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31 大魔法使い、ブチ切れる




呟くように聞こえる男性の声に、私はゆっくりと意識を覚ます。

背中に柔らかい感触がある、おそらくベッドの上にいるのだろうか?何故か体も重たいし、ものすごく眠たくて目を開けられない。このままあと8時間くらい寝たい。でも、すごい近くでキーボードを叩く音と、男性の声が煩くて再び眠りにつけない。……よし、何も聞いていないと思い込んで無理矢理寝よう、物凄く眠たいのだから可能なはずだ。




「やっぱり彼女は加護を持っているけど完全体じゃないんだだから大魔法が魔術となって対価が必要になったのか本来なら魂位必要だけど加護を持たせた神の体の一部が対価となった事により通常の結界魔法じゃ対価に釣り合わなくて強力な魔法になったのか?でもその神って誰だ映像で見るとショタなんだが?ていうかそもそも神が現世に現れるとか可能なのか?ショタになる事で堆積を減らして可能にしているのかそれと」

「うるっっっさいなぁぁぁ!!??」

「うわーーー!!??」



私は勢いよく起き上がり、騒々しいその声の方向へ怒声を浴びせる。その声の主は驚いた声を出して、椅子から崩れ落ちたのか床に倒れていた。なんとも間抜けな尻が見えるが、すぐに起き上がりこちらを睨む。


「び、びびび吃驚するだろ!?機械が壊れたらどうしてくれるんだ!?」


男は椅子を戻しながら、震える声で注意をしてくる。濃い紫色で、長期で髪を揃えていないのかやや長めの髪、灰色の瞳を持つ男。目には隈があり、研究者なのか白の白衣を着ている。男を見た後自分の周りを見ると、やはりベッドの上にいる様で、ベッドの周りの床は何が何に繋がっているのか分からないコードが幾つも敷かれている。壁もコードの隙間から見える床も白いコンクリートの様な作りで、まるで映画の悪の研究者の様な部屋だ。

………いや待て!?私さっき関所で特別重要人物とかなんとかで捕まえられてなかったか!?私は体を起こして椅子に座ろうとする男の胸ぐらを掴む。男は再び悲鳴をあげてされるままに顔を近づける。


「おい!特別重要人物って何!?私に何か恨みでもあるのか!?」

「ちょっ、待って待って待って!!それには深い理由があって僕は君に変な事をする為に君が入国した際に捕縛できる様にしたのではなくて」

「端的に言えや!!」

「本当に申し訳ございませんでした!!!」


おそらく今の外見の自分よりも一回り以上年上だろう男は、怯えて目に涙を溜めながら謝罪してくる。逆だろ、普通私が泣く所だろうここは。何だか弱い者いじめをしている様で手を離すと、男は一目散に部屋の端へ行き、遠くから怯える様な目を向けてくる。いや、だから逆だろ。

男はそこからか細く声を出し始める。


「ぼっ、僕はマギー、です……天候の神マレギノから加護を授かった、この国では魔法使いと呼ばれてて、一応、こ、この国の都市開発もしている、国の宰相でもあって」

「……天候の神の加護って……あの根暗って言われてた」

「ちょっと待って根暗?絶対それハリエド王でしょ?絶対そうでしょ?」


なるほど、確かにこのオロオロとした態度、吃る言葉遣い、性格が悪くはないが根暗なのは確かだ。マギーは恐ろしくゆっくりと近づくと、すぐ近くにあった液晶画面をこちらに向けてきた。


「きっ、君は、10日程前にゲドナ国で、結界魔法をしたよね?」

「えっ?」

「ぼぼぼ僕も、ゲドナ国側からの要請で、その時は魔物の異常発生の、原因を探してて……そ、それで!それで君が結界魔法をした時の、魔法の強度の強さに、疑問を抱いて……丁度、魔物の分析の為にドローンに映像を録画しててっ、それを、見て……」


吃る言葉遣いで長くなってしまっているが……つまりは、ゲドナ国での私が行っていた結界魔法の映像を見て、それが魔法ではなく魔術だった事に気づいたという事だろう。娼婦館の後、テオドールに教えて貰った自分に加護を与えたとされる存在、死の神アドニレス。あの少年の目玉を対価に結界は発動したのだ。……というかドローンがあるのかこの国。


「つまりは、あの時魔法ではなく魔術だと気づいたんですね?」


目を細めながらそう伝えると、急に人が変わった様に明るい表情になったマギーは、ついさっきまで震え上がっていたのに、ベッドに座る私に顔を近づけて満面の笑みを向けてくる。あまりの変わり様に、私は思わず後ろに下がる。


