20 閉ざされたアルマの本音
「ティア、大丈夫か?」
キーンと耳鳴りがする中、聞き覚えのある男の声がする。目を開けると、額から血を流すアルマの姿があった。
辺りは見渡る周りは落石で埋もれている。
どうやら落石に巻き込まれたらしい。さっきまで晴れていた空は見えず、辺りに広がるのは、土と瓦礫と埃だらけ。この状況で自身の身体に傷一つないことが信じられない。
「私は大丈夫。」
「そうか。よかった。」
ホッとしたように安堵のため息を吐くなんてらしくない、なんて思っていると瞳がようやく視界の暗さに慣れてきた。
目を凝らすと、アルマが利き手である右手で自身の剣をつっかえ棒代わりに、上手く頭上の落石を防いでくれていた。そのおかげでなんとか二人が密着して座れるぐらいのスペースが出来ていたのだけど、
「な、なななにこの状況っ!?」
「暴れるな、土砂に埋もれて死ぬぞ。」
よく見るとアルマの脚の上に向かい合うように座る形になっているではないか。更に、離れようとするとアルマの左腕が私の腰を抱き、もっと身体が密着してしまった。
(これじゃあ、心臓の音まで聞こえてしまいそうじゃない……。)
身動き一つ取れず、アルマの胸の中にすっぽり収まるしかない状況で感じるのは、ひんやりとした土の香りとアルマの体温だけ。いやでも意識してしまう。
「このまま、救助を待つ。それまで辛抱してくれ。」
「わ、分かったわ……。」
早く救助されるのを祈る。
「おそらく大勢の生徒が巻き込まれているはずだ。救助には時間が掛かるかも知れない。」
心を読んだみたいなアルマの推測に絶望を感じていると、アルマが小さく笑った。
「こんな状態でよく笑えるわね。」
「ハハ。いや、すまない。ただ……、最悪とは言わないんだなと思っただけだ。」
君の口癖だろ、と苦笑する。
彼には私が助けてもらったのに不平を漏らす最低女にでも見えていたのかしら。それってなんだかすごく不服なんですけどっ!!
「くっ……。」
これではいつまで経ってもこの男を魅了なんて出来ない。今のうちにイメージ回復をしておかねばと思っていると、身動き取れないアルマの瞳に血が入ったらしく痛みを訴えた。咄嗟にポケットに手を突っ込むも、そこにあるはずのハンカチが見当たらない。
「あ……。」
そうだ。アイリスにあげてしまったんだった……。
他に身を挺して守ってくれたこの男の血を拭ってあげられるものは、この封鎖した空間には何もない。
「仕方がないわね。」
自身のスカートに手を伸ばし、思いっきり引き裂いた。
「セルティアっ!?」
ああ、これでこの制服は売り物にならなくなってしまった。けれど、一切の後悔はない。
「…………絶対に太もも、見ないでよね。」
後悔はないけれど、こんな破廉恥な姿、誰にも見られたくないのが乙女心。
大きくスリットが開いてしまったスカートをなんとか閉じながらアルマに釘を打ってから、何も言わずに目を背けたアルマの額から流れる血を拭き取る。
「これでどう?」
「助かった、ありがとう。」
「それはよかったわ。」
「………。」
二人の間にそれ以上の会話はなく、シンと静まり返る。
周りには大勢の生徒がいたはずなのに、聞こえるのは二つの呼吸音だけ。まるで、私たちしか生き残っていないような……。
「すまなかった。」
恐ろしい考えが脳裏をよぎっていた私に突然、アルマが謝罪を口にした。
「いきなりどうしたの?」
「お前をここまで巻き込むつもりはなかった。こんな大きな地震が起こるなんて未来、母の日記には書かれていなかったはずだなんだ。残念だが、俺の知る未来とはかなりかけ離れてしまっているように感じる。」
こんな筈じゃなかった、といつになく弱気のアルマ。その姿を見て、今日一日疑問に思っていたことを思い出した。
「ねぇ、聞きたかったのだけど。どうしてみんなを助けたいなんて言ったの? 貴方は私と同じ不平等に苦しんでいたはずよね?」
