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識~叡智の賢者~  作者: ニコカメン
第Ⅱ章 聖なる闇の蠢き
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048 六天魔

「じゃあ〜、決闘のルールを説明するねぇ〜。ひとーつ。スキルや魔法、その他諸々の力の使用はぁ〜、一切の制限無し! 全力でやらないと意味無いからねぇ〜。ふたーつ。勝敗はぁ〜、アタイがミッチーを気絶させるか、ミッチーがアタイに一撃入れるかで決する事とするぅ〜」

「それは、俺へのハンデか?」

「ハンデ無しだと〜、一瞬で終わっちゃうけど良いのぉ〜?」

「チッ……分かったよ」

「はぁ〜い。それじゃあ、みぃーっつ。決着はぁ〜、必ず刀の一撃によるものとするぅ〜。君の刀の性能を見たいんだも〜ん、これは当然だよねぇ? 以上っ、計3つのルールの下、君に決闘を申し込みまぁ〜す!」

「その決闘、了承した」

 お互いに刀の切っ先を突きつけ合いながら宣言すると、日奈は心底わくわくしていると言いたげに口の端を吊り上げニヤと笑った。その笑みはさながら獲物を見つけた猛禽類のようであった。

 先ほどまでのほんわかした雰囲気とは裏腹に、全身から相手を圧倒する強烈な威圧感を迸らせる日奈を見て、心底厄介な相手に目を付けられてしまったな、と三月は露骨に面倒くさそうに顔を顰めた。

「さぁ〜、始める前にぃ改めて名乗らせてもらうねぇ〜。え〜と、コホン…………我が名は立花日奈っ! 魔王軍最高幹部にして、魔王直属近衛隊【六天魔】が1人なりっ! 今宵、貴殿と剣を交えられる事、真に嬉しく思う。さぁ、滾る血潮が冷める前に存分に打ち合おうぞ! ……ふぅ〜、この口上はやっぱり疲れるなぁ〜」

 口上を終えた日奈はキリッとした表情と解いて、はぁ〜と深い溜め息を吐いた後に平常通りの顔に戻すと、にこっと擬音が付くような柔和な笑みを三月へと向けた。しかし三月は日奈の口上の中に気になる単語があったのか、険しい顔で思案げに眉を顰めていた。

(【六天魔】……ね。こいつはますます厄介な奴に目を付けられちまったようだな)

 魔王直属近衛隊、【六天魔】。その名は三月も王城で生活していた時に何度か耳にしたことがあった。魔王軍最高幹部であり魔王直属の部下、そして魔王を除いた《魔人族》最強の6人衆。1人1人が国を攻め落とすほどの実力を秘めている最強最悪の精鋭であり、序列によってその強さが決められる。

(この女、身震いがするほど恐ろしい奴だな……)

 三月は解析しかけの日奈のパラメータを見て、顔の筋肉を引き攣らせながら心の中でそう呟いた。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


《立花日奈:[??歳][女]》 


種族:魔人族


筋力:[?]

耐久:[AAA]

敏捷:[SS]

魔力:[?]

魔抗:[?]


スキル:【?】[物質・?間・??]

    【??流双剣術】[居合・魔??・?十字・封花・双牙・疾風・?影陣・??剣・????・????]

    


属性:無

魔法:【  】


称号:【六天魔】[神童・?を司る者・魔人剣士・六天魔・妖童の剣鬼・電光石火・竜殺し(ドラゴンスレイヤー)・魔狩りの魔人・マイペース娘・戦闘バカ・??流十七代目当主・刀マニア・妖刀使い・魔人族最強の剣士・ほんわか残念娘]


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 所々情報が抜け落ちてはいるが、これだけ見ても目の前の日奈という少女の恐ろしさがひしひしと伝わってくる。

(速さは俺よりも上……剣の腕も確実に俺よりも数段勝っている。並の人間だったら前に立たれるだけで気圧されて終わりだな)

 焦る気持ちを押さえつけながら冷静に日奈のことをそう分析した三月は、一際興味を引かれる称号を日奈が持っていることに気が付いた。

 【魔人族最強の剣士】。成る程確かにその通りだ、と三月は納得する。

 魔人剣士は通常、種族特有の高い魔力を生かして魔法と剣技を織り交ぜた戦法を得意とする。しかし、パラメータを見た限りではどうやら日奈は魔法を使えないらしい。それにもかかわらず、《魔人族》最強の近衛隊【六天魔】の1人となるほどの実力がある。つまり、日奈は剣のみで魔法を得意とする魔人達を軒並み一蹴するほどの実力を持っているという事だ。確かに【魔人族最強の剣士】という称号は彼女にこそ相応しい。

 三月よりも速く、剣のみで【六天魔】に上り詰める実力、更には【魔人族最強の剣士】という称号。

(一体母さんはどうやってこんな化け物と引き分けたんだ!?)

