女神様がお泊まり 2
カップ焼きそばを食べ終えた後、本題であるエクシブハンターのレクチャーが始まった。
うさぎの耳が大きく飛び出したスマホカバーをビ-ナスが出してゲ-ムを起動させる。
彼女が操作しているのを彼が横から覗き込む姿でメインメニューの画面となった。
女の子のアバタ-が森の入り口に立っているが、服装は薄っぺらい白いワンピースだ。
課金をしたり経験値が上がると華やかな服になったり装飾品を付ける事も可能だが
最近始めたばかりの彼女は初期モ-ドなので靴すら履いていない
『森の入り口から中に入って』
彼の指示に従い彼女のアバタ-は進んでいく。
『これキライ』
彼女がそう言った理由は彼女のアバタ-の前に、オ-クが立ち塞がったからだ。
『いつも、この人に負けちゃうんです』
そう言ってアバタ-をオ-クから逃がした。
『ちょっと待って』
『横の木を何回か叩いて』
逃げようとしていたのを止めて、少し大きな木を叩くように指導した。
『こうですか?』
そう言って彼女が大きな木を叩くと、木から棍棒が落ちてきた。
『バットですか?』
そんな可愛い質問をして来た彼女に
『こんぼうだよ』と優しく伝えて
『この棍棒が初期モ-ドの武器だから、拾って』と彼女に教える。
『わかりました』
そう言った彼女は棍棒を拾い、さっきのオ-クに会った場所に戻る。
そしてオ-クに再会すると、横にいる立花をチラッと見て指示を仰いできた。
『この距離で、オ-クの頭の上で画面を指先で押さえながら円を描いて』
彼の指示通りにするとオ-クが棍棒で叩かれて撃退された。
『ヤッタ〜』
彼女が大喜びをしている横で
『これが基本の攻撃パターンだよ』と操作方法を教えていく。
『オ-クだと一回叩けば倒せるけど』
『人間相手だと5回叩かないと倒せない』
『対戦の時も、棍棒で叩いたり、新しくゲットしたアイテムで倒す』
基本的な操作方法を色々と教えていくと、真綿が水を吸い込むように
どんどん技術を吸収していった。
『オ-クやゴ-レムが倒れている隙に、パズルゲ-ムをクリアして』
彼の教え方が上手いのか?
彼女の飲み込みが早いのか?
そうこうしているうちにレベル30までレベルアップしている。
最初はゲ-ム音痴だと思い込んでいた彼だか
才能があるのでは?と思い始めてきた。
最初に指導を頼まれていた時のレベルは既に達していたが
真剣に覚えようとしている彼女の姿勢に感銘を感じて
『女神ちゃん、必殺技も覚えちゃう?』と更なる技の伝授を提案すると
『何ですか?必殺技って?』と興味津々で尋ねてきた。
『いったん森の入り口まで戻って?』
次の操作方法を彼が伝えるが
『ここまで来たのに、戻っちゃうんですか?』と少し不安そうに尋ねるが彼に言われた通りに従う。
『その途中の大きな岩』
『刀で叩いてみて?』
言われた通りにすると岩に穴が開いてワ-プが出来て、森の入り口に出れた。
『すごい、すごい』
そう言って喜ぶ彼女に
『今度は森の入り口の看板を叩いて』
そう言われ、アバタ-が従うと
キラキラと輝く星が、現れてビ-ナスのアバタ-を包み込んだ。
すると、先ほどのワ-プ前のステ-ジに戻ってきた。
『ここでパズルゲ-ムをしてみて?』
そう次の指示をして彼女が従うと
『すごいアイテムが、どんどん落ちてくる』と彼女が大喜びをする。
『確変に入ったみたいに無双モ-ドになるんだよ』と彼が説明するが
『かくへん?』とパチンコを知らない彼女には耳馴染みの無い言葉だったが立花は解説を続けていた。
敵が負けると装備品やアイテムを落としていく。
それを道具屋で売ったりして換金していき彼女の身なりも、かなり良くなってきて
赤と黄色の戦闘服に防具で身体を守りつつ、青銅製の刀と鉄の盾を装備していっぱしの冒険者に成っていた。
レベルも42まで上がり
『半年くらいプレイしている人と変わらないよ』
『明日の収録で恥は、かかないんじゃない?』と
彼のお墨付きを貰い
『嬉しい』と笑顔で喜びを爆発させている。
そろそろ終了しても良い頃だろ?
