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1-9 別れ道

 カリカリカリカリ…

 シャーペンの音が部屋に響く。勉強会とはいっても、基本は自分の力で進めるもの。比較的真面目な面子が揃っていることもあり、会は黙々と進んでいく。…というのが理想なのだけど。一時間もしないうちに、灰崎が動き出した。コトリ、とシャーペンをおくと、アヤの後ろにまわる。視界の隅で動く彼女を目に留めながら、スルー安定、なんて思っていると、不意に大きな声が上がった。


「そいやぁっ‼」

「ふぃやぁぁぁっ?!」

「いや何してるの…」


 後ろにまわった灰崎が、アヤを後ろから激しく抱き寄せていた。集中していたアヤは、突然の衝撃に動揺を隠せずにいる。というかめちゃくちゃびっくりしていた。


「突然何するの藍花!びっくりしたじゃない!」

「いやだって勉強飽きたねんって。こんなん二時間も三時間もしとれるかいな。てか全員ようそんな集中できるな」


 勉強会の発起人が酷い事を言い出した。


「まあ確かに勉強とはつまらないもののように感じがちだけどね。にしても灰崎よ。言い出しっぺがそれなのはどうなんだ」

「なんや玲二調子乗っとんか玲二の癖に」


 急に説教されて急に灰崎が冷たい顔になる。まあそれはそれで怖いけど、横で何かを感じていらっしゃる人のほうが余程怖い。


「ふふっ。今日も良い顔と声だ。気持ち良い。いやそれはおいておくとして。灰崎、課題は終わったのか?」

「触れんとくわめんどくさい。当然やん。というか授業のとこは授業の日にやっとるから、改めてやらなあかんとこないんよな。というわけで今日は遊びにきたんですぅー!」


 そういうと灰崎はまたアヤに抱き付いた。二人は本当に仲が良いけど、アヤの課題の現状は良くない。現に、灰崎のセリフを聞いて、信じられない、というような顔をしていた。


「ちょっと藍花すとっぷ、すとっぷぷりーず!私はまだまだなの!というか課題がもう既にわからないの!!」

「え?そこまでやっけ?」

「ごめんよ…教えてください…」

「灰崎。誰もが君のようにホイホイ出来るわけではないのだぞ」

「えぇー。でもほら、愁みてみ」


 突如向いた矛先に動揺しつつもノートを見せる。僕も課題は早めにやるタイプなので、既に終わっている。テスト勉強が終わったわけではないのと、今回は特に勉強量が少ないので勝手に勉強していたのだけど。その中身が課題ではないことに気が付くと、玲二とアヤは溜息をついた。


「いや僕も成績が悪い訳ではないけれどね。さも当然のように課題が終わっているのを見ると、溜息もつきたくなるというものだよ。まだ一週間前に入ってもないというのに」

「玲二がこっちよりで良かったよ〜。私あの二人見てると勉強する気になれないよ、特に藍花」

「なんでやねん!」


 思わずツッコんでいる灰崎。実際、普段勉強してる素振りなんて見せないものだから、まさか成績上位者だとはあまり思えないのも納得だ。


「ところで、何処がわからないの?アヤ。こっちはキリもいいし教えたげるよ」

「ほんと?ありがとう。ここの関数の場合分けなんだけど」


 解説タイムに入り、話し相手のいなくなった灰崎はしぶしぶ自分の場所に戻る。玲二を意味もなくつねって遊びながら勉強しているようだ。玲二は…喜んでいるからそっとしておこう。わちゃわちゃと、それでも順調に進むテスト対策だったけど、それはたった一つの音によって破られた。


 ピロンッ♪ 


 現代で聴くことは絶対にない、無機質な高い音が部屋に響いた。灰崎と玲二は顔を上げたままポカンとしている。しかし、状況を一瞬で理解してしまった僕とアヤは、その凍り付いた表情を見合わせていた。背中を一筋の冷や汗が流れていくのが皮膚越しに伝わる。小さな部屋は、長い静寂に包まれた。その沈黙を最初に破ったのは、低く、静かな声だった。その声の主は、目を閉じ、少し思案したかと思うと今度は目を開き、悲しそうな、しかし諭すような表情で、こう呟いた。


「…愁。今の音は、一体何だ?」


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