049 俺より強い奴に
(状況だ。まずは冷静に状況分析をしよう。先の一合で感じたことは、この勝負で奴は自分から仕掛ける気は無いということだ。あくまでカウンターのみで俺を無力化する魂胆だろう。これもハンデのつもりなんだろうが、付け入る隙はそこにある。
しかし悔しいことに俺の剣技は奴の剣技に圧倒的に劣っている。純粋な力のみでの戦いでも確実に奴に敗北するだろう。技量では勝てない、だからと言って純粋な力にも頼れない。だがこれは殺し合いではなく、あくまでも試合。定められたルールの中でどちらが一本取るかの勝負だ。手段を選ばなければいくらでもやりようはあるはずだ。
ならば、ここは悔しいが【抜刀】だけの勝負は諦めるとしよう)
三月はそこまで考えて薄っすらと口元に笑みを浮かべた。それを見て、日奈は、
(この状況で逆に冷静になるとはぁ、流石はナッチーの息子だねぇ〜。アタイの説教のお陰でぇ、自分の剣技がどうあるべきなのか、それを理解したみたい)
感心したように日奈は内心でそう呟いた。
(俺がこの場で選ぶ最大の武器は【識】だっ! そして集中力を最大まで高めた上で、相手の全ての動きを先読みして【抜刀】を叩き込む!)
正に日奈の言う通り、三月は【抜刀】を鈴子のコピーから自分だけの業へと昇華させていた。これから行われるのは【識】と【抜刀】の合成。三月だけの剣技。
(日奈は恐らく攻撃を見切る能力が抜群に高い。つまり、俺の視線から攻撃部位を見抜くことも可能という事だ。人間は自然と自分が攻撃しようとしている部位を見据えてしまうものだからな。俺が踏み込む素振りを見せた時、奴は俺の視線を読んでどこをどのように攻撃してくるのか、それを分かった上で対処してくる。ならば……)
そこまで考え、三月はまるで精神統一でもするかのようにまぶたを下ろした。それを見た日奈はよもやそのような手を打ってくるとは予想だにしていなかったのか、珍しく驚いたように目を丸くする。
(成る程ぉっ! アタイが攻撃の直前に視線から刀の軌道を読んでいるのなら、視線を悟られないように目を閉じる! 中々良い対処法だねぇ〜? でもぉ……自分の視界を潰して、アタイに攻撃を当てられるのかなぁ〜?)
三月のスキルのことを知らない日奈はそう考えて不敵な笑みを浮かべた。
(まずは、奴の剣技の癖を解析するところから始めよう。そうすれば自ずと隙も見えてくるはずだ)
そう考えると同時に三月は【縮地】で一気に日奈との間合いを詰めると、目を閉じた状態のまま【居合】を放つ。日奈は迎え撃つように右の刀でそれを受け止めると、左の刀で逆袈裟に切り上げる。その一撃は鍔迫り合うこの状況では到底避けられるようなものではない。しかし、
ギィンッ!
