形勢逆転
※今回の話で言う所の『存在感』の数値に100を掛ければ、
GURPS(*)で言う所の『CP総計』の数値に相当する、
ぐらいの感覚で今回の話を書いております。
(*但し第3版準拠で、魔法・妖力・超能力などのルールを含む。
諸事情につき、私は第4版未プレイです)
あと、今回の話の推奨BGMは“Combat”。
――この“Combat”は、
1987年に発売されたシューティングゲーム
MSX版『沙羅曼蛇(サラマンダ;SALAMANDER)』の、
第3-B面(惑星ラヴィニア)で流れるBGMです。
このBGMを聴きながら、あるいは思い浮かべながら、
白銀の羽根が舞う場面を書きました。
いつの間にかマリさんの背後に現れた、どう見ても天使にしか見えない存在。
マリさんは、その存在の方を向いて、呼びかけた。
「貴女が超対称光衝波を次に放つためには、原動力充填にまだ時間を要するみたいね? アジュール」
『アジュール』と呼ばれた存在は、無言で頷いた。
「それなら、「あれ」を使いましょう。良くって?」
アジュールが再び無言で頷くと、マリさんはすばやく両手を開いて両腕を広げ、叫んだ。
「舞い給え、『千刃』!!」
その叫びに応じてアジュールが全ての翼を全開にしたかと思うと、六枚の翼から白銀の羽根が多数飛び出し、マリさんの周囲を高速で旋回し始めた。
白銀の羽根の群れの半数は彼女を中心にして右回りに、残り半数は左回りに、回転している。
彼女は白銀の羽根の群れを引き連れたまま、敵が密集している所に突進した。
――速い。人狼と化したキョウコほどではないが、それでも、マリさんが走る速さや跳躍力は、オリンピック金メダリストの3倍以上はあった。
良く見ると、彼女の体は金色のオーラを纏っている様に見える。あのオーラが、彼女の身体能力を強化しているのだろうか?
密集していた敵は、高速で旋回する多数の白銀の羽根に接触すると、いともたやすく微塵切りとなった。
その様子を見て、敵は浮き足立つ。
中には船上から飛び去って逃げようとした者も数体いたが、そいつらは突然断末魔の絶叫を上げながら失速し、爆散した。
〈敵前逃亡は許さんっ! 最後の一兵になろうとも戦えっ!!〉
ガーデスの怒声が響く。
乱戦状態になっていたので分かりづらかったが、よく見ると、ガーデスと依耶はいつの間にか距離を取って後退し、俺から百歩ぐらい離れた位置にいた。
その周囲を、配下の超対称生物どものうち数十体が取り囲む様にして護衛している。そいつらが、ガーデスの親衛隊の中でも特に強力な個体群なのだろう。
ガーデスと依耶だけが、『半透明な闇』とも形容すべき球状の領域の中にいた。
おそらく、俺を守っている結界と同等な、防御力場の類だろう。
その領域は薄暗いにも関わらず、俺はガーデスと依耶の表情を窺う事ができた。
ガーデスは苛立ちの表情を浮かべている様にも見えた。
依耶は相変わらず余裕の表情だった。
その時、俺は最上甲板の前方寄りの位置に立っており、ガーデスと依耶は後方寄りの位置にいた。
ガーデスの背後からは、配下の怪物どもが次々に涌き出てくる様に見える。まだ三百体や四百体はいるだろうか。
単純に数が多い事と、防御力が高いと思われる個体群が率先して壁となり始めた事が相俟ってか、ついさっき驚異的戦闘力の一端を披露したマリさんと言えども、なかなか敵陣を切り崩せない。
「……やっぱり、単純な力押しだけでは切り崩せないですわね」
マリさんはそう言って、甲板の穴の左側近くまで下がって来た。
旋回半径は狭めたものの、千刃の勢いはそのままだ。
マリさんが下がって来た直後、上空で戦っていたキョウコも甲板の穴の右側近くまで下がって来て、甲板から数十cmほどの所で空中浮揚の状態を保ち始めた。
よく見ると、毛皮の何箇所かに焼け焦げの様なものが見られる。
「空中での近接戦闘を主戦法とする敵を多く滅ぼしてきたから、後は飛び道具を主戦法とする敵が多く残ってる。
