41 格子を隔てた取引
二重投稿になっていたので、修正し次話を投稿しました
「……君は何者なんだ?」
「今のあんたがそれを知ったところで、何も出来ねぇよ。黙って話を聞いておきな」
磔にされたままの相手に現状を自覚させながら、俺は言葉を続ける。
「それでも言っておくとしたら……たまたまここに忍び込んだ怪盗だ、と言ったらあんたは信じるかい?」
「ふふ、冗談にしては笑える話だ。ここには魔族が人間の姿をして蔓延っているというのに」
「……へぇ。知ってたのかい」
「その魔族に成り代わられた私が言うのだ、間違いないさ」
自分を嘲るように笑う、本来の領主館の主であるエトワイト卿。
だとしたら、ここで起きている事も知っているんだろうな。
「あんたは、ここで何が起きているのかを知っているのか?」
「あぁ。魔族による人身売買だろう?」
「その目的は?」
「こうして捕まえられている私が知っていると思うかい?」
「ま、そうだよな」
それはそうだ。
知らされているのであれば、こうして生きてはいない。既に始末されているだろう。
「私は、何かあった時の身代わりとして生かされているだけに過ぎないのだよ」
「達観してるんだな」
「魔族に全てを奪われ、無駄に生かされている命だ。色々と考える時間だけはあったのだよ」
「なるほどね」
格子越しに話しかけていると、この男は悪い人間ではない、と解る。
事前情報で仕入れていた「ルコミスの領主は悪政を強いている」というのは、成り代わった魔族が好き放題にしているからこその悪評だったのだろう。
「……それにしても、君は良くここまで中に入れたね。外には見張りがいただろう?」
「あぁ、いたな。コイツで始末したが」
チャキリ、と相手に見えるように短剣達をちらつかせた。
それを見て、エトワイト卿の表情が驚きに染まる。
「魔族をそれで倒したというのか?」
「不意打ちで頭に一発、ドスンとね」
「なるほど、致命傷なら仕方あるまい」
人の姿をしていれば、人体構造なんてそんなものだ。
頭と首と心臓。この三つを狙えば大抵の存在は命を落とす。心臓や脳をいくつも与えられたキメラみたいな合成魔獣みたいな化け物は別だが。
「……で、だ。見つかって仲間を呼ばれる危険を冒してまで私に会いにきたのは、理由があるからなんだろう? 魔族殺しの怪盗君」
そして、理解が早い。
国境の町の領主をしているのだ、それなりに頭が回る人物だろうと思っていたがその通りだったらしい。
俺は短剣をしまい、俺は話しかけた本題に入る。
「あんたと取引をしたい」
「私とかい?」
「あぁ。事が終われば口添えをして貰いたい」
「何をするつもりだい?」
「あんたに成り代わってる魔族を潰す」
真っ直ぐに相手の目を見つめ、俺は続ける。
「それで、魔族がしてきた人身売買の後始末をやってもらいたい」
「そういうのは、奴隷ギルドの管轄ではないのかね?」
「その奴隷ギルドからの『依頼』で来てるのさ。実態を調査し、可能なら魔族を殲滅しろって」
相手からは遠めに見えるだろうけど、俺はカタリナから手渡されたギルドの刻印が入った依頼書をエトワイト卿に見せる。
依頼書の偽造なんてものは出来なくもないだろうが、そんな事をしたところで俺に利がある訳ではない。むしろこの場合は厄介事を持ち込んでくる事の方が多い。
それに、偽造してる暇があるならギルドに直接掛け合って正式なものを発行して貰えば済む話だからな。
「……それは、可能なのかい?」
「可能かどうか、じゃないな。これから『やる』のさ」
奴隷達の扱いにイラついたっていう、超個人的な理由ではあるけどな。
「あと、しばらく俺は動けなくなるだろうからその間の世話も頼みたい」
「どうしてだい?」
「こっちの事情でな。詳しく話してる時間は今の状況では無いだろ?」
「それもそうだね」
「……聞かないのか?」
「成功させるだろうな、と分かっていて、二度聞く手間はしたくないのさ」
「唐突に現れた得体の知れない人間を簡単に信用するんだな」
「頼れるものが君しかいないのなら、信用するだけだよ」
「それでは、取引成立だな」
器が大きいのか、人を見る目がないのか。
もしくは、この短いやり取りの間に信頼されるだけの何かがあったのか。
どれなのかは分からないが、後ろだてが出来るのはありがたい。
説明を終えたところで、俺は格子から身体を離す。
「ギルドの方には連絡を飛ばしてある。あと一時間もすればギルドの面々が飛び込んでくるだろう」
「それまで、君はどうするつもりなんだい?」
「ん? 決まりきった事さ」
エトワイト卿の質問に、俺はニィィッと歯を見せて嗤う。
「ここまで好き放題してくれた魔族に、この館からご退出してもらうのさ」
握り締めた短剣が、地下牢を照らす松明の光に照らされーー妖しく煌めいていた。




