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23 子供と男



大魔法は、加護持ちが一度だけ使う事のできる魔法。一度だけでも体に異常をきたすほどの魔法だ。当たり前だ、神が放つ為の魔法の中でも強力なものを、たかが人間が何度もできるわけがない。


だが、一度だけなら可能だ、可能なのだ。……だから、今目の前で娘が血を吐き、顔を歪ませる事はありえない。あまりの光景に、俺は一瞬ひどい夢なのではと思ってしまうが、無情にも現実だった。


「マヨイ!!?」


あり得ない異常に俺は娘の元へ向かうが、魔法陣の中へ入ると脳に訴えかける声と共に、金槌で殴られている様な強い痛みで視界が揺らぐ。訴えかけるその声は、ある言葉を放つ。



『対価を差し出せ』



何度も響くその声に、思わず立ち止まってしまう。


だが視界が揺らぐ間に、娘の目の前にユヴァ国で出会った子供がいた。急に現れたその子供に驚きと、それ以上に怒りが込み上げる。マヨイの側に、その場所にいていいのは自分だけだと、どうしようもない執着が怒りを作り上げている。



だが子供は、何の躊躇もなしに自分の目を抉り出す。その姿に驚くが、子供はそれを天高く掲げる。そして深く息を吸い込み、大きく叫んだ。




「戦いの神ヴァンキルよ!結界魔術の対価は、死の神アドニレスの目玉を与えよう!」




子供は、()()()()()()()()()()()()。それと同時に脳に響く声はなくなり、魔法陣が赤色から、戦いの神ヴァンキルの黄色に染まる。その魔法陣は、一本の光線を地上から空へ放ち、そしてやがて空中に透明な囲いを作り始める。


あれは結界だ。たがマヨイではない、戦いの神ヴァンキルの結界魔法だ。



そのまま、倒れる娘を抱き締める子供は、小さく震えながら嗚咽を抑えていた。ようやく娘の子供の前へ駆け寄ると、子供はゆっくりとこちらを見る。


「……どうして、お前がいながらどうして!彼女に結界魔法をさせたんだ!?」


子供は左目から血を垂れ流しながら、吐き出す様に俺に怒りを向ける。娘を壊物のように抱く子供を見て、腹の中に溜まる黒い感情を孕みながら、俺は年甲斐もなく子供を睨みつける。


「何の事だ、それよりも早くマヨイを返せ」

「何の事だと!?お前が結界魔法をすれば良かったじゃないか!お前なら出来るだろう!?それを彼女にさせるなんて!僕が来なかったら、彼女は戦いの神へ対価として魂を取られていたんだぞ!?」

「俺はもう大魔法を過去に使ってんだよ!!」

()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()


先ほどから子供の言っている言葉の意図が分からない。俺の表情を見て、子供は何かに気付いたのか目を大きく開ける。


「……お前、まさか自分が、本当に只の聖人だと思っているのか?」


何故かその言葉に心臓が大きく音を鳴らした。目の前の子供が何を言っているか分からないが、それよりも早く娘の治療をしなくてはならない。俺は子供の体を娘から無理矢理引き剥がし、娘を横抱きにする。

血が止まったからか、先程までの死人の様な顔色ではないが、それでも短い息継ぎで呼吸をしている為、油断が出来ない。思わず舌打ちをして、そのまま子供をそのままにして移動魔法で城へ向かおうと呪文を唱える。


「僕は、お前なら彼女を守ってくれると思ったから、だから見守っていたんだ」


後ろから、引き剥がされた子供が地面に座り込みながら声を出す。その子供の方を見ると、憎しみを込めた様な目線をこちらに向けていた。


「お前が本来の自分を忘れているなら、僕はもう容赦はしない」

「……何を言ってやがる」


俺の言葉に、子供は嘲笑う。移動魔法が発動し、地面に青い魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣が強く光だした時、子供はゆっくりと、口を動かした。


「不老不死の加護持ちなんて、そんなものいるわけないだろう」

「……どういう事だ」


強く光る閃光の中、子供が吐き出すように語る口元だけが見えた。





「不老不死は、神でしか存在しない」


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