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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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街の叫び声

街の姿は、時に生き物を思わせる。


”息を詰める”という形容が、今ほど相応しい瞬間はないだろう。

あれほどざわめいていた人の姿が、いつの間にかほとんど見られない。

声もしなければ、物音さえもない。しかし気配は決して消えていない。


誰もが身を潜め、時を待っている。

次に誰かが声を上げた時。それは、間違いなく街が”叫ぶ”時だろう。

皆、その瞬間を待っている。

誰が声を上げるかは、分からない。しかしきっかけとなる人間が誰か、

それだけは全員が分かっている。


第一王女、メリゼだ。

間もなく、彼女はここへ現れる。


街の叫びを解き放つために。


================================


正午を回った。


ほぼ真上からの日差しが、送酒管の複雑な影を地面に描き出している。

よく見てみれば、影のあちこちには不自然な出っ張りが散見される。

考えるまでもなく、身を潜めている襲撃者たちの影だ。もはや、そこに

隠そうという意図はない。どのみち王女が来れば全てが明らかになる。


後は、その時を迎えるだけだ。


そして。

あまりにも張り詰めた静寂の中に、遠くから車輪の音が聞こえてきた。


ガラガラという規則正しいリズムが次第に近づいてくる。迷いもなく、

まっすぐに目抜き通りを直進する。それはまるで、全てを受け入れて

この場をあるべき姿に戻そうとしているとさえ思わせる力強さだった。

顔も姿も見えないその場の全員が、ほぼ同時に揺るぎない確信を抱く。


来た、と。


================================


ガラガラガラガラガラッ!!


マス目状に舗装された石畳の道を、6頭立ての馬車が疾駆してきた。

さすがに華美な装飾などは一切ないものの、その作りの確かさは確実に

貴賓の乗るべき馬車だ。どちらかと言うと、頑丈さを求めた姿である。

華美な装飾以上に、その堅牢な姿が確信の裏づけとなった。


間違いない。あれだ。


次の瞬間。


ガラガラッ!!


何の前触れもなく、馬車の進行方向でけたたましい音が響いた。

それは道の左右から、無数の大樽が同時に転げ出してきた音だった。

道の中央で激突したその樽は一斉に破裂し、中から赤い酒が溢れ出す。

その轟音と鼻を突く強烈な香りに、馬がほぼ同時に足を止めた。


ギギィィッ!!


急停止による慣性を相殺し切れず、馬車が悲鳴に似た音を立て揺れる。

振り落とされそうになった御者が、何とか踏みとどまったのが見えた。


一瞬の静寂。


そして


「やれえェェェェ!王女を馬車から引きずり出」

「伸ばせアミリアス!!」


頭上で、2つの声が交錯した。


================================


ドドドドドドドドドドドドン!


送酒管を吊り下げる仕切りの板が、一気に10枚以上貫かれた。

その隙間に陣取って弓を番えようとしていた男たちもまた、出し抜けに

飛び込んできた刃に胴を貫かれる。ほんの一瞬で、号令をかけた男を

含めた全員が物言わぬ骸と化した。


ギュン!


最後の板を貫通していた二番刀が、一気に収縮して引き戻される。

串刺しの支えを失った骸が、同時にその場に崩れ落ちた。


しかし、号令は確かに場の全員へと届いていたらしい。

一瞬の間はあったものの、ほどなく周囲から怒声が響いてきた。

身を潜めていたと思しき者たちが、足場の悪さをものともせずに得物を

振りかざし、立ち往生している馬車目掛けて高所から襲い掛かる。

鉤縄を送酒管に引っ掛けて降下し、馬車の近くに降りたつ算段らしい。


それとほぼ同時に、地上でも戦端が開かれていた。

大樽が転がってきた路地の奥から、思い思いの得物を手にした襲撃者が

雄たけびと共に駆け出る。そこに、身を潜めていたらしい別の一団が

横から襲い掛かる。容姿からして、冒険者パーティーの者たちらしい。

明らかに、襲う側と迎撃する側には見た目に違いがある。同士討ちを

避けるための措置だろう。しかし、それは数の優劣を雄弁に物語る。

明らかに、迎撃側が少なかった。


と、その刹那。


ダアン!

ダアン!

ダアン!


凄まじい落下音と共に、馬車のすぐ傍らに襲撃者が落ちてきていた。

固い石畳に叩きつけられたその体は捻じ曲がり、全員が絶命している。

手に握っていた鉤縄は、途中で切断されていた。


「甘い甘い。隙が多いよ。」


頭上のか細い足場に立って見下ろすのは、短刀を携えたガンダルクだ。

ほとんど手がかりのない場所に飛び渡った彼女が、鉤縄を切っていた。


「何だてめぇはァ!!」

「殺してやる!!」


同じように降下を目論んでいた数人の男が、ガンダルクに襲い掛かる。

しかし、それは場所を考えれば無謀な行為だった。ギリギリで攻撃を

かわしたガンダルクは、なおも柱に絡み付いていた鉤縄の端を握ると

パッと虚空に身を躍らせる。一瞬、男たちは彼女の姿を見失った。

その一瞬が命取りだった。


ダンダンダン!


短い軌道でぐるりと回転したガンダルクの蹴りが、その場に並んでいた

男たちの膝裏を捉える。バランスを崩した男たちは、そのまま仰向けに

落下していった。


「てめえ!!」


しかし、なおもすぐ上の管の上には剣を持った男が残っている。

遠心力がなくなった時点で、虚空にぶら下がるガンダルクはいい的だ。

彼女が停止する場所を目測で定めた男が、突きの構えで待ち構える。


しかし彼女の次の挙動は、男の予想を完全に裏切った。

足場が無いにもかかわらず、手を離して虚空に身を躍らせたのだ。


「何だと…」


ドスッ!!


視線が逸れた瞬間。

斜め下から伸びてきた二番刀が、男の体を貫いて背後の柱に刺さる。

何が起こったのか察する間もなく、男は立ったまま骸と化した。


「いよっと!」


二番刀の刀身の真下で、ガンダルクは手にしていた短刀を素早く鞘に

カチンと納める。刀身を挟んで両手で握る短刀は、滑車のような格好で

一気に彼女の体を滑らせた。切れ味を消した刀身と鞘が、摩擦で火花を

バチバチと散らす。滑り降りてきたガンダルクを、下で迎えたルクトが

片手で抱き止めた。


「大丈夫か?」

「もちろん。ありがと!」

『無茶もほどほどに。』


ギュン!


伸ばしていた刀身が戻り、ルクトはいったん二番刀を鞘に納める。


「乱戦だな、早くも。」

「盛り上がってるねえ。」


見下ろす光景は、まさに混沌の様相を呈している。



ウォレミスの街の叫びは、留まる事を知らなかった。

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