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 そう決意したところで、ごんごんとノックの音が響きました。この国の扉に使う木は手で叩いたところで音を通さない質なので、低い響きをさせるノッカーが各部屋についています。わたしはまだ寝衣のままですし、従者が居るのに自ら出たら「お前は役立たず!」と言うことになるらしいので、黙ってネヴィルに頷いて用聞きをお願いしました。

 この程度の「お願い」でも、彼はなぜだかやたらと嬉しそうに微笑みます。人には頼みごとをされるのが好きなら、なにか頼られるようなお仕事を探してあげるのが良いでしょうか。文官のなかにそういう仕事がありましたっけ? 

 わたしもいつか将来を決めねばならないのに、この世界の職種をどうにも知りません。十何歳のなんちゃら、みたいなお仕事紹介本はさすがにないでしょうし、お父様や家庭教師に教えていただく以外どうやって知れば良いのでしょう。とりあえず、今度その術がないものか聞いてみることにします。

 いや、それくらいなら使用人の方でも構いませんね。ネヴィルが居ない時に……どうにか……居ない時なんてこれからしばらくありますかね……?

 そうやって取り留めなく考えつつ紅茶を飲み干すと、なんだか微笑んでいるような真顔のような微妙な表情のネヴィルが帰ってきました。

 朝から部屋に届けに来る用件、というのは、つまり火急のものであるとわたしはここでようやく気付きます。

 いったい何があったのでしょう。

 誰かの命に関わることならば、ネヴィルだってもう少し急ぐに違いありません。それだけを落ち着かせる理由にして、貴族令嬢らしく、ゆったりと微笑みます。


「どうしました、ネヴィル?」


 ネヴィルは薄い桜色の唇を引き結んだまま、ためらうように長い睫毛を伏せました。まさか、そんなに言いづらいことなのでしょうか。

 彼が言い淀むとしたら、自身のことでもお父様のことでもなく、きっとわたしのことです。

 いろいろ不安な気持ちは膨れ上がりますが、心当たりが一切ないために、冷静な部分が「どうせなにか前に欲しいといったものが届かなかったとかかなあ」と囁きもします。

 わたし、なにを欲しがったでしょうか。チョコレートやケーキはしばらく求めた記憶がありませんし、宝石やドレスは多すぎてもういりません。昨日の薔薇を綺麗だと言ったので、それでしょうか。


「ネヴィル?」


 首を傾げると、ネヴィルは息を吐きます。


「このような朝から無作法ものが前触れもなくセラフィーナ様の清らかな朝を汚しに来たようです。もちろん追い返した所で全く問題はありませんが、現在旦那様もいらっしゃらないため、セラフィーナ様にお伺いを、とのこと。品位は比べえないものの、貴族位は同じですので」

「誰かいらしたんですか?」

「ええまあ」


 間。


「どなたでしょうか」


 ……間。

 この間もお待たせしているということですから、話しながら立ち上がります。髪を梳かして、ええと、今日の服は決まってるのかな。

 前触れなく、同格の方というならばいつもの服で……同格の、って伯爵位を持ってる方でしょうか。大人ならもうちょっときちんとした格好をしなければ。どこか伯爵家のご子息なら構いませんが。

 うちの使用人の方々はおもてなしが得意です。まだ時間はあるはず。扉向こうに控えるアディを見つけたので、目線だけで身支度の準備を頼みます。


「ネヴィル、どなたがいらしたんですか?」


 できるだけ、優しい声で。

 彼はなんでも器用にこなしますし、年不相応の大人びた態度を見せますが、まだ11歳の男の子なのです。言いたくないとか嫌いだとか、そういった感情に流されても仕方ないでしょう。歳上からすると可愛らしくて良いですよね。

 にっこり首を傾げれば、ネヴィルはこちらをちらりと見て、不貞腐れたように唇を尖らせました。うわっかわいい。


「昨日」

「はい」

「セラフィーナ様に愚かにも暴言を吐きその輝きを認識できぬ節穴の如き目を持つ己の身の程さえわからぬ矮小な、我が身と同じ血が流れているなどと理解しがたいおが屑を脳みそに詰めた赤ん坊より知性の欠片も持たないあれです」

「ええと」


 答えづらいんですけど。


「メリザンド様ですか……?」


 目を伏せて頷くネヴィル。彼の言葉を頭の中で整理して、思います。


 うわっ、かわいくない!






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