91話 冬を越えて
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春期の中月、マージンス島生活2年目。天気:小春日和。
「アーシア、船が来たよ~!」
「はーい!」
マージンス島の厳しい冬期を乗り越えたわたくしたちは、冬の間に準備した島の観光サービスを春期の初月から開始して、中月になってからは本格的に運営することに成功した。
いやまあ、実はマージンス島は1年通して暖かいので冬もそんなに厳しくは無かったのですけれど。
「積み荷はあっちでダルメたちが下ろしてる。そんでもって、今回の観光客はこちらの家族1組だ。ユーランス大陸のとある国の王族だよ」
「えっ!? お、王族……!?」
「「「よろしくお願いします~」」」
「こ、こちらこそですわ!」
「楽しんでいくんだぞ」
「チャンドラ! 頭が高いですわ!」
「チャンドラは低いぞ?」
「身長の話じゃありませんの!」
こんな感じで、ロドスたちが連れてきてくれた観光客の中にはやんごとなき方々がいたりもして、元公爵令嬢のわたくしでもびっくりしてしまう事も。
チャンドラはそんなこと気にせずに良くも悪くも誰とでもフラットに接するので、見ててヒヤヒヤだ。
「あら、この子がアルラウネ族なのね~」
「アルラウネフルーツのお酒、いつも美味しくいただいてるよ」
「この葉っぱ動くのっ?」
「動くぞ」
「わ~あはは! 握手握手っ!」
チャンドラは子供に大人気だった。
最近は他のアルラウネ族たちも観光客に興味があるのか、彼女たちの希望で観光ツアーのプランにアルラウネ族の里の見学も追加された。
他にもオオルカたちと遊んだり、エメラルドドラゴンのスイとリョクたちに乗って上空から島を1周したり……
少なくないお金を払って島に来てくれた観光客はみんな口を揃えて『来てよかった』と言ってくれる。
「最近のマージンス島、すごく評判が良いんだよ。島への観光も予約が埋まりに埋まって大変だ」
「おかげさまで、島の設備も充実してきましたわ」
今年の春に、わたくしたちはマージンス島の事をユーランス大陸とアージンス大陸の国に向けて公表した。
もちろん、島内の詳しい構造や魔原石のことは取引をしている一部の人たち以外には隠している。
島に観光に来てくれる人たちも、今回の王族の方々のようにお忍びで来るような身分の人が多い。
ロドスの人を見る目が確かなおかげか、今のところみんな良い人たちで、観光中のトラブルは起きていない。
しかも、どうしても観光に来たい人なんかはとにかくお金を惜しまない。
そのおかげで魔原石やアルラウネフルーツなどの島の特産品の売り上げ以外にも大きな稼ぎを得ることが可能になり、島を守るための設備を強化することにお金を多く使えるようになった。
「前回は悪かったね……あの子たちは、どうしてる?」
「すっかり回復して元気になりましたわ。今は草原エリアにあるスコットが新しく建てた家で暮らしています」
実は前回のロドス海賊団の訪問で、新たに数名の島民が増えることになった。
アージンス大陸から連れ出された獣人族の奴隷の子供達を乗せた船を発見し、クリストファーたちが助け出したのだ。
奴隷たちの行き先はやはりヨーロンス大陸。
どうやらまた、ギリス王国やアイル王国で不穏な動きがありそうということだった。
「アタイたち以外に島に近づいてきた船や斥候の魔物はいなかったかい?」
「冬の間は何もありませんでした。しかし、そろそろちょっかいかけてくる頃合いですわね」
「まあ、その為にアタイやアーシアたちも色々と準備を整えてきたんだ。何かあっても堂々と迎え撃とうじゃないか」
「そうですわね」
チャンドラと遊ぶ観光客の子供を見ながら、わたくしは少し気を引き締めた。
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