『レクチャーしようと思っていたレベルより、2倍くらい上達したから』
『そろそろ終わりにしようか?』
そう彼が提案したが、彼女はスマホを持って下を向いたまま答えてこない。
『女神ちゃん?』
立花の問いかけに彼女は蚊が囁くような小さな声で
『はい』と答える。
様子がおかしいと思った彼が彼女の顔を覗き込むと、クルッと彼に顔を向けて
『GODさん.今晩ココに泊めて貰えないですか?』と意を決して懇願してきた。
『と、と、泊まる?』
予想だにしていなかった彼女の発言に動揺を隠せない彼が
『泊まるのはマズいだろ』と言った後に
『レクチャーが終わった後にマネージャーさんを呼ぶものかと思っていた』と
彼が予測していた今後の展開を伝えると
『そんな事したら、アタシはクビになっちゃいます』と慌てて説明する。
『ウチのグループ、男女交際は厳禁なんです』
『それが男の人のアパートに迎えに来て貰うなんて絶対にダメです』
『それに、こんな真夜中だし』
スマホの時計は深夜2時30分を回っている。
立花は
俺も明日は仕事なんだが、と
クチに出せない思いを飲み込む。
『それなら知らない男の家に泊まるなんて、絶対に御法度じゃないか』
そう彼が言うと
『立花さんは、もう知らない人じゃありません』
『私のわがままに付き合ってくださって』
『ここまで、良くして頂いた人は私の人生では、いませんでした』
『本当に信頼できる人だと思ったからお願いしています』
うるんだ瞳の美少女に、ココまで言われている。
だが彼女と一部屋で朝まで2人きり、ベッドは一つの状況で
僕は狼になりません、なんて絶対に誓えない。
ここは心を鬼にして言わねば
『スト-カ-も今日は来てないんじゃない』
そんな根拠のない提案をすると
『家のドアにビ-ナスちゃんの家を見つけた、って張り紙があったんです』
『もう怖くて家に帰れません』
そりゃあ怖くて帰れないな。
だが彼女の貞操の危機じゃないか?
そう考え直して
『ビジネスホテルに泊まったら?』と
新たな提案をすると
彼女は何も答えず黙ったままとなった。
追い出していると思われたかな?
心配になった彼が何も答えない彼女に
『女神ちゃん、大丈夫?』と聞くと
『すいません、ホテルに泊まるお金が無いんです』
『廊下の端っこでも良いです』
『朝まで置いて貰うのもダメですか?』と
訴えてきた。
お金がない?
アイドルから出た予想外の言葉に
『サイフを自宅に置いてきちゃったの?』と
彼が質問すると
『サイフはありますけど、ネットカフェ代と電車代で無くなっちゃって』と実情を話し始めた。
彼女は権太坂のメンバーであるが見習い扱いなので月15万円の給料制だった。
住んでいるマンションは事務所が借りてくれているので家賃はかからない。
だったら手元にだいぶ残りそうだが、彼女は実家に月10万円を仕送りしていた。
5人兄弟の長女である彼女は家族を楽にしたくて芸能人になった。
両親は健在だが裕福ではない生活、芸能人になれば年収は数千万と素人はイメージをしてしまいがちだが、全員がそうではない。
少ない給料で仕送りをしているので自分は、いつもギリギリな生活
そこにスト-カ-が登場して予想外の出費の連続だった。
今日もテレビ局の昼に出された弁当を食べた後は何もクチにしていなかった。
カップ焼きそばを食べるまでの12時間、育ち盛りの17才がご飯抜きだったのだ。
すべてを吐露した彼女はスッキリしたようで
『こんな、みすぼらしいアイドルなんていませんよね?』
『図々しいお願いばかりして、すいませんでした』
『歩いて事務所のある中野まで行きますね』
すべてを諦めたような彼女の表情を見た立花は
『ウチで良かったら泊まって』と
彼女に逆にお願いをしていた。
『でも迷惑なんじゃ、ありませんか?』
今までの彼の態度から180度の方向転換に、戸惑いを見せた彼女が聞くと
『女神ちゃんエラいよ』
『その年で仕送りなんて』
『俺がもっと早く気づいてあげれたら良かったのに、ごめんね』と謝りだした。
その姿を見た彼女が逆に恐縮して
『謝るなんて、やめて下さい』
『私が最初に全部言わなかったのが、いけないんです』と
彼女も謝りだした。
『中野まで歩くなんてダメだよ』
『夜中に1人で歩いているなんて危険だ』
独身男の1人暮しアパートに泊まるのと同じリスクを否定して彼女はボロアパートに泊まる事が決定した。
何度も頭を下げてお礼を言う彼女は嬉々としている。
だが、現実として6畳間にシングル用のベッドが一つあるだけで
客用の布団なんて無いし、座布団すら部屋には存在しない。
ビ-ナスは床で良いと言っていたがアイドルを床でザコ寝させる訳にはいかない。
『女神ちゃんはベッドで寝て』
『俺は下で寝るから』
ゲ-ムを終了して寝る準備を始めた彼が、そう提案すると
『そんなのダメです』
『GODさんがベッドで寝てください』
『アタシは床で大丈夫です』と提案してきた。
『お客さんを床に寝かすなんて出来ないし』
『床で寝てアザが出来たら、明日の収録でマズいでしょ?』そう言った彼の言葉に彼女も黙るしかなかった。
実際、ゲ-ムをしていた時もフロ-リングの床が直座りでいて
痛みで何度もポジションを動かしていたのを思い出していたのだ。
少し悩んでいた彼女が閃いたような明るい表情に変わり
『いいアイデアが浮かびました』
『ベッドを半分こで、寝ましょう?』と
とんでもない提案をしてきた。
『半分こ?』
驚いた彼が聞き返すと
『GODさんも細身だし、アタシも小さいから』
『横向きなら寝れますよ』と嬉しそうに発表してきたのである。
唖然としている立花に
『私、実家にいた時は弟たちと3人で一つの布団で寝ていたから慣れてます』と言ってきたが
弟たちにヒゲは生えていないだろう。
寝返りをうったら、そのまま覆い被さってしまうのでは?
横でゲ-ムをしている時でさえ、衝動を抑えるのが苦しかったので
何度も
『俺は床に寝る』と彼が言い張ったのだが
結局は彼女に押し切られて、狭いベッドに2人で寝る事となったのである。