私が集中砲火されても死なないとは思うけど、わざわざ曝されたい火力じゃないわ」
キョウコは淡々と戦況を告げる。
「んー、俺の『聖者の茨』の有効射程はせいぜい50mかそこらだからなー」
グレイは世間話でもするかのような暢気な口調で言葉を返しつつ、上空から落ちて来た怪物や敵陣からの飛び道具を『聖者の茨』で船外に弾き飛ばす。
と、その時、上空に残っている敵とガーデスの背後に控えている敵から、多種多様な飛び道具が雨のごとく降って来た。
火球、雹、雷球、石弾のような物、光る矢のような物、暗黒の矢のような物、……等々。その数、数百以上。
だが、それらは全て、突如として現れた半透明の緑色に光る球殻に防がれた。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、辺りを見回すと、アジュールが左手を天にかざしているのに、俺は気付いた。
よく見ると、アジュールの左手の手甲には翡翠色の宝石のような物が填まっており、それが緑色に光っていた。
「防御障壁かよ……」
あれだけの数の飛び道具を全て防ぎきってしまう防御能力に、俺は驚嘆した。
まるで、神話に謳われたイージスの盾だ。
敵の飛び道具の雨はまだ続いているが、アジュールが生み出した防御障壁はびくともしない。
「あの生首野郎が引き篭もっている結界は、それなりの時間をかけて全員総攻撃を続けないと壊れないだろうな。
……結界を壊そうとしている間に敵の飛び道具部隊の攻撃に曝されるのは嫌だね」
『聖者の茨』の有効射程内にいた敵を全て屠ったグレイが、呟く。
「それなら、良い方法が有りますわ」
マリさんがそう言って、腰に付けた鞘から、短剣を抜いた。
十字架を模した短剣で、真っ直ぐな銀色の刀身と、装飾が施された金色の鍔と柄。
そして、柄の根本には鮮血の様に赤い紅玉が填まっている。
まるで、赤い眼の様だ。
それを見たグレイは、気軽な口調で言った。
「ん、任せた」
一体何をするつもりかと思って見ていると、マリさんが右手に持った短剣を高く掲げ、叫んだ。
「『赤き眼』よ! 群れを率いて敵を討て!!」
そして彼女は短剣を敵の方向に投げ、唱える。
「統刃群!!」
すると、彼女の周囲を旋回していた羽根の刃の群れが、今度は『赤き眼』と呼ばれた短剣の周囲を回り始めた。
羽根の刃の群れは『赤き眼』に率いられ、ガーデスの背後に控えている敵の軍勢目掛けて飛んで行った。
たちまち、ガーデスの背後から敵の悲鳴が聞こえて来た。
統刃群は、敵の飛び道具部隊を一方的に削っていく。
敵の攻撃は目に見えて弱まっていった。
「サンキュー、マリ」
キョウコはそう言って、再び敵の群れに対して突撃した。
「もう一押しで形勢逆転、だな」
そう言って、グレイも敵の群れに対して突撃した。
彼が甲板を蹴った次の瞬間、背中から黒い半透明な蝙蝠の翼のようなものが飛び出し、彼は空を舞った。
グレイもキョウコも、そして赤き眼に率いられた統刃群も、何の抵抗も無くアジュールの防御障壁の外に出ている。
防御障壁にも敵味方識別機能が有るらしい。
その防御障壁が消えたかと思うと、マリさんが凛々しい叫び声を上げた。
「『聖霊憑依』!!」
マリさんとアジュールの姿が重なり合い、眩い金色の光が溢れる。
次の瞬間、二身一体となった戦いの天使が現れた。
蒼穹の色の金属鎧、右手の大剣、左手の手甲、頭上と背後の金色の光輪、そして背中から生えている三対六枚の翼はアジュールの特徴そのままであるが、顔立ちはマリさんそのままである。
アジュールと一体化したマリさんが大剣を両手で持って構えると、大剣の輝きが増し、電光を帯び始めた。
「『超対称電刃剣』!!」
ヴォンッッ!!
人狼と化したキョウコに勝るとも劣らない高速でマリさんが飛び出したかと思うと、次の瞬間にはガーデスの闇の結界に一太刀浴びせていた。
ザシュッッ!