「あっれ〜!?」
日奈が振るった左の刀は三月に触れる寸前で見えない何かによって受け止められていた。その何かとは、三月お得意の《存在力》を利用して生み出した不可視の刃であった。
三月は予め【識】の[解析]を使って、日奈が攻撃を仕掛けてくるであろう数十通りの軌道を割り出し、その中で最も確率が高かった場所に刃を設置しておいたのだ。
(《存在力》ぅ〜? まさか剣技にそれを組み込める剣士がいるなんてぇ〜、ちょっと驚きかもぉ)
そう、《存在力》とは《魔法力》や《生命力》と違って非常に扱いが難しい。その上とんでもなく集中力を必要とするため、剣技に組み込んで扱うなど普通の人間には到底不可能だ(そもそもそんな力があると知っている者すらほとんど居ない)。
しかし、三月はいとも簡単に《存在力》を操っている。尋常ではない集中力である。
至近距離で真っ向から対峙し、カチカチと刀を鳴らしながら鍔迫り合う2人。いつまでも続くかと思われたその拮抗を破ったのは意外にも三月の方であった。
三月はすっと一瞬だけ腕の力を抜くと即座に【八式】を引き戻し、僅かに体勢の崩れた日奈へと向かって【八式】を抜き放つ。日奈は右の刀でその一撃を受け止めようとしたが、その一撃は一撃ではなかった。
《存在力》が込められた【八式】の刀身は、扇状に連なる不可視の刃と共に右の刀の腹へと叩き込まれ、日奈の腕ごと後方へと大きく弾いた。
まさかこれほどまでの衝撃がくるとは日奈にも予想できなかった。
【牙連】。一撃にして連撃の剣技であり、先日盗賊が切り札として作り出した【封魔結界】を破壊した攻撃と同じものである。
大きく体勢を崩す形となった日奈は、即座に体勢を立て直そうと右の刀を引き戻そうとする。が、その隙に日奈の懐へと入り込んだ三月はカッと閉じていた目を見開くと、トドメと言わんばかりに全力を込めて【八式】を抜き放った。
獲った、と三月は確信した。日奈の左の刀は三月の不可視の刃が押さえつけており、右の刀も引き戻して防ぐ時間は無い。このまま行けば確実に三月の一撃は日奈に直撃し、ルールに則り三月の勝利となる。……はずだった。
【八式】が日奈の肌に触れようとしたその時、三月は信じられない光景を目の当たりにする。
突如、日奈とその周囲の空間が……何と歪んだ。
その現象を三月が理解するよりも先に、確実に攻撃が当たる軌道に居たはずの日奈が空間の歪むと同時に消滅し、【八式】は元通りになった空間をただ空振るだけに終わった。
三月は呆然と日奈が消えた空間を見つめると、訳が分からないといった様子でこう呟きを漏らした。
「い、一体何が……?」
「いやぁ〜、今のは危なかったぁ〜」
そう声が聞こえ、ハッと我に返ったように顔を上げると、そこには三月から5メートルほど離れた位置に立っている日奈の姿があった。
「うん、良い一撃だったよぉ〜。あれなら他人の力じゃなくてぇ、君の力だと認められるかなぁ〜」
そう言って満足そうに笑う日奈だったが、一体彼女が何をして先の一撃を回避したのかが分からず、三月は必死に理解しようと思考を巡らせる。
(一体今のは何だ……? 高速移動? それとも何か特殊な歩法でも身に付けているのか? ……いや、それにしては一切の初動も無いのはおかしい。瞬間移動か? 違うな、さっきの歪みは空間そのものが歪んでいた。周囲の空間を歪めて、離れた空間と繋げる事で擬似的な瞬間移動を可能にしている? ……いずれにせよ、奴はそういうスキルを持っているという線が妥当だろう)
歪みに関してそう分析を下す三月だったが、内心では目が回るほどの混乱と焦りに苛まれていた。確実に決まると思っていた攻撃をこうもあっさりと避けられてしまっては三月でなくとも焦るだろう。
そんな三月の内心を感じ取ったのか、どこか不敵な笑みを口元に浮かべながら彼女はこう言った。
「にゅふふ〜、どうやらぁ驚いてるみたいだねぇ〜? まさかぁ、アタイもこれを使わされるとは思ってなかったよぉ〜。君、結構やるじゃなぁ〜い」
「今の瞬間移動が、お前のスキルなのか?」
三月がそう訊ねると、日奈はどこか意味有り気にくすりと微笑みを漏らしこう言った。
「にゃは〜。確かにぃ、今のはアタイが持つスキルのぉ〜、数ある能力の内の1つだよぉ〜。まあ〜、具体的な能力は教えて上げな〜い。バラしちゃったらぁ〜、面白くなくなっちゃう」
一体何が面白くなくなるのか分からなかった三月だったが、ふと日奈の称号に【戦闘バカ】があった事を思い出した。
多分だが、純粋な戦闘者である日奈は、自分の情報を明かすことで戦いの面白味を薄めることを良しとしないのだろう。彼女にとって三月のような一筋縄ではいかない相手との駆け引きは至上の楽しみなのだ。
という事は、三月は日奈にとって最高の好敵手と言っても過言では無い。あからさまに力や技術が劣っていようとも、その差を埋めるべく最大限の努力を尽くす。その姿は誇り高き戦闘者そのものであった。
そんな三月だからこそ日奈も好敵手と認め、切り札の内の1つを切ったのだ。
「さぁ〜て、そろそろ決着をぉ〜……付けよっかぁ?」
のんびりとした口調で日奈がそう告げた途端、彼女が纏う雰囲気が一変した。
先ほどまで取っていたカウンターを狙った受身の姿勢から、相手を一方的に叩き潰すかのような攻めの姿勢へと移行した彼女の姿はまるで猛獣。否、それ以上の気迫と熱意が込められているように感じられる。
肌をザクザクと突き刺すような鋭い威圧に、三月は思わず顔を顰めた。今の日奈からはそれほどまでに耐え難い力の奔流が感じられる。
その姿は剣の鬼……まさしく【剣鬼】!