「やっぱり!やっぱり結界魔術だったのか!!結界魔法を発動できない君は加護を完全に与えられていないんだろ!?あんな強力な結界魔術を成功させても術者の君が生きているって事は、あの目玉を対価にしていた少年は神か!!」


興奮しているのか、そのまま後ろに下がる私に近づいてくる、それを再び私が後ろに下がるを繰り返していると、ベッドボードに背中が当たりこれ以上後ろに下がれなくなった。


「現世に現れて加護持ちを守る神なんて、ましてや自分の一部を差し出す程に愛された加護持ちなんて聞いた事がない!君はあの神と出会ったのはあれが最初なのか!?それとも何度目かなのか!?」

「ちょっ!ちょっと待ってもう少し離れて」

「そもそも何で君はそこまで神に愛されていながら!加護を完全に受け取れなかったんだ!?」


こちらの話を全く聞いていないマギーは、最終的にはベッドボードに両手をつけ覆いかぶさる様になる。もはや狂気を感じるほどの興奮した笑顔が怖い。先ほどと変わって攻められている状態で意味がわからない。

そのまま饒舌に喋るマギーは、全てを語り終えたのが荒い息を出しながら、恍惚をした表情でこちらを見る。最近テオドールに過激なスキンシップをされ続けている私でも、本能的に危険だとわかってしまう程だ。


「ぼ、僕は君の体を調べたくて、君が万が一この国に来た時の為に、入国審査のセキュリティーに君を重要人物として登録したんだ」


マギーの顔が、もうすぐ口付けでも出来てしまいそうな程に近づく。まるで告白でもするように、愛おしいものを見る様な目線で、ゆっくりと口を動かした。





「きっ、君の体を……………余す所なく調べて、あわよくば様々な体液がほしい」

「却下!!!!!」



恐ろしい要望に思わず大きく叫んだその時、急に鼓膜が破けそうなほどの爆撃音が襲う。それには私も、興奮状態だったマギーも驚いて音の方向を見る。



見た先には、つい今まで壁があった場所だったのだが、壁が綺麗さっぱり無くなっていた。


というか壁だったものが床に瓦礫の山となっている。




「よぉ坊主、随分楽しい事してるじゃねぇか」




その瓦礫を力強く踏みながら、よく知っている男の声が聞こえる。だがその声は、砂漠で騎士団の副団長に怒りをあらわにしていた時よりも、更に恐ろしいものだった。


私に覆いかぶさっていたマギーは、みるみるうちに真っ青な表情になっていく。身体中から冷や汗と、小刻みに震えており、もはや生まれたての子鹿の様だ。



瓦礫を踏みながら現れたのは、やはりテオドールだった。相当頭に来ている様で、青筋を立てながら獣のような目線をマギーに向けている。思わずその表情に、私もしばらく叩かれていないのに尻が痛くなってきた。マギーは信じられないものを見る様な表情で、震える口から言葉を出す。


「しっ、ししし師匠!?どうして!?20年前に「機械は嫌いだ」とか言って突然姿消した師匠が何故ここに!?」

「お前が今襲おうとしてる娘と旅をしてんだよ。用事があってサヴィリエに来たんだが……まさか坊主が、嫌がる女を襲うような野郎になってたとはなぁ?」


お前は絶対それ言えないだろ、いつ私が口付けするのを許したんだ。と思ったが今のテオドールは恐ろし過ぎて何も言えない。マギーはすぐに私に離れて、ベッドから離れようとして躓き床に転がる。テオドールは転がるマギーの尻に右足を力強く置いて、そのまま地面に押し付けていく。激痛なのかマギーは悲鳴をあげた。


「すいませんすいません!!ま、まさか師匠のお仲間だったとは、しっ知らなくて!」

「知らなかったから許せだぁ?一丁前に言い訳する様になりやがったなぁ坊主?」


まるで魔王の様に、テオドールはマギーの尻を押し付けたり蹴ったりしている。されるままのマギーは鼻水まで流しながら泣いている。……なんだろう、私はマギーの被害者だが、あまりにも彼が可哀想に見えてきた。


「あっ、あの……気持ち悪い事は言われたけど……特に痛い事されてないし、その辺で」


か細く声をかけると、テオドールはゆっくりと、般若の様な顔を向けてきたので思わず小さく悲鳴をあげる。そのまま、歪な笑顔をこちらに向けてゆっくりと口を開く。


「マヨイ……アンタが誰のものか、後でじっくり体に教え込んでやるから、覚悟しろよ?」







あっ、私死んだ。


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