公爵という地位に産まれたにもかかわらず、穢れた血と蔑まれ育ったこと。それはたった一日学院で過ごしただけの私でも分かってしまうぐらい明らかだ。みんなを殺したいというなら理解できる。私がアルマと同じ立場にいたのなら、とっくの昔にこの国を見限って隣国に亡命しているわ。
――でも、彼はどちらもしない。
「どう見ても聖人ってわけじゃないし。」
「ふふ、そうだな。俺は聖人ではない。どちらかと言えば、利己的な男だ。正直、今でも俺の中に流れる竜と悪魔、両方の血が憎い。一時は国を滅ぼしてしまおうかとすら思っていた。」
彼の血で更に赤く染まった瞳が本気度を上げる。それに、さっきシャオンとの喧嘩で見てしまった火柱を一刀で消し去る力量。アルマなら本気でできてしまいそうでゾッとした。
「なら、どうして?」
「多分、母の手記を見てしまったからだ。」
アルマは昔を思い返すような優しい顔をした。
「……どういう事?」
「俺は、もうぼんやりとしか思い出せない未来がとても好きだった。」
「でも記憶はほとんど残ってないって。」
「ああ。でも記憶はなくとも、俺の心には残ってる。あの手記は確実に俺の人生の支えだったんだ。」
この現実を乗り越えられるほどの未来。
それは一体どんな景色だったのだろうか。
「この先に幸せな未来が待っていると、なによりも信じられた。だから、どれだけ忌み嫌われようとこの国と俺に関わる人間を救いたいと思った。」
これは全て俺のわがままだけど、とアルマは苦笑した。
「じゃあなんで、そんな相手に喧嘩なんて売ったのよ。」
突如始まったシャオンとの喧嘩。
一歩間違えば死ぬほど危険だと理解していただろう。観ていた防戦一歩の喧嘩に、策があったとも思えない。シャオンは救いたい相手だったはずでしょう?
「シャオンとの一体なにがあったの?」
「……あいつの事は簡単に名前で呼ぶんだな。」
「はぇ?」
私の腰を抱くアルマの左腕にギュッと力が入り、密着度合いが更に高くなる。
「ちょっと、なにしてんのよ!?」
「それにシャオンを魅了しろとは言ったが抱き合えなんてひと言も言ってない。あれが本気になったら困るのはティアの方だと言った筈だけどな。」
それは、そうだけど。
あれは不慮の事故だし、私の質問の答えにはなってない。
「その話、今は関係ないじゃない。それに抱き合ったんじゃないわ。転びそうになった所を助けてくれただけっ!!」
「ふーん、そうか。ティアは危険な所を助けて貰ったら名前で呼ぶんだな。」
ニコニコと笑うアルマ。嫌な予感がする……。
この作られた笑みは腹黒い考えをしている時の顔だ。
「じゃあ、俺のことも名前で呼んでくれるよな?」
やっぱりそうきたか……。
もう一回呼んじゃったし、こうなったらあと何回呼ぼうが変わりはない。なんかもう、意地を張るのも馬鹿らしい。どうでも良くなってきたわ。
「分かったわよ……。」
「それからこれだけ命を張って助けたんだ。少しぐらい褒美をくれるだろ?」
「…………日給カットは絶対に嫌よっ!!」
私の大事な日給三万ペリルだけは絶対に譲らないから。これは私の命と同じぐらい大切だものっ!!
「褒美と言ったろ?」
声を上げて笑うアルマは日給カットする気はないようで安心した。
アルマに命を救われるのはこれで二度目。
今回はアルマのせいでこんな事になっているのだけど、とは流石に言えなかった。ただ、褒美をくれと言われても日給交渉以外に私が持っている物も権利もないのだ。
「ティアから俺にキスしてくれ。」
【お願いします!】
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただけると幸いです。
皆様のブックマークと評価が日々のモチベーションと今後の更新の励みになります(〃ω〃)
ぜひ、よろしくお願いいたします!!