日奈は両腕の力を抜き、ゆらりと双刀を垂らすように脱力する。
「……今から見せるのは、アタイが持つ剣技の1つ。この技が決まった時、あなたは確実に立ってはいない」
日奈はそう告げるとすぅっと表情を消し去り、ただ無言で佇みながら警戒の色を浮かべる三月に視線をぶつける。
日奈は三月のことを誇り高き戦闘者、自らの好敵手に足る存在であると認めている。日奈にとって技を見せるという行為は、衣服を脱ぎ去りありのままの姿を見せるのに等しい意味を持つ。自らの心と体を長きに渡って捧げて鍛え上げてきた剣技は、既に己の全てと言っても過言では無いだろう。
だが敢えて、彼女は技を見せる選択をした。それは誇り高き戦闘者である夜白三月に対して最大の敬意を示すためだ。
「さぁ、身構えて…………行くよ?」
――【残影陣】ッ!!
透き通るような凛とした声音で日奈がそう告げた瞬間、突如彼女の姿が消えた。それと同時に三月の【識】が、自身へと向けられた攻撃を示す赤いラインを視界に表示する。
「なっ!?」
自身の体を取り巻くように全方位から向けられる無数の赤いライン。それは即ち、これから日奈が繰り出そうとしている攻撃がどれほど恐ろしいものなのかを言外に突きつけていた。
「くっ!?」
突如背後に気配を感じた三月は振り返ると同時に【居合】を繰り出したが、斬り裂いたのは実体の無い日奈の残像であった。
瞬間、三月の頬を掠めるように日奈が繰り出した刃が通り過ぎて行った。一筋の鮮血を流しつつ、周囲を取り巻く複数にも感じられる日奈の気配を必死に探る。
現在、日奈は三月の周囲を旋回するように高速で移動している。故に日奈の姿は、攻撃を仕掛けてくるその瞬間まで見ることは出来ないのである。
今、三月の視界には何人にも分身した日奈が周囲を取り囲んでいるように見えている。[表示]を使って姿を晒したにもかかわらず、どの日奈が本物の日奈なのか見分ける事ができない。
「くぅっ!」
日奈の二の太刀が三月の腕を掠めていき、更に三の太刀、四の太刀と三月の肉体を削り取るかのような勢いで次々と斬撃が繰り出される。
三月はその身を切り刻まれながらも、何とか致命傷だけは避けるべく回避行動を取り続けるがそれでも日奈の攻撃は無情にも三月に生々しい傷を刻んでいく。
(これは不味いな……全く反応できない)
じりじりと不利な状況へと押されていく中、三月は何の行動も取る事が出来ず、ただ意識だけは飛ばないようにと絶え間なく与えられる痛みに耐え続ける。
ドンッ!
