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20 認定試験


「ナナキさーん! あなたにEランクへの認定試験が届いていますよー!」



 ギルド長室から出てきたところで、アンナが俺に向かって手を振って呼びかける。

 冒険者として登録してからまだ十日も経っていないのだが、それだけギルドに貢献しているのと実力があると認められたって事なんだろうか。


 そちらに向かう俺に、いつものように奥の団欒室でくつろいでいる冒険者達から「頑張れよー」とか「気楽にやれば大丈夫だぞ」といった応援の声を貰う。

 応援してくれるのは良いが……あそこにいる冒険者達って、いつも居るような気がする。

 彼らのランクは気にしていないが、依頼とかはちゃんと受けているんだろうか?


 あと、ギルド長にこの世界の事を教えて貰っている事は、この数日の間に冒険者達の間では周知の事実となっていた。

 何故かというと、今、俺をお呼びになっている受付嬢の方が「うっかり」話してしまったからである。

 その事実はすぐにギルド長の耳に届く事となり、呆れ笑いを浮かべる冒険者達の目の前で大説教となった訳だが。


 ちなみに、本人としてはギルド長の大説教よりも、反省の意味も込めてさせられた「正座」の方が身に堪えたらしい。

 慣れていない人間が長時間も続けていれば、数分は立ち上がれなくなるくらいに足が痺れるのだが……その洗礼はこのウィルマキアでも同じなようで。


 痺れて立ち上がれない足をギルド長に突かれて悲鳴を上げる受付嬢の姿は、ここ数日の笑い話になっている。



「登録してからそんなに経ってないですけど、受けられるものなんですか?」


「あれだけの納品成果を一度に持ってきておいて、何を言ってるんですかー」


「確かにギルド長も驚いてましたけどね」



 道具袋……というか、あのサイズだと背嚢だな。

 それを納品アイテムで満杯にして持ち込んだFランクの冒険者なんてそうそう居る筈がない。


 そういう意味では、確かにこのランクとしては規格外なのかもしれないが。



「なので、ナナキさんならこの試験もサクッと達成してくれると思います」




 ―ランクE 認定試験―


  内容  :月光草の採取

  成功条件:月光草を納品する事

  成功報酬:8000ゼニー




「月光草?」



 確か、治療薬として効果の高いものだったか。

 その名の通り、月の光を受けて淡く光る事から名付けられている。

 群生地はいくつかあるが、その一つはこの町から程近い場所に在る……と、知識には入っている。



「はい。こちらの採取を認定試験として選ばさせて頂きました」


「選ばさせて……という事は、他にも候補はあるんだ。認定試験って」


「まぁ、そうですね。支部によって多少の違いはありますが、基本的に内容は『本人が達成できるもの』を選んでいますから」



 それはつまり、こういう事だろう。

 討伐系の貢献をしているものであれば、魔物討伐が。採取系の貢献をしているものであれば、採取依頼が認定試験として選ばれる。


 冒険者側から見れば、自分の得意とする分野で挑戦できて。

 ギルド側としては、上位ランクになる冒険者を増やしやすい。


 長い目で見れば、それぞれの方面の依頼に長けた人材を作る事も可能なのだから、双方にとって不利益な事はないだろう。



「認定試験の事は納得出来ました。それで、依頼の詳しい内容と採取場所はどこですか?」


「ここから程近い場所にある『コルフェ山』の三合目に、月光草の群生地があります。そこで採取をして頂いて、無事に持ち帰って頂くのが試験の内容です」


「あそこに……」



 コルフェ山は、エトニア公国とリヴァイシュ国を繋ぐ形で伸びている「蒼竜山脈」に連なる山の一つだ。

 国同士を繋ぐ街道として拓かれた登山道もあるのだが、切り立った崖と荒々しく立ち並ぶ岩肌を避けて安全に隣国に向かう者が多いために使う者は少ない。

 それを逆手に取り、自らの鍛錬場所として重用する冒険者も多い。

 魔物もそれなりにいるため、冒険者としての腕を磨くには丁度良いのだとか。



「期限は設けていませんし、今すぐ受注しなくても構いません。必ず生きて帰られるよう、念入りに準備する事をお勧めします」



 アンナの言葉に、俺は深く頷く。


 今回の依頼……というか、認定試験か。

 これは今までみたいに、着の身着のままでパッと行けるほど易しい依頼じゃない。


