表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/85

サイドストーリー第九話 懺悔(フェリシア視点)

【フェリシア視点】


 火……?

 壁に火が点いてる。


 ……倉庫が燃えてる!?


 飛び起きて倉庫から出て周囲を確認する。

 倉庫だけじゃない。

 村の中の全ての建物に火が点いている。


 村の入口付近にコーマを見付け、急いで駆け寄る。


「コーマ、何が起こったの!?」

「分からない。だけど大量の人間が森に入ってきたって報告が」

「大量の人間って、騎士団!?……まさか、もう!?」


 騎士団がいずれコーマを殺しに来るとは思ってたけど、いくらなんでも早過ぎる。

 2日前にエストーラでのことが片付いたばかりなのに、なんでコーマがここにいるってもう分かったの?


「まさか本当にゴブリンの村にいるとはな。

 しかし……2人?

 片方はコーマで間違いないようだが、もう1人は誰だ?」


 森の中から3人の騎士が出てきた。

 ゴブリンの村にいるって知ってた?

 じゃあ、ルシアさんが場所を伝えたってこと?


「お前らは王立騎士団なのか?」


 コーマが騎士に話掛けた。


「そうだ」

「何をしにここへ来たんだ?」

「コーマ、お前を処分するためだ。

 本来なら冒険者ギルドの仕事だが、その冒険者ギルドの解体が決定した今、その仕事は我々王立騎士団に引き継がれた」

「ギルドが解体!?」

「その引き金を引いたのは貴様だと言うのに、何を今更」


 本当にね。

 コーマのせいで私たちは大変なことになったのに。

 コーマが何もしなければ、私は、こんなところに来なくて良かったのに。


「まあいい。ゴブリンもろとも処分することは決定している。

 そっちの女もついでに処分しておくか」

「待て、フェリシアは関係ないんだろ」

「だが冒険者ギルドの関係者だろう?

 それなら多少なりとも魔法を使えるはずだ。

 魔法を使える平民は全員処分。

 これも決定事項だ」


 騎士団はギルドと戦争する気なんだね。

 ならやっぱりコーマに貴族を殺させることは間違ってない。


「フェリシア、離れていろ。こいつらを全員殺す」

「うん」


 コーマから離れ、村の中央を目指す。


 火は村中に周り、無事な建物は一つもない。

 この村はもうダメ。

 私だけじゃない、ここのゴブリン達ももうここには住めない。


『カミルさん!この村の住人は全員集まってる!?』


 村の中央のゴブリンの集団の中心にいる村長のカミルさんに話しかける。


『フェリシア、もう体調は大丈夫なのか?』

『うん、それより皆で早く逃げよう!』

『ああ……だけど、どこに?』


 村の外側を見渡すと、取り囲むように森の中から騎士達が出てきた。

 全員鎧を纏っていて、石を投げた程度じゃ倒せはしない。

 何か突破口を作らなきゃ……。


『フェリシア!村長!俺達……どうしよう……』


 ダミアンとエラが私たちのところに来た。

 ダミアンの背には弓、エラの背には矢筒……。

 そうだ、これなら!


『ダミアン、エラ、それを貸して!』

『えっ、でもコーマが弓矢は効果が薄いって』


 ゴブリンの筋力を考えてのことかな。

 最近ダミアンとエラの命中率は上がったけど、距離が離れると的に刺さらないことが多い。

 森の中なら木の上に登れるけど、村の中じゃそれも叶わない。

 でも、私なら!


『私なら騎士を倒せる!早く!』


 そう言っている間にも騎士の方から矢が飛んできて、何匹かのゴブリンの命が絶たれた。


『わ、分かった!』


 慌てた様子のダミアンとエラから受け取り、矢筒を背に、弓を手に持ち、矢を番える。


『皆!私が騎士を倒したら、そこを目掛けて全員で走って逃げるよ!』


 ゴブリンの了承の声を聞き、矢を引く。


 私はこれから人を殺す。

 今までだって沢山ゴブリンを殺してきた。

 でもそのゴブリンは知能の無い敵じゃなくて、生きている隣人だった。

 なら今までゴブリンを沢山殺してきた私と大量殺人者の違いは?


 ……そんなものはない。

 だから、これから私が殺すあの人もその沢山の中の1人になるだけ。


 コーマがいる方向と真逆の位置にいる騎士の照準を定める。

 あの騎士は私に気付いて盾を構える。

 でも、そんな小さな盾じゃ体全体を守ることなんてできない。


 矢を持っていた手の力を抜くと、騎士へと真っ直ぐに飛んでいく。

 矢はその騎士の下腹部に命中し、騎士はその場で蹲った。


『みんな、走って!』


 ゴブリンたちに合図して一緒に走り始める。


 私は……うん、思ってたよりも大丈夫。

 まだ戦える。


 新しい矢を取り出しながら周りの騎士の動きを見る。

 矢を放ってきてるけど、囲い込みを再構築する動きは遅い。

 今ならまだ逃げられる!


