに


『お仕事って何をされているんですか?』と可愛いく聞かれて


『コピーとFAXの複合機のメンテナンスをしているSEです』と彼女の質問に答え、その後の質問にも全て正直に答えていった。


長野県出身のこと、会社のこと、ゲ-ムを始めたキッカケ


『ふむふむ』

一つ一つの質問に頷く彼女に


『アイドルの仕事って楽しいですか?』と立花が質問し返すと


『こんなにツライと思いませんでした』と予想外の事を彼女が答えてくる。


『意外だな』

『楽しいって、答えがくるかと思って聞いたんだけど』と彼が言うと


『オ-ディションに合格すれば、ゴ-ルだと思っていたんですけど違っていました』


さっきまでの明るいト-ンとは変わって少し重い感じで理由を話し始めた。


中学生の頃から色々なオ-ディションを受けていたが、何度も落ちていた。


だが権太坂の新規メンバー募集には書類審査が通り、予選、本戦と通過して、


最終的には3人の合格者の1人となって幸せの絶頂だったが、その日がピ-クだった。

翌日からが試練のスタートだったそうだ。


アイドルなので可愛くて、歌えて、踊れるのは当たり前


で、他に何が出来るの?


芸能人には可愛い子が、他にもたくさんいる。


自分には、特技も無ければ特徴もない。


メンバーとして加入してから、その事に段々と気付いていった。


シュッとした先輩はモデルとして、雑誌の専属モデルとなり


元子役出身の先輩は女優としても連続ドラマに出演したり


高学歴である先輩はクイズ番組の常連だ。


お笑い芸人とバラエティで絡む先輩は頭の回転が早く、しっかりと笑いが取れている。


『女神ちゃんは何が出来るの?』

『そう言われた時に困っちゃったんです』


『スタイルが良い人は、グラビアですぐに雑誌で特集を組まれますが』

『背が低くてスタイルも良くないアタシには声も掛からないですから』


『何かセ-ルスポイントを探さないと、いけないんです』


身長157cm.体重43kg、推定Bカップの彼女は自分の事を卑下していたが


至近距離でさっきまで見ていた立花は

『それ位が丁度良いです』と言う言葉が、喉の先端まで出かかっていた。


それをグッと飲み込んで

『先輩はアドバイスとか、してくれないの?』

そう問いかけると


『聞いたら、最低限は教えてくれます』

『でも、それ以上は何も』

そう言うと黙ってしまう。


『同じグループなんだから、教えてくれても良さそうなのにね?』

重い空気を変えるつもりで立花が言うと


『同じグループだから教えないんですよ』


『自分が1番になる為にはメンバーは全員ライバルなんです』


『だから先輩から見ると、新人は自分の席を取りにきた敵なんです』

そう淡々と説明をする彼女に、さっきまでの笑顔は消えている。


『でもアイドルになるのは夢だったし、家族も喜んでくれているから』

『頑張って上を目指しているんです』


10才も下の彼女の置かれている環境、仕事への意気込みを聞いて


やましい気持ちがあった自分が情け無くなっていた。


『俺も明日から女神ちゃんを見習って、頑張っていかなきゃダメだな』

自分を鼓舞するつもりで言った言葉に


『GODさんは、もうテッペンを取っているじゃないですか?』と不思議そうに言ってくる。


『エクシブハンターの事?』


『テッペンを取ったって言っても、たかがゲ-ムじゃない?』

そう答えた彼に


『プロには、ならないんですか?』と彼女が質問をしてきた。


eゲ-ム


人気のあるゲ-ムではスポンサーがつき世界大会では億単位の賞金も珍しくない。


『エクシブハンターのプロに成れないんですか?』彼女が素朴な質問をしてきた。


『エクシブハンターは賞金の出る大会は開催していないんだ』

そう説明した彼の答えに


『そうなんだ、残念ですね』と

自分の事のように悔しがる彼女


だが実際にはもうすぐエクシブハンターの世界大会がペア戦で始まる。


ゲ-ム会社からは当然彼の元に出場の打診があったが友達が居ないと理由をつけて断った。


関係者意外には秘密で、当然だが他言無用であった。


『ゲ-ムのプロなんて、一生する仕事じゃないでしょ?』

『今だけ良くても、将来は見えない気がするんだ』


社会人の一般的な意見を言うと


『でもyou tuberの人も最初は、みんなに認められていなかったけど』

『今じゃ、小学生の憧れの職業になっているじゃないですか?』

『将来は分からないですよ』

『今からプロを目指して、みませんか?』と提案してきた。


昔から、やってる好きなゲ-ム


ただ、それだけだと思っていた。


『女神ちゃんが応援してくれるなら、頑張ってみるかな?』

自然と彼から出た言葉だったが

『GODさんなら、絶対に成れますよ』

『アタシが保証します』と

彼女のテンションが一気に上がってきた。


『今日はゲ-ムを教えて貰いたかったのも、あったんですが』

『世界一に成った人に会いたかった、って言うのもあったんです』


『頂点を取った日には何か秘訣がある筈だから、アタシも上昇していくには、どうしたら良いのか?』


『その人のパワーを分けて貰えるんじゃないかな?って期待していたんですよ』と、彼女の想いを語ってくる。


『GODさん、コッチを向いて下さい』

そう言って方向転換を求めてきた。


『え、こう?』

そう言って身体を180度回転させると、絵色女神の顔が目の前にあった。


