ウェアウルフ村落制圧戦 5/5
「実に面白い魔術だった」
「お褒め頂き光栄です、なんてね。それにしても、ラプラス様には何をしたか見破られちゃったかぁ」
「自称とはいえ魔王だからな。……さて、次は俺の番か」
これで2連勝。只の3本試合なら勝負は着いたところだが、この場の目的はこちらの力を見せること。俺自身が口だけの張り子と侮られないようにする必要がある。
「俺の相手は、お前か」
「当然! オレ以外がマトモに戦える訳ねぇだろ!」
ウェアウルフの長、コルミィ。装備するのは大型の戦鎚。見るからに訓練用の武器ではない。
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□ウェアウルフ(エルドジーン) 種族ランクC
Lv41
・HP 118/118
・筋力 100
・耐久 75
・魔力 61
・抵抗 65
・敏捷 108
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エルドジーン? 知らない情報だな。……っと、まずは試合に集中せねばな。
「不意討ち上等! 好きに掛かってきな!」
誰が開始の合図をするのかと思ったが、そう来たか。なら遠慮せずに――――
「…………へっ?」
瞬間的に距離を詰め、コルミィの額に指を当てる。
「仮初の広場、展開」
◇◇◇
「……? ん?! どこだココ?! ……いや、オマエの仕業だな? オレに何をした!」
予想通りの困惑。冷静な判断までの時間は予想より大分早かった。
「安心しろ。ここは俺が作った仮想空間。解除すれば元の場所に戻る」
俺達2人が立っている世界――――幾何学模様が浮かぶ白い空間について説明をする。
「カソークーカン? なんのことだ?」
「……自由に動くことが出来る夢、といえば理解できるか?」
「なるほど、なんとなく分かったぜ。それで……夢の中なんかで何をするつもりだ?」
「なに、配下が良い働きをしたのでな。俺も全力を見せるのが礼儀かと思ったまでだ。ここなら余計な被害は出ないからな」
仮初めの世界で起こった出来事は、現実世界には影響しない。世界が消えるときに、中での出来事の記憶のみが残り、傷も疲労も無かったことにされる。
「つまり手加減をする必要がない世界というわけだ」
「そういうことか。魔王の全力とやらを楽しめるってことだな」
コルミィは戦鎚の柄を握り直し、こちらの出方を伺うようだが、そんな余裕はすぐに消え去ることだろう。
「まずは基本の四大元素……。1つは火」
腕を薙ぐ動きに呼応して、コルミィを囲むように黒い炎が燃え上がった。
「なんっ……だ、この炎?! ええぃ、まとわりつくな!」
炎自体が、獲物の動きに合わせて自らの形を変えている。逃げることは許されない。
「次は土」
適当なところで炎を消して別の魔術を使用する。
コルミィの足元が崩壊し、彼女の体勢も崩れ掛けた。
「これくらい、なんてこと……!」
ギリギリで踏み留まられたが、この魔術の効果は終わっていない。巻き上げられた土砂が、尖った石片となりコルミィへと降り注ぐ。
「不意討ち上等……だったな?」
少なくない傷を受けつつも礫の雨を耐えきったコルミィへ、続けて魔術を差し向ける。
「三手目、風」
コルミィを中心にした竜巻が、彼女の体を浮かせ、弄び、切り裂いていく。
「さっきの砂塵が混じったか。思わぬ効果が出たな」
まだまだ終わらない。四大元素、トリを披露する。
「最後、水の魔術」
虚空から生まれた水流がコルミィへと向かっていく。空中を自在に動く姿は、水で作られた蛇のようだ。
彼女は戦鎚で迎撃を試みるが、打撃で水は潰れない。水流へと飲み込まれ、陸上で溺れる感覚を味わう結果に終わった。
「……ゲホゲホッ! ……ハァ。魔王ラプラス、だったか……。言うだけのことはあるじゃねぇか」
まだ続けるつもりだろうか。ふん、付き合ってやるのも面白い。
「派生属性というのもある。例えば闇――――呪言魔術。“自分の腕を傷付けろ”」
「は? ……え?! か、体が勝手に……!?」
コルミィ自身の意思に反して、彼女の右腕が行動を始める。ウェアウルフ特有の尖った爪を自らの左肩に突き刺し、腕に沿って引き裂いた。
「――――ッ!?」
混乱と痛みの中、言葉にならない悲鳴が上がる。せっかくだから、もう少し試してやろう。
「こんなものもある。氷だとか――――」
コルミィの右足だけが凍り付く。そして、中の足を道連れに、氷は粉々に砕けて消えていった。
「雷だとか――――」
かざした掌から、コルミィへ電撃が流れる。彼女の体が痙攣して、微かに焦げた臭いが漂ってきた。
「ァ、ガ……」
「安心しろ。どうせ失われる痛みだ」
指を鳴らす合図により、空間内の“時”が止まる。
「只の魔術だけでは、魔王を名乗るには説得力が足りないと思うだろう?」
静止した時の中、返事は当然返ってこない。彼女の背後に回り、時間の停止を解除した。
「……?! いつの間に――――」
「時間を操り、空間を支配する」
コルミィの右腕、その手首の辺りから先の空間を丸く削り取った。
「な、何が……なんで……」
訳も分からず、端から身体を削り取られていく感覚はどんなものか。特に最後の空間断裂は術の性質上、痛みや出血などが生じることは無い。現象と認識の矛盾はさぞ恐怖を煽るだろう。
「さて、次はどうする? お前は何が見たい?」
「やっ、やめろ……。来るな!来るなぁ!」
彼女は怯えきってしまって、会話が成立していない。
「ふむ、少々やり過ぎたか? まあいい。力も十分に試せたし、せっかくの戦力を壊してしまっては元も子もないな」
今日のところはこれまでにしておくか。仮初の広場を解除すると、周りの風景が元の空間――――ウェアウルフの集落に戻る。
現実世界とは時間の流れが違う、俺とコルミィ以外には何も起こっていないように感じられているはずだ。
「……ハッ?! オレの身体……も、戻ってる……?」
「さあ、続きといこうか。力は十分見せただろう? ここからは手加減しておくから安心しろ」
武器は不要。魔術を使うか体術にするか。少し待ってみるものの、コルミィが向かってくることは無かった。
「ヒッ……!? ヤ、ヤダ……。分かった!オレの負けだ!」
「そうか? だが、ここでも少しは見せておかないと意味が無いのではないか?」
改めて魔術の構えを取るが、彼女は広場を脊にして脱兎の如く逃げ出してしまう。観戦していたウェアウルフ達も、何が起こったのか分からないという感じに呆然となっていた。
◇◇◇
しばらく経って、落ち着きを取り戻した様子のコルミィが戻ってきた。
「……ワリィ、少し取り乱した」
「何の問題もない。それで? お前達は俺に付くか?」
「あれだけの力を見せられたら嫌だなんて言えねぇ。オレ達は、魔王ラプラスの下に付く!」
こうして配下に新たな戦力が加わった。次は何をして楽しもうか。