〈ぐおぉっ!?〉
ガーデスが叫び声を上げる。
超対称電刃剣は闇の結界を切り裂くには至らなかったものの、衝撃を与えはした様だ。
闇の結界のすぐ上をかすめる様にして飛んだマリさんは、超対称電刃剣を大きく横に振り、ガーデスの背後に控えていた敵を数体まとめて薙ぎ払った。
「グレイの言った通り、闇の結界を壊すのは邪悪の下僕どもを一掃してからの話ですわね!」
マリさんは、更に敵を数体まとめて、一太刀で薙ぎ払った。
グレイとキョウコ、そしてマリさんが、次々に敵を屠っていく様子を、俺は茫然として見ていた。
「むぅ。あの闇の結界を壊す段になるまで、拙者の出番は無いかもしれんでござるなぁ」
俺を守っている光の結界のすぐ外で、ゴズモフ先生が呟いた。
「ゴズモフ先生……あなた達は……一体……?」
「ん? 人間でござるが?」
「普通の人間は、超対称生物を攻撃するどころか、見る事すらできません」
「それを言うなら、乱戦状態にある超対称生物の姿を捉えている今の君も、『普通』の枠からいささか離れているでござるな」
……え? そう言えば、俺、何でガーデスとその親衛隊の姿を見る事ができているんだろ?
確かに依耶が「親衛隊は強力な個体がそろっていて、その気になれば普通の人間にも姿を見せる事ができる」という旨の事を言っていた。
しかし、乱戦状態になっている今、ただ守られているだけの非戦闘員でしかない俺にわざわざ姿を見せる必要も余裕も無いはずだ。
それにも関わらず、俺がガーデスとその親衛隊の姿を見る事ができているという理由は……
〈私が戻って来たせいですね〉
戦闘が始まってからずっと俺の背後に黙って立っていたメルリンが、再び言葉を発した。
〈今後の戦いの推移をあなたにも見届けてもらうため、私がかつてあなたに与えた超感覚力を、あなたに戻しました。
今回はちょっとした改良を加えています。
あなたが眼鏡などの矯正器具を付けていようがいまいが、最適な感覚が得られるように自動調節する機能を付加しました〉
メルリンのその言葉を聞いた俺は、新調したばかりの眼鏡を外して、周囲を見た。
殆ど新月になった、星明かりと遠くの街の灯ぐらいしか光源が無い夜であるにも関わらず、俺は周囲を明瞭に捉えていた。
色の見え方は真昼といくらか異なったが、輪郭は真昼と同じくらい明瞭に見えた。
熱も見えたし、視線が通らない所でも、あるいは眼を閉じていても、船上とその周囲にいるあらゆる生命体(もちろん超対称生物も含めて)の位置と個体数、そして『存在感』を感じ取る事ができた。
背後にいるメルリンの存在感が、最も大きい。
メルリンとほぼ同じ大きさの存在感を醸しだしている存在が、やはりガーデス。
メルリンとガーデスに次ぐ存在感を持つ存在が、アジュールと一体化したマリさん、人狼と化したキョウコ、聖者の茨から成る鎧を纏って黒い翼を生やしたグレイ、そして俺を守っている光の結界を隔てて俺の左隣にいるゴズモフ先生。
存在感を数値化するとしたら、メルリンが100、ガーデスが99。
マリさん、キョウコ、グレイ、ゴズモフ先生が20~30くらい(憑依もしくは一体化している存在の分も合わせて)。
半数近くにまで減ったとはいえまだ二百や三百はいるであろうガーデスの親衛隊が、1個体当たり5~10の範囲といったところだろうか。
俺自身は、メルリンの加護を得た今の状態ですら、1から2ぐらいしかないように思える。
依耶は、10前後だろうか。あいつもガーデスの加護を受けているに違い無いが、それが無くても俺よりずっと大きな『存在感』を持つ事も、また間違い無い。
『存在感』を単純に足し算していけば、現状でも敵は味方の十倍以上になる。
だが、味方は1名たりとも欠けてはおらず、ダメージも大して受けてはいない。
たぶん、攻防における敵味方の相性の良し悪しに因る所が大きいのだろう。
グレイは「聖者の茨は、標的が悪意に満ちた存在であればあるほど、標的により大きなダメージを与える」という旨の事を言った。
グレイの聖者の茨だけではなく、キョウコやマリさんの攻撃手段も、同様な性質を持っているに違いない。
また、キョウコの発言やアジュールの防御障壁の件などから、敵の攻撃力を無効化するあるいは大幅に減衰させる防御力を、味方の各々が有している事も分かる。
さもなければ、圧倒的な兵力差をものともせずに敵を屠り続ける事などできるわけがない。
存在感の大きさからして、ゴズモフ先生も同じ様な攻防の力を持っているに違いない。
俺は、先生にあらためて尋ねた。
「ゴズモフ先生、あらためてお尋ねします。
……あなた達は、一体どういう人達なのですか?」




