~Interlude 6~
その男女は、満月の夜に森林浴を楽しんでいる様に見えた。
男は木に凭れ掛かる様にして立って腕組みしており、女は木の側のやや扁平で丸っこい石の上に腰掛けていた。
女の傍には狼が寝そべっていた。
木々の間から差し込む月の光の下で蒼く見えるその狼は、明らかに標準的な個体よりも大きく、前足一つ見ても、その幅は大の男の握り拳より一回り以上大きい。
男も女も、20代前半ぐらいに見える。
男は牧童風の出で立ちをしており、額の辺りには赤を基調とした金糸の刺繍入りバンダナを巻いている。帽子は被っていない。
右の腰には鞘に入った短剣が吊り下げられ、左の腰には茨を思わせる鞭が丸まった状態でぶら下げられている。
男の眼は濃い紅茶色で、見る者に抜け目無さを感じさせる。
長くも短くもなく整えられた髪は濃い焦茶色。
肌は色白で、端整な顔立ちである。
女は先住アメリカ人風の出で立ちをしており、額の辺りには青を基調とした銀糸の刺繍入りバンダナを巻いている。
格闘用の指貫グローブ以外には、特に武器らしい物は装備していない。
女の眼は濃い琥珀色で、意志の強さを感じさせる。
肩まで伸ばした髪は烏の濡羽色で、光の加減によっては緑色に見える艶を帯びている。
肌は小麦色で、整った顔立ちをしている。
長身で、立ち上がれば男とほぼ同じ背丈になるだろう。
男の視線の先で、枝に留まった梟が鳴いていた。
しばらくして梟が飛び去ると、梟が留まっていた枝の上の虚空を見つめたままで、男が喋った。
「つまり、あれか? 俺達に囮になってもらいたい、と」
〈はい。場合によってはそのまま陽動役として暴れていただく様、考えています〉
男の問いかけに答えた声は、男と女と狼にしか聞こえない。
「最初は、誰か一人だけが案内役になる案を実行予定だと聞いていたんだけど……違うの?」
見えない声の主に向かって、女が問いかける。
〈実際、そのつもりでした。
しかし、敵は検査技術の向上に並々ならぬ力を注いでおり、予想よりも早い進歩を遂げています。
何重にも検査を重ねられると、目標に充分近づく前に発覚する確率が許容水準を超えてしまいます。
そこで、計画を変え、あなた達には当初と違う役割を担っていただきたいと思います。
あなた達とその一族を含む協力者の皆さんが、予想以上の戦闘力を身に付けている事から、思いついた案です〉
「……」
狼は声に耳を傾けて黙考している様だ。
そばにいる男女も、しばし黙考した。
「で、俺達への報酬は?」
男が再び口を開く。
〈成功報酬は、貴方達一族が気兼ね無く繁栄していける世界……で如何でしょう?
事前報酬として金塊10トンとプラチナ10トン、それらに加えてその他の主な貴金属や希土類元素等40種5トンずつを、貴方達一族の所定の隠し場所に置いておきます〉
男と女が特に驚く様子は無い。狼も、動じる事無く寝そべったままである。
「その成功報酬、依頼達成したらほぼ自動的に手に入りそうな気がするんだけど」
女が苦笑いを浮かべながら言う。
「事前報酬、大盤振る舞いにも程が有るって額だな」
男も苦笑いを浮かべて言う。
狼は黙ったままだ。
「破格の高額報酬を前払いしても絶対持ち逃げせずに、依頼を確実に達成する……どこの漫画の狙撃手だっつーの」
〈事前報酬は、あなた達への信頼の証である、として受け取ってください〉
男のやや戯けた口調に対し、見えない声の主はそう言った。
その言葉を受けて、男は女の眼と狼の眼を見る。
女と狼は、無言で頷いて同意を示した。
「オーケイ、依頼成立だ。必ずや、あんたの期待に応えて見せよう」
〈大いに期待していますよ〉
そう言って、見えない声の主はその場を後にした。




