表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/108

プロローグ1:ニューズデイズ特集:世界を変える30人、30歳未満

いま、世界の産業と社会の在り方を根本から変えようとする動きが加速している。

再生可能エネルギーと先進情報技術を組み合わせ、人類の未来をより持続可能なものにしようとする挑戦――。


その最前線に立つ若きリーダーのひとりとして、五井物産株式会社の一ノ瀬直也(Naoya Ichinose, 24) を、本誌は「世界を変える30人、30歳未満」に選んだ。


一ノ瀬は、日米の地熱資源を活用した大規模AIデータセンタープロジェクト「GAIALINQ」の最高統括責任者に二十代半ばで就任している。このプロジェクトは当初日本の東北地方の既存地熱発電プラントを拡張する方向で検討をスタートしたが、現在は米国にある世界最大級の地熱発電プラント“ザ・ガイザース”をEGS(Enhanced Geothermal System)を用いて拡張する米国側での取り組みも並行して進めることとなり、環太平洋の地熱資源活用に向け、そのプロジェクト規模を著しく拡大している。


これまでEGSによる地熱発電プラントの能力拡張については、2017年11月に韓国・南東部の浦項ポハン市で起きた地震について、周辺で進めた地熱発電開発が原因である事が判明して以降、批判的な意見が多くなってきていた。


EGSの主な問題点として指摘されているのは、大深度掘削、貯留層造成技術、地下水漏洩対策等の技術的問題と、誘発地震等の社会的・環境的問題、そして初期投資の大きさ、コスト等の経済的問題の大きく3点があげられる。


EGSの制御はTLS(Traffic Light System)による閾値制御を行い、それによって誘発地震を防ぐ実証実験が進んでいるが、このTLSの仕組みそのものに、大胆にAIの大型モデルを持ち込み、精度を著しく向上させる事を一ノ瀬は検討している。


8月にサンフランシスコの式典において、「「AIによってEGSを完全に制御する。これを米国と日本が共同研究として推進する」「地熱発電で生まれた電力でAIデータセンターを稼働させ、そのAIが膨大な計算資源となって、さらに地熱発電の拡大に寄与する」と米国大統領が発言していたが、正しくこの一ノ瀬のビジョンそのものと言えるだろう。


そもそも大規模なAIデータセンターを構築しようとすると、必要となる電力供給量は膨大となり、それを担う為の電源をどうするべきかが課題となる。これは、AIそのものに対する環境保護団体等からの批判に繋がってきていた。


ところが、一ノ瀬のビジョンは、こうした従来批判されていたものとは異なり、地熱発電の能力向上の為に、むしろAIを積極活用し、それによって更に電力供給量を向上させ、AIデータセンター自体の能力も向上させていくというものとなっている。彼は、AIによってクリーンエネルギーを拡大させるという構造を生み出そうとしている。


EGS制御のためのAI型TLS実現に向けた取り組み自体は、既に世界各国で進んでいるが、一ノ瀬はこの取り組みの商用化に向け一気に加速させる為に、彼のプロジェクトに参画する主要なAIプレイヤーである、DeepFuture AI社、AAC社、そして世界最大級のIT企業であるGBC社が協力する体制をいち早く構築している。ここに至るまでの彼の取り組みは「神速」と呼ばれるほど早い。


実際に取材したDeepFuture AI社のイーサンCEOは、「直也の判断や具体的な取り組みのスピードは、我々テック業界のスピード感覚と比べても一際素早く、むしろ彼のスピードに我々が精一杯合わせていくという格好になりかねない」と評している。次世代のビッグテック候補筆頭と言われているDeepFuture AI社のTOPをも脱帽させる程、一ノ瀬の取り組み方はスピーディーなのだ。


一ノ瀬がユニークなのは、彼が現在進められている核融合発電プラントの研究に対してや、量子コンピューターの研究に対しても非常に理解がある点だろう。そもそも東都大学時代の彼の研究テーマは量子コンピューターであり、つまり次世代型のコンピューティングについても専門的な知見を有しているのだ。量子コンピューターによって、計算資源そのものの著しい効率化を果たすというのは、現在のAIに求められる電力供給量を大きく引き下げられる事が期待されるが、こうした可能性についても彼は言及している。


「こうしたテクノロジーの発展には大いに期待しています」と一ノ瀬は語る。「ただ、現実的には向こう10年以上の時間はどうしても必要となってしまうと考えています。商用化となると、そこから更に時間を要する。その一方で、AIの計算資源をクリーンエネルギーで担える体制が必要なのはまさに今現在であり、我々は向こう5年から8年程度までの間に、次世代技術が登場するまで、安定的でクリーンな電源を用意しなければならないと考えています」つまり、彼は現時点で実現可能な方法で、尚且つ、次世代技術が登場した後にも、陳腐化が避けられる方法として、地熱発電に着目し、GAIALINQプロジェクトを進めているのだ。


「地球の大地。その奥に眠る熱資源は、どの国にも等しく与えられた贈り物です。特に環太平洋地域――日本や米国、インドネシアには既に多くの地熱発電が存在しています。この天からの恩恵とも言うべきクリーンエネルギーを大切に育み、その力を人々の暮らしと未来につなげることこそ、私たちの使命なのです」


一ノ瀬が語る、こうした言葉は、海外の投資家や研究者をも強く動かしている。


米国のあるエネルギーシンクタンク研究員はこう評した。

「日本から、これほど若くして、これほど聡明で、明確な戦略ビジョンを掲げるリーダーが現れるとは予想していなかった。彼はまだ24歳だが、日本のエリートが集う五井物産という大組織において、極めて正当な評価によって、GAIALINQという超大型プロジェクトのリーダーに抜擢されている点は注目に値する。そして、一ノ瀬直也の挑戦は、エネルギー安全保障とデジタル産業の未来を同時に切り拓く可能性を秘めている」


今回の表紙に選ばれた写真は、GAIALINQプロジェクトを統括する東京大手町の五井物産本社ビルにおいて、そのプロジェクトルームの中で撮影されたものだ。


地下深く眠る莫大な地熱資源――その未来を解き放とうとする若き商社マンの眼差しは、鋭くも穏やかで、確固たる信念を湛えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