24 死の神
城の窓から溢れる光り輝く閃光に、国王も私も思わず目を閉じる。……この光は、かつて私が行った結界魔法と同じものだ。光が収まると窓へ向かい空を見る。空に覆われていくその光は、結界を攻撃していた魔物を消滅させていく。かつて私が張った結界より更に強いその光に驚き、私は後ろを振り向いて国王を見る。
「国王陛下!新たな結界が張られています!!」
私の声に、国王は王座にもたれ掛かり大きく息を吐く。
「そうか、マヨイ殿がやってくれたか」
その言葉に大きく頷いて、私は嬉しさが込み上げる。ここまでの強大な結界を張ってくれたのだ、もうこの国に魔物が襲いに来る事も無くなるだろう。マヨイが戻ってきたら、最大級の感謝を捧げなくてはならない。
その時、大広間の地面に青い魔法陣が浮かび上がる。青の魔法陣は時の神の加護を得たテオドールのものだろう。私は英雄であるマヨイの帰りを迎える為、笑顔でその魔法陣の元へ向かう。
だが、その青い光が止んだ後に、険しい表情をするテオドールと、彼に横抱きされた、血が大量にこびりついた服を着ているマヨイを見て、私は息をするのを忘れるほどに衝撃を受けた。
◆◆◆
あの少年は、一体何者なのだろうか?
もしかしたら、あの少年が私に加護を与えた神なのだろうか?
死の神アドニレス、彼は自分の目玉を天に差し出しながらそう言っていた。
だかそんな名前は、ユヴァ国で見た本の中には存在しなかった。……あの黒塗りされた箇所を除いて。
もし、彼が私を呼んだ神なのであれば……一体、私に何を望んでいるんだろう?
「……マヨイ」
すぐ近くで、私を呼んでいる声が聞こえる。
私に適当に名前をつけた、あの優しい魔法使いの声だ。
私はゆっくりと目を開けると、やはりそこにはテオドールがいた。だが普段よりもやつれているし、目に隈のようなものまである。私は身体中に重たさを感じながら、彼の頬を触る。
「ごめん、テオドールに迷惑かけちゃった」
テオドールは一瞬驚いた様な表情を見せたが、すぐに顔を歪ませ頬に触れる手を握る。そんな表情をさせたい為に謝ったわけではないのだが、優しい彼は、私を心配してくれていたのだろう。それがとても嬉しく感じてしまうのが、何故か分からないが。
「悪かった、アンタを守るって言っておきながら、守りきれなかった」
「あれはしょうがないよ、まさか魔法でああなるなんて思わなかったし……あの男の子は?」
どうやらここは私達に与えられた城の部屋の様だが、あの少年はどこにいるのだろうか?周りを見渡しても居ないので、私はテオドールの方を見て質問してみる。一度、目線を逸らした彼だったが、すぐに優しく微笑んでこちらをみる。
「今は何も考えるな、寝てろ」
そう言われながら、握る反対側の手で優しく頭を撫でられる。温かい彼の手が心地よい、何度もされていると、また瞼が重くなっていき、私はそのまま目を閉じた。
あの少年は、何故目玉を天へ捧げていたのだろうか。
◆◆◆
「結界魔法じゃなくて魔術だった!?そんなのあり得ない!!」
ハリエドの聖女王は机を拳で叩きながら怒声を上げる。後ろの精霊も、ゲドナ王や姫も暗い表情をしながらその光景を見ている。
結界の外で魔物を狩っていたこの娘は、すぐ近くで結界を見た事により、その異常なほどの強力な結界に疑問を持っていた。加護を持った、たかが人間ができるほどの代物ではないと。だから結界発動時の説明を今しているが、納得が行かない様で声を荒げている。
「確かにあの結界は異常に強力だ、だけどもし、あんな代物を魔術で発動させたのなら、人一人分の対価が必要になるはず!!」
「マヨイは確かに全身から血を出して、あのままだと死んでただろうな。……だが、突然現れた死の神アドニレスって子供が、自分の片目を抉って対価にした」
その名前を知っているのか、シルトラリアは大きく目を開く。
「死の神アドニレス、本当にそう言ったの?」
「……あの子供を知ってんのか?」
投げかけた言葉には何も話さず、聖女王は苛立ちからか自分の指の爪を噛んでいる。それを見かねた後ろの精霊の男が、ゆっくりと口を開く。
「死の神アドニレスは、死を主る最高神の一人だ。だが、他の最高神達よりも異質な存在で、ほとんどの魔法書からは名前を消されている」
「何が異質なんだ?」
「……死の神アドニレスは、死者の憎悪で生まれた魔物という存在を、作り出した神だからだよ」
聖女王は爪を噛みながら告げる。その言葉にゲドナ王と姫は目を見開き、ゲドナ王は聖女王を見つめる。
「その神が我が国へ大量の魔物を呼んだのか?」
「いや、死の神は死者を導き作り出す存在で、操るなんて事はできるはずがないよ」
「では、その死の神に愛されたマヨイ殿は、死の神の加護を持つ聖女なのか?」
「……その事なんだけど、さ」
歯切れが悪く言葉を告げる聖女王は、俺の方を動揺した様な表情で見る。今までのおちゃらけた娘の表情とは全く違い、思わず眉を寄せる。
「死の神アドニレスは、加護を持たせた存在は歴史上独りもいない。死の神は「死者」にしか触れる事ができないから、加護を持たせた存在を作れない」
「……あの子供は、マヨイに触れていた」
「それは、マヨイが死にかかっていたからだと思う」
死にかかっていた、という言葉にゲドナの姫は唇を噛んで涙を堪える。それを聖女王は端で見て、再び話を続ける。
「テオドール、マヨイは空から落ちてきて、それを君が助けたんだよね?」
「……その通りだが、それが何だ?」
「おそらく、死の神はマヨイに加護を持たせる為に「死者にしようとした」んじゃないかな」
「………は?」
「死の神は死者にしか触れられない。だから加護を持たせたいと思うほどに愛おしい相手に触れれる様に、加護を与えれる様にマヨイを空から落として殺そうとした。……少しでも自分を落とした相手へ憎しみや恐怖が出れば、それで魔物に変えようとしたんだ。でもそれは偶然居合わせたテオドールが助けた事によって、失敗に終わった」
聖女王の言葉に、心臓の音がどんどん酷くなっていく。周りもその「可能性」に固まって聞くことしかできない。
「マヨイは死んでいない。……だから死の神の加護を受けているけれど、それも半端な状態なんだ。だから結界魔法なんて大魔法を発動させた時に、半端なマヨイの呪文は「魔法」じゃなくて「魔術」に変換されたんだと思う」
聖女王の言葉に、視界が歪んでいく。壁にもたれ掛からなければ、地面に座り込んでしまうほどの衝撃が襲う。俺は顔を手で隠し、浅い呼吸を繰り返す。
……あの時俺が、マヨイを助けなければあんな事にならなった事実を、受け止めきれない。そしてそんな死の神に触れる事が出来た俺は、死者ではない。
《 不老不死は、神でしか存在しない 》
俺は、俺は時の神の加護を得た、ただの人間のはずだ。
時の神と対面した記憶も、精霊に助けられた記憶もある。
けれど、ずっと、ずっと考えずにいた。ーーー自分を助けた精霊の顔を、何故忘れたのだろうと。