 近くの騎士に向けて矢を放ちながら森の中へと走る。


『あっ!』


 まだ幼いゴブリンが躓いて転んだ。

 助けたい……けど、今逃げなきゃもう逃げられない!


『大丈夫か!?』

『ダメ!今は逃げるよ!』

『でも……』


 そのゴブリンは足を止めてしまった。

 ……ごめん、私も助けたい。

 けど、ダメなんだ。


 足を止めたゴブリンを置いて、森へと向かう。


 少ししてから後ろから悲鳴が聞こえた。

 振り返っちゃダメ。

 私はベルハイムに帰るんだ!


 ◇◆◇◆◇


 森に入ってしばらく走り続けたが、騎士は遠くを並走しており、逃げ切れる様子はない。

 それどころか、ゴブリンの速度に合わせてるせいで少しずつ追いつかれてきてる。

 このままじゃ全滅する……。


『フェリシア、どこまで逃げれば良いんだ!?』

『まだ!ずっと遠くまで!』


 ゴブリンたちの様子を見ると、大人はまだ体力が残っているようだけど、子供や出産したばかりの女の子はもう限界みたい。


 騎士団はゴブリンとの戦闘を専門としているから、ゴブリンを殺せる機会があったら殺すだろうけど、今のメインの標的は私。

 私がこのまま皆と一緒にいたら私だけじゃなく、皆も殺される。

 でも、私1人なら逃げ切れるかもしれないし、皆は助かる。


『カミルさん!皆をお願いします!』

『フェリシアは!?』

『標的は私です。1人で逃げます!それに、私だけなら逃げ切れるかもしれません!』

『……分かった。無事でな』

『はい!』


 ゴブリンの集団から1人飛び出し、森の奥へと進んでいく。


 私を追ってきてる騎士は6人。

 矢は残り4本。

 全員は倒せない。

 でも、逃げ切るんだ!

 逃げて、ベルハイムまで辿り着く!

 ユフィやみんなともう一度会うんだ!


 ◇◆◇◆◇


 森の中を進み続け、矢を騎士に命中させられそうなときはさせてきた。

 そのおかげで騎士は残り4人。

 だけど、矢は残り1本。


 ここまでは地形を知っていたから有利に進められてたけど、ここから先はもう分からない。

 騎士達に撤退する様子は無いけど、倒せた2人みたいに近付いてくる様子はない。


 どうしよう……。

 どうしたらここから逃げ切れる?


「フェリシア!!」


 突如背後から呼ばれて後ろを振り向く。


「コーマ!?」


 なんで……?

 せっかくここまで逃げてきたのに、コーマに追いつかれたら……。


 そのとき、視線を逸らした騎士から一本の矢が飛んできて、左胸に突き刺さった。


「うっ……」


 矢は胸を貫通した。

 そこから肺に血が入り込んだのか、呼吸が上手くできない。


「どうしたフェリシア!?」


 コーマが近寄ってきて、私に突き刺さった矢を見て戦慄き、周囲を見渡している。


「お前かああ!!」


 コーマは矢が飛んできた方向に走っていった。




 私はもうすぐ死ぬ。

 このままユフィに会えないまま。


 最後にもう一度ユフィに会いたかった。

 ユフィの小さな身体はもう一度抱きしめたかった。


 でも、もう叶わない。

 呼吸をするのがやっと。

 血はどんどん身体から出ていってる。

 もう、どうしたって助からない。


 私の人生って、なんだったんだろ。

 物心付いた頃から農業して、それなのにいきなり街を追い出されて。

 冒険者として生きていこうと決めたのに途中で挫折して。

 ギルド職員になったのに、一人前になる前にこんなところに来て。

 コーマを連れ帰るって宣言したのに間に合わなくて。


 私、何にもできてないなあ。


 それなのに人を沢山騙した。

 コーマは私のことを本気で愛してくれていた。

 でも私にはそんな気は一切無くて、エストーラに連れて行くことだけを考えてた。


 コーマだけじゃない、ゴブリンの皆もそう。

 ゴブリンの皆は私を迎え入れてくれた。

 なのに私はコーマを孤立させるために利用していただけ。


 こんな私なんて、生きてる価値無い。


「フェリシア!大丈夫か!?」


 コーマが駆け寄ってきた。

 私のために、コーマは沢山人を殺したんだよね。


「コーマ……ごめん。ごめんね……」

「フェリシアが謝ることなんてない!

 俺が、フェリシアを守らなきゃいけなかったのに」

「違う、違うの……」


 そうじゃない。

 私に守る価値なんて無い。

 私はコーマはずっと騙してきた。

 コーマが本気で愛すような人間じゃないんだよ。

 私は自分の目的のためにコーマを利用していただけ。


「ごめん、なさい……」

最後まで読んでいただきありがとうございます!

これにて第二章完結です。


感想や評価、リアクションをいただけると、とても励みになります!


次回からは第三章です。

更新日は未定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