 正直勝てる気がしない。三月の中では母七月も相当な怪物として認識されているが、日奈はそれと同等、またはそれ以上の化け物だ。

 三月が密かに戦慄していると、日奈はその心の内を知ってか知らずか、面白がるように目を細めるとチャリと刀の鍔を鳴らしこう口を開いた。

「にゃは〜、それじゃあ〜そろそろ始めよっかぁ〜。さぁ〜、どこからでも掛かってきて良いよ〜? どんな攻撃でもぉ、どうせ防いじゃうからぁ〜」

 その言葉に少しだけカチンときた三月は不機嫌そうに眉をピクリと動かすと、【八式】の柄を握りいつでも襲い掛かれるように体勢を低くして構えた。

 刹那、残像を残すほどの速さで駆け出した三月は、その姿が掻き消えたかと思われるのとほぼ同時に日奈の懐へと入り込んでいた。

「喰らえ! 【抜刀・魔斬り】っ!」

 魔力を流されて極彩色に輝く刀身を一分の容赦もなく全力で抜き放つ。キラキラとプリズムのように煌きながら舞い散る色とりどりの魔力の粒子で光の線を描きつつ、【八式】は日奈へと吸い込まれるかのように一直線に襲い掛かる。

 日奈の敏捷値がどれだけ高かろうと、この距離ならば避けられない。そう踏んでいた三月だったのだが、攻撃が日奈の肌に触れようとするその一瞬、彼は見てしまった。

 【八式】の極彩色の刀身が肌に触れようとするその寸前、彼女は心の底から湧き上がってきたような恍惚の笑みで三月を出迎えていた。

 戦闘そのものを愉しむかのようなその笑みに、三月は背筋が凍えたような寒気を感じた。それと同時に日奈は右手の刀で【魔斬り】を受けると、上体を仰け反るようにして技の威力を完全に受け流す。そして左手の刀の柄頭でトンッと三月の胸を軽く叩いて突き放した。

 その光景を目の当たりにした三月は、信じられないといった風に目を見開いて驚愕を露わにする。

 威力の受け流し自体は別に珍しい技術ではない。三月自身も勇者である四郎の攻撃を似たような方法で受け流したことがある。だが、あれはまだ勇者としても未熟で完全に見切れていた攻撃だから出来た芸当であり、視認するのも困難な自身の【抜刀】を、完全に受け流すのは現在の三月の技量では不可能だ。

 しかし、日奈はいとも容易く三月の【抜刀】の威力を完全に殺して見せた。あれは長年培われてきた戦闘経験が無ければ不可能な芸当だと言えるだろう。

 三月は胸を叩かれた衝撃で軽く咳き込みながらも、ぎりと歯を食いしばり目の前のにこにことした笑顔を浮かべている少女の顔を悔しそうに睨み付ける。

「はにゃ〜ん、すっごく速くて良い一撃ぃ〜。それに魔力を流した刀が虹色に輝くなんてぇ〜……ちょ〜素敵っ!」

 日奈は若干鼻息を荒くしながら興奮気味にそう呟くが、何故かほんの少しだけ残念そうに肩を落とした。

「でもぉ〜、残念。確かにその【八式】は最高と言っても良いくらいの刀だし、それに見合うくらいの技量が君にはあるんだけどぉ〜……技に魂が籠っていない」

「どういう、ことだ?」

 三月がそう訊ねると、日奈は少しだけ不機嫌そうに声のトーンを低くしてこう説明を始めた。

「君の剣の技量、技の練度。確かに君は優秀〜。ナッチーの息子っていうのも〜、納得できるほどにね〜。でもぉ……剣士であるにもかかわらず、剣の一撃に魂が籠っていないんだよねぇ〜。つまりミッチー自身の力じゃなくてぇ、借り物の力のような気がするんだよねぇ〜」

「……」

 借り物の力。確かに三月の【抜刀】は元々鈴子をオリジナルとするコピーに過ぎない。本人はオリジナルを越えたと自覚してはいるのだが、心のどこかで今だ自身の【抜刀】をコピーの延長としか思っていないのかもしれない。だから魂が、三月自身の思いが籠らない。

 日奈は先の一撃でそこまで見抜いたのだろう。他人のスキルをコピーしたことにまでは流石に気付いてはいないだろうが、三月の【抜刀】が他人の力の借り物、その延長に過ぎないということを。

 日奈はぞわりと鳥肌が立つような低い声音で三月にこう言った。

「ミッチー……あまり剣の道を舐めない方が良いよぉ? 他人から得た力を他人の力のまま振るったってぇ〜、何の意味も無いんだよ〜? そんな剣じゃアタイに一撃を入れるのなんてぇ、一生無理。ミッチーがその力を振るう以上、それはミッチーの力なんだからねぇ〜? そこのところ、ちゃんと理解してねぇ〜」

 そう、どんな方法で手に入れた力であろうと、それはもう三月の力なのだ。他人のコピーなどでは決して無い。誰よりも剣を愛し、剣と共に生きてきた彼女だからこそ、中身の無い三月の剣技に憤った。

 三月は手の中の【八式】を一度だけ見つめると、目を瞑り日奈の言葉を心の中で吟味する。

(俺が振るう以上、俺の力……ね。確かに、俺は俺の【抜刀】に鈴子の姿を重ねて見ていたのかもしれないな)

 一度は捨てたはずの彼女(りんこ)の姿を思い浮かべ、完全に彼女のことを捨て切れないへタレな自分に思わず苦笑する。

(ふっ、俺らしくもない。いつまでもウジウジしてる暇なんてないよな。あいつがくれたこの力、今こそ俺のものにしてみせよう。目の前の困難をぶち壊してなっ!)

 そうして、すっとまぶたを開けた三月の瞳には、決意の炎を燃え上がっていた。

 例え日奈がどれほどの実力者であろうともう恐れはしない。どんな困難であろうと常識外れな方法で乗り越える。

(壁が高いからといって畏縮するのはらしくない。壁が高いならぶっ壊せば良いだけの話だっ!)

 それが夜白三月という男なのだから。

 三月の瞳を目の当たりにした日奈は一瞬だけ意外そうに目を丸くすると、やがて嬉しそうに口元を緩めて微笑みを浮かべた。

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