「ぐぅ……あぁっ!?」
突如鳩尾に走った鈍い痛み。それは日奈の刀の峰が三月の胴体を完璧に捉えたからに他ならなかった。
思わずその場に膝を着いた三月の背に、今度こそ意識を刈り取るべく日奈は刀を振り下ろした。
ドギャッ、と鈍い音が響くと同時に三月の体が前のめりに地面に倒れた。
(これは……負けたな)
辛うじて意識を保っていた三月は、トドメの一撃を下すべく刀を振り上げる日奈の姿を見てぼんやりと思った。
端から勝てる決闘だとは思っていなかったが、こうもあっさりと実力の差を見せ付けられるのはちょっと悔しい。
まあ仕方ないか、と朦朧としてきた意識を手放そうとしたその瞬間、三月の意識に直接語りかけるようなあの声が聞こえてきた。
――『負けるのか?』
いつだったか聞いた事のある自分の声とそっくりな謎の声。薄れゆく意識の中、三月は頭の中に響くその声に三月は耳を傾ける。
――『ホンッ……トーに情けねェ奴だなお前はァ! 前にも言ったが、そんな体たらくじゃ俺様の足下にも及ばんぞ?』
「だが、もう俺は……」
――『たくっ……情けねェ。ウルトラスーパー情けねェ!』
自分の内側から響いてくるその不思議な声は、心底落胆したような声音でそう告げると、心底不愉快だと言いたげに鼻を鳴らしこう続けた。
――『たァしかに、お前じゃァあの剣士には勝てねェだろうよォ。だがなぁ、素直に負けてやる道理もねェ。何より俺様が面白くねェ!』
キハハハッと笑いながら、その声は自分勝手にそう言った。
そんなこと知るか、と三月は思ったが確かにこのまま素直に負けてやる道理などどこにも無いのも確かだった。
――『ククク……あの戦闘バカを盛大に驚かせてやんな。ああいうマイペースな女の驚いた顔ってのは、中々笑えるぜェ?』
声は意地悪く笑いながら言った。三月もその意見には同感だった。日奈のようなマイペースな女は大抵のことでは早々驚かない。だからこそ、その驚いた顔を見るのは心底気分が良い事だろう。
――『面白可笑しい結果を期待してる。笑わせてくれよ?』
その言葉と同時に謎の声の気配が遠ざかっていくのを感じる。その時、三月は自分とそっくりな顔をした真っ白な男の姿を見た。
どこかぶっきら棒な態度で手をひらひらと振りながら去って行く男の背中。
やがて男の背中が見えなくなると、三月はハッと我に返り、ぐいんと上半身を捻って日奈のトドメの一撃を寸での所で回避した。それから全身を貫くように走る鋭い痛みを気合で我慢しながら、驚きに目を見開く日奈へと向けて全力で【八式】を抜き放った。
上体のバネを生かして放たれた三月の反撃に、日奈は面食らったように上半身を仰け反らせて何とか凶刃を逃れる。
「ふふっ……面白いっ!! やっぱりぃ、戦いはこうでじゃないとねぇ!?」
すかさず次の攻撃へと移行する両者。全く同時に放たれたように見える2人の一撃。
2人の影が交差する。そして――
――雌雄は決した。
◆◇◆◇◆
2人の攻撃が交差し、立っていたのは……【魔人族最強の剣士】、日奈であった。
全く同時に放たれたような2人の攻撃だったが、ほんのコンマ1秒ほど速く放たれた日奈の一撃は三月の体に深々とめり込み、その体を10メートル以上遠くに弾き飛ばした。
胸に十字型の傷を刻まれた三月は、自らが作った血溜まりにその身を横たえ完全に意識を失っていた。
日奈は三月の傍らまで歩み寄ると、先ほどまでの戦闘を楽しむかのような獰猛な笑みを消し、真剣な顔で血に濡れた三月の事を見下ろしこう言った。
「……ふぅ〜。素晴らしい一撃だったよ」
