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32 かつての師弟関係



「死の神アドニレス!?何その神聞いた事ないんですけど!?レアすぎんか!?」


頭に痛そうなタンコブをつけたマギーは、輝く目を私に向けて声を張り上げる。それには私の隣にいるテオドールは大きく舌打ちをして睨みつける。


「俺もハリエドの聖女王に教えられるまで、そんな神の存在知らなかったよ」

「あぁ、シルたん、あんな反抗期のクソガキですが精霊に英才教育受けてますものな〜」

「シルたん……」


……シルトラリアが、性格悪いと言っていた意味がわかる気がする。まぁ性格悪いというより、前の世界でいう、中々個性的なオタクの分類の様な気もするが。




あの後、様々な犠牲を払いながら私はテオドールの怒りを鎮める事に成功した。テオドールはかつて魔法を教えた弟子であるマギーを床に座らせて、自分は椅子に座り高圧的に彼を見ている。それに何も抵抗しないで床に正座をするマギーを見て、20年前にどの様な師弟関係だったのか手にとるように分かった。マギーは手を顎に添えて何かを考えている。


「シルたんの仮定が本当だったとして、そうなればマヨイさんがどの位魔法が使う事ができるか、今後の彼女の生活の為にも必要でありますな」

「だからわざわざ、魔法と魔術分析に詳しいテメェに会いに来てやったんだ」


テオドールの言葉に、マギーは興奮した表情で拳を作り意気込む。


「お任せください師匠!元々彼女を分析したくてセキュリティー登録したんだ!どの程度の加護なのか、魔法適正がどれほど有るのか隅々まで調べましょうぞ!」

「言っとくがマヨイを調べる時は、俺も側に必ずいるからな?昔みてぇに分析に興奮しすぎてやらかしたら只じゃおかねぇからな?」

「ぎ、御意!!!」


……昔何をしでかしたのか気になるが、まぁテオドールが側にいるのであれば変な事はされないだろう。マギーには自分が加護持ちである事を伝えている様だし、それを伝えるという事はなんやかんや、彼を信頼しているのだろうから。


その後息つく暇もなく語られる、魔法と魔術、そして加護持ちの分析をマギーに語られた。そうこうしていると夜も遅くなり、マギーの計らいで現在いる、国の都市開発研究機関の来客用ルームを暫く借りれる事となり、私達はその場所へ向かうためにマギーについて行く。ずっとあの窓のない部屋にしかいなかったので分からなかったが、部屋から出ると本当に前の世界の研究施設の様な作りで、すれ違うマギーと同じ服装のスタッフは、皆彼に会釈をしている。……本当にこのオタクみたいな男、国の宰相だったのか。部屋へ向かう間に、マギーは歩きながら声を出す。


「ぼっ、僕は記憶を消されるのを、拒否したから、前の世界で、電子開発の研究員だった経験と、魔法を掛け合わせて……国のインフラを整えたんだ」

「えっ、記憶丸ごとそのまま残ってるんですか?前の世界に帰りたいとかなりませんか?」

「そんなまさか!こんなゲームの中みたいな世界から帰りたいなんて絶対思わないよ!無対価で魔法使えるなんてチートじゃないか!」

「……そ、そうですか」


一番後ろで歩くテオドールは、呆れた様なため息を出す。


「坊主は昔から変わらねぇな。「いんふら」だの「ちーと」だの、もう少し年寄りにも分かる言い方しろよ」

「師匠は相変わらず、外見と見た目のギャップがつよつよなんだから……」


マギーが前からジト目でテオドールにボヤいているが、どうやら部屋に着いたのか、彼から一枚のカードキーを渡される。


「こっ、これ部屋のカードキーね。この液晶に当ててくれれば、部屋の鍵が開くから」

「最先端すぎないか?」

「じっ、じゃあ!また明日迎えに来るから!!」


マギーは言い逃げるようにそそくさとその場を立ち去る。吃る所と饒舌な所の差が激しすぎないかあの男は?私は言われるままにカードキーを液晶に当てると、ガチャリと音がして鍵が開く音がした。そのまま扉を開けると、今までの国での宿屋と明らかに異なる、まるで前の世界の広いビジネスルームの様な部屋がそこにはあった。




あまりの今までとの違いに顔が引き攣っていると、急に後ろから腕を引っ張られ、そのまま後ろにいたテオドールに俵担ぎをされてしまう。悲鳴をあげるが顔が見えない彼は無言で、そのまま目の前にあるベッドに放り投げられる。


「え!?何で!?」


意味が分からないので放り上げた本人を見るが、テオドールは着ていたローブを近くの椅子に放り投げ、そのままベッドが軋む音を出しながら近づいてくる。顔は下を向いており表情が見えない。


「砂漠の時といい、今といい、男に見境なしに擦り寄りやがって」


何やら呟いているが小さすぎて聞こえない。私は恐怖で離れようとするが、それを阻止する様に片手で両腕をまとめて掴まれベッドに押し付けられる。……ようやく見えたテオドールの表情は、怒りと、何かを堪えている様だった。


「な、何を怒っているのか知らないけど私本当に悪く、ふぎゃ!?」


弁解をする為に声を出すが、全てを語る前にテオドールは私の首筋に思いっきり噛み付く。あまりの痛さに悲鳴をあげて暴れるが、全くびくともしない。……暫くして噛み付くのをやめると、今度は首筋から垂れる血を熱い舌で舐めてくるので、思わず背中が身震いする。


「アンタは、誰のだ?」


首筋に顔を近づけたまま、噛まれた部分に息を吹きかけるように語られる。あまりの刺激に息継ぎの仕方を忘れて荒い呼吸をしてしまっているが、目の前の男を止めるには答える他ないと震える唇で声を出す。


「私はっ!私のもうぎゃーーー!!!」


再び言う前に、今度は耳を齧られる。二度目の痛みに耐えきれず声を張り上げながら涙が溢れてしまう。……何故こうなった私!絶対悪くないだろ私!!耳元から伝わるテオドールの息は、私と同じく荒いもので、やけに色気があるので思わず頬が赤くなっていく。

こちらの表情を見たテオドールは、涙を拭うように目下を舐め取り、短い笑い声を出す。


恥ずかしさと、もどかしいような感触に襲われる私を、テオドールは目を細めて、恍惚した表情で見つめた。



「なんだ、俺のものだって分かってるじゃねぇか」



そのあまりの破壊力のある顔面に、逃げられない状況に、私は思考が停止した。



「私はお前の所有物じゃなーーーーーーい!!!」



その断末魔の様な私の声は、部屋の外を偶然通り掛かったスタッフが驚いてしまうほど響いた。

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