その距離15cm、ちょっと頭を動かせば彼女の唇に触れてしまう距離だ。


『アタシは絶対に負けませんから』

『GODさんも頑張ってください』と

大きな瞳で立花の目を見つめながら宣言してきた。


『それって、俺にライバル宣言したって事?』と聞くと


『敵とかライバルじゃないです』

『トップを目指す者の同士、戦友の誓いです』


彼から目線は外さず、彼女が熱く語る。


『がんばります』

そう答えている立花だが、至近距離での美少女の、どアップに


『この可愛いさで言われたら、逆らえないだろう』と考えていた。


『プロに成れる機会が、あったら挑戦してみるよ』

その言葉を聞いた彼女は、我がごとのように

『絶対ですよ、約束しましたからね』

そう喜んでいた。


それから他愛のない話をしていた彼女のクチカズが少なくなり


やがて可愛い寝息を立てて寝てしまった。


すぐにでも、キスが出来る距離


『無防備過ぎだろ?』


思わず、そう呟いてしまう。


彼女の可愛い寝顔を見ていた彼が、そっとベッドから降りた。


時間は朝4時を過ぎている。


会社に行くのに、毎朝6時30分に起床している彼は寝られる時間を逆算して


『寝れて2時間チョイ』

『中途半端に寝ても、かえって寝不足がキツイかな』

そう自問自答して寝るのを諦めた。


朝メシは自分の分は無いにしても彼女の分は用意してあげないと


昨晩のカップ焼きそばだけで、テレビ局に行かせる訳にはいかない。


そんな事を考えて歩いて5分のコンビニに向かう事にした。


彼女を起こさないように静かに鍵を閉めて、朝早くコンビニへ向かう。


往復10分で行って帰れるハズのコンビニから帰って来たのは30分後だった。


若い女の子が朝に何を食べるか?


コンビニに行けば何とか、なるだろう。

たかを、ククッていたが逆だった。


パンやサラダの種類の多さで、すでに選択不可能だったのだが


スムージ-や、ラテを選ぶ時には寝不足も重なって迷っていた物を全て大量購入となっていった。


アパートに帰ったら、彼女は居なくなっているのでは?


そんな不安が、あったが


帰るとベッドの上で大の字になって寝ている。


『あれじゃ俺はベッドから落とされていたな』

苦笑しながら、彼女の寝姿を見ている。


サンドイッチ3つ、おにぎり4つ、サラダが2つ

飲み物が5本


女の子が一人で食べるには多過ぎだ、彼女はギャル曽根ではない。


『一人じゃ食べきれないよな』

テ-ブルに並べられた食料を眺めながら

『俺も少し、食っておくか』


おにぎりを一つとサンドイッチを1袋選び、早めの朝ご飯をひっそりと食べる。


いつもと違い熟睡している人間に気を使って身支度をすると


余計に時間が、かかり


あっというまに7時を迎えていた。


押し入れにあったA4サイズの紙を引っ張り出して

寝ているビ-ナスに宛てた置き手紙を書いている。


『収録、頑張ってね』


もう二度と会う事がないだろう天使のような寝顔に語りかけ、彼は会社に向かった。


それから1時間30分後の9時になり彼女が目を覚ました。


『GODさん?』

寝ぼけながらも、昨夜の記憶を辿って部屋の主を探していたが


やがてアパートに一人だという事を理解して

『アタシやっぱり寝ちゃったんだ』とひとり呟いた。


彼女も女性なので男が女に何を求めてくるかは分かっていたので朝まで、起きているつもりだった。


そして自分のスマホの録画ボタンを止めた。


もし寝てしまって、その間に何かをされていたかが、わかるようにベッドに入ってからスマホを録画状態にしていたのだ。


自分が寝ている状態を全て見終わった後

『本当に良い人なんだ』と

嬉しそうに微笑みながらスマホを閉じた。


そしてテ-ブルに並べられた朝ご飯と、置き手紙に気づいた。


女神ちゃんへ


ぐっすり眠っているので、起こさずに会社に行きます。

朝ご飯をコンビニで、買っておきました。

残った分は良かったら昼ご飯にしてください。

昨夜の方法だったら、収録は成功すると思うので頑張ってください。

テレビで必ず見ます。

部屋の鍵は家を出る時に郵便ポストに入れておいてください。

あと事務所まで歩いて行くなんて無謀な事はやめてください。

少しだけど交通費を置いていきます。

これは返さなくて良いです。

頑張っている女神ちゃんへのカンパなんで。

グループで一番に成れる日を信じてます。


            GODより


おにぎりの下には一万円札が置いてあった。


彼女の中で昨夜からの事が一気に思い出されていく。


ネットカフェから自由が丘に押しかけてきて、トイレを貸せ、風呂を使わせろ


晩御飯を食べさせて貰い、番組収録の為に徹夜で特訓をしてくれた。


そして手持ちが無い自分の為に朝ご飯と昼ご飯の差し入れ


多過ぎる交通費という名目のカンパ


彼女の目から涙が溢れていく。


『こんなにされたら好きになっちゃうじゃん』


嬉しさに溢れているような彼女の表情はキラキラしていた。


『立花 隆さん、覚悟してくださいね』


そう言った彼女は何かを決意したようだった。


その後、自分のほっぺたを手で軽く叩いて気合いを入れた彼女はテ-ブルに並ぶ朝ご飯を眺めた後


サンドイッチを食べながら、置き手紙を何回も読み直していた。











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