 しっかりと装備と道具を整えた上で向かわなければ、依頼達成する前に自分が命を落としかねないだろう。



「それでは少し準備してきます」


「えぇ、認定試験の方は保留としておきますね」



 そんな言葉をかわしてから、俺はギルドを出る。


 冒険者は少し臆病なくらいが長生きする。

 何故なら、自分の命を守るためにありとあらゆる可能性を模索するから。


 崖から落ちるかもしれないし、あの辺りに棲む魔物にやられる可能性だってある。

 それを「杞憂だった」と後で笑えるようにするためには、事前の準備が必要だ。

 幸いにも、登山用の道具を買う分のお金は手元に残っている。

 防具も調えて、依頼に備える時間もあるんだから、慎重に慎重を重ねてもお釣りが来るくらいにした方がいいのだと思えばいい。



「……まずは、依頼に必要な道具と、念のための野営道具か」



 イシュマからコルフェ山は、往復するだけで言えば半日もかからない距離だ。

 加えて、山頂まで登ってから町に帰る事を考えると、慣れた人間であれば一日で可能な距離でもあったりする。


 ……だが、今回は速度よりも安全を取ろう。

 命あっての物種、という言葉もあるし、アンナの言葉の通りに「生きて帰る事」が最優先だ。


 山の麓に早く着くのはいいとして、月光草の採取のために一日は時間をかけたい。

 月光草がどんな見た目の草であるかは、完全適応で理解はしている。けれど、それが本物であるかを確かめておきたいのもあるからだ。

 そして本物である事を確認してから採取して、翌朝を待って安全に下山すれば良い。



「加えて、装備は調えたいし……それに合わせたスキルも考えておかないと」



 動き易い軽装、という事なら今のままでも充分かもしれない。

 だが、そこに防御力と防寒、という事を考えると、今の装備では弱いだろう。スキルの事も考えれば、尚更だ。

 いざという時に素早く動けるような装備でなければならない。


 俺は死ぬつもりなんてないし、エルクゥが散々弄り回したであろうシナリオでも俺がここで死ぬ結末なんて書いていないはずだ。

 それでも、想定外、というものはいつだって起きる。

 命の危険がある以上、準備は念入りにしておくべきだろう。

 それに対して敏感になっておくのは、臆病者として正しい判断だと思うのだ。













「……という事で、少し空ける事になると思います」



 ギルドからそのまま雑貨屋などを巡り、準備を整えた俺は教会でフィオに認定試験の事を伝えた。

 少しと言っても、採取が上手くいけば空けるのは一日の予定だ。俺も長い間山篭りするつもりはないのだから、採取さえ済ませてしまえばすぐに帰るつもりではあるが。



「そうですか……」



 俯くフィオの表情は、俺からは窺い知れない。

 今までの依頼とは違い、認定試験では命を落とす可能性が明確となっているのだ。だからこそ、シスターという立場としてはあまり推奨出来る立場ではないのだろう。


 ……それでも、顔を上げたフィオの顔は、笑っていた。



「でしたら、帰ってきた時にお祝いをしませんとね!」



 帰ってくる、という事は依頼を達成する条件が揃ったから帰る、という事。


 つまり、フィオは俺が試験に合格する事を信じている訳だ。



「お祝いって、何をしてくれるんですか?」


「ちょっとだけご飯を豪勢にします」


「それは確かにお祝いだ」



 教会のために質素倹約を主としているフィオにとって、食事を豪華にする事は最大限の祝福なんだろう。


 家族を祝福したいから、ご飯を豪勢に。


 その発想は子供らしいと言えば子供らしいけど、赤の他人である俺を家族のように接するフィオらしいと言えばフィオらしいとも言える。



「フィオのお祝いが楽しみだから、試験を合格しないとなぁ」


「ふふっ、楽しみにしてますからね」



 合格を信じて疑わないフィオ。

 その笑顔を守るためにも、俺は試験を合格しないといけないのと同時に……ちゃんと『生きて帰る』事も守らないといけないんだな、と胸に刻んだ。



(……死ぬ訳には行かない理由が出来たのなら、頑張るしかないよな)



 ギュッと握り締めた手に力がこもる。

 けれど、その力みはどこか心地良くて……理由も無く、大丈夫だと思えた。


 俺にもそう思った理由は分からない。


 でも、その確信にも似た思いは。

 間違いなく、俺の胸の中に残っていたのだった。



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