そう告げた日奈の足下を顎から滴り落ちた鮮血が濡らす。彼女の頬には一筋の刀傷が刻まれていた。
最後の一瞬、意識を刈り取られながらも放たれた三月の攻撃は、日奈の頬を掠めていた。これにより三月はこの決闘の勝利条件を満たしたことになる。そして同時に日奈も三月の意識を奪うという条件を満たしている。つまり、
「引き分けだねぇ。いやぁ〜、おみごとっ!」
心底嬉しそうに笑いながら賞賛の声を送る。日奈の人生の中で、自分に傷を付けた人間は片手で数えられるほどしか存在しない。晴れて三月もその中の1人として仲間入りしたわけだ。
「ミツキっ」
とその時、つい先ほどまで2人の決闘を傍観していたロムが早足に駆け寄ってきた。
ロムは三月の傍らに座り込むと彼の頭を膝の上に載せた。そして突如、自らの指先を八重歯で傷付けると、急いで治癒魔法を発動させる。
「【血癒】っ!」
するとロムの指先から血液が流れ出し、三月の傷口へと流れ込んでいく。そしてみるみる内に傷口が塞がっていき、やがて傷だらけだった三月の体は元通りになっていた。
【血癒】はロムが扱う【血液魔法】の1つであり、ロム自身の血、つまりは吸血鬼の高い《生命力》を宿した血液を使用することにより、一時的に吸血鬼並みの再生力を他者へと与えることを可能とする魔法だ。
三月の傷が塞がったことを確認すると、ロムはホッと安堵の溜め息を吐き、優しげな微笑みを浮かべながら三月の頭を撫で始めた。
「ミツキ、よく頑張ったね」
ロムの細い指先が額に当てられると、三月はどこか安心したように表情を緩め、すぅすぅと規則正しい呼吸を始めた。
そんな2人の姿を見た日奈は、「あれぇ? アタイ空気?」と決闘相手であったにもかかわらず場違いな気分になり首を傾げた。
やがてロムは満足したのか手を止めると、日奈の方へと向き直る。
「はにゃ〜ん、お2人さぁ〜ん、仲良いねぇ〜?」
「ロムはミツキのパートナーだもの。当然だよ」
「あらぁ、そーお? だったらパートナーさん。アタイはそろそろ行かないといけないからぁ、彼が起きたらアタイの言葉を伝えといてくれるかなぁ〜?」
「うん、別に良いよ」
「そっかぁ〜、それじゃぁ〜よく聞いてねぇ? ……『君も君の刀も良いセンスだった。またいつかお手合わせしてね』、いじょ〜。ちゃんと伝えといて」
「うん、一字一句そのまま全部伝えとく」
「あ〜、後ねぇ、ナッチーの情報だけどぉ、こう伝えといてぇ〜。『3年前、魔国にて姿を目撃。目撃者はアタイ』ってね。もっと詳しい話を聞きたかったら魔国まで来て。その時はたっぷり歓迎してあげる。んじゃ、よろしくぅ〜」
そう言って立ち去ろうとする日奈だったが、ロムは慌てて彼女を呼び止めた。
「あっ、ちょちょちょっと待って!」
「んん〜? 何かなぁ?」
「ミツキから、もし決闘が終わった時に自分が気を失っていたら伝えておいて欲しい事があるって言われてたの。聞いてくれる?」
「良いよぉ〜、言ってみて?」
「それじゃあ。『俺より強い奴に、会わせてくれてありがとう』だって」
三月は少なからず自身の力に対する驕りがあると自覚していた。勇者にも匹敵するその力に溺れ、いずれ高みを目指す事をやめてしまう。そんな危機感を抱いていた。
だが、日奈によって自身の力がまだまだだということを教えられた。だからこそ、自分より強い相手に出会えたことが嬉しかった。
三月からの伝言を聞き、日奈は嬉しそうにへにゃりと微笑むとロムへと背を向けてこう言った。
「こちらこそありがとね。アタイも楽しかったよぉ〜」
そう言い残すと、今度こそ日奈は2人の前から姿を消した。




