16話 ギリス王国の誤算
ヨーロンス大陸・ギリス王国。
少し前まで同じヨーロンス大陸の隣国、アイル王国と鉱山の領有権をかけて争っていたこの国は、現在隣国との和平を結ぶための過渡期に入っていた。
両国民に戦争の記憶を忘れさせていくための活動として、戦争で活躍した者を英雄扱いしないように戦犯として追放、その第一歩としてまずは代々王国軍の将を務めたフォレガンドロス公爵家の一人娘、アーシア・フォレガンドロスを島流しの刑に処したのだが……
「……なに? 船が戻ってこない?」
「はい、アーシア公爵令嬢を流刑の地へと連れて行った軍艦『グレートロンド号』が未だ帰還せず……」
「目的地の魔物島までは約5日……船が出たのはもう2週間以上も前のことだろう」
「そうです。まさか魔物島で船が襲われて……」
国政会議に出席している貴族たちがざわつき始める。
彼らはフォレガンドロス公爵家を戦犯として差し出すことで処分から逃れた者たち。
流刑に処された一人娘のアーシアに対しては多少の罪悪感を持ち合わせている者も少なからず存在していた。
まあ、彼女を見捨てたことからも分かる通り、わが身が第一の貴族達ではあるのだが。
「まあまあ、これで戦時の英雄フォレガンドロス一族は存在しなくなったのだ。グレートロンド号を失ったのは痛いが、アイル王国との戦争はもう終わった。断捨離が出来たということで納得しよう」
「国王陛下……」
「そ、そうですな。アイル王国との和平を進めるにあたっての憂いがひとつ無くなりましたな」
「しかし、他の戦犯対象者はどういたしますか? 島流しの度に船を失うのはさすがに……」
「かといって処刑しては、民の反発を買いますし……」
国から厄介払いをしたい庶民の英雄はまだ他にも存在する。
また、和平のためにアイル王国から名指しで処分を依頼されている者も。
「それなら、島の近くまで行ったら流刑者を小舟に乗せて漂流させてしまおう」
「へ、陛下、それはあまりに……」
「なあに、誰も見とらんのだから問題は発生しない。すべてはギリス王国の平和な未来のため。良いかな?」
「「「しょ、承知いたしました……」」」
…………。
………………。
一方・同時刻、こちらは島流しにされたアーシア・フォレガンドロス公爵令嬢。
ぶくぶくぶく……ザシュッ!
「あ~外しましたわ! モリで動いている魚を突くのって難しいですわね……」
ミロスが木を削って作った、魚を獲るためのモリを持って海の中を泳ぐアーシア。
少しずつ島での生活に適応してきて、海に潜るのも上手くなってきた。
「ん~……えいっ!」
ぶくぶくぶく……ザシュッ! バシャバシャバシャ!
「ぷはぁっ! やった、やりましたわ!! ミロス~! お魚獲れましたわ~!」
「おう、やったなアーシア! モリで怪我しないように気を付けるんだぞ!」
「分かってますわ~! 今日はお魚の塩焼きですわ!」
モリに刺した魚を掲げてミロスに満面の笑みを向けるアーシア。
彼女は島流しの途中で魔物に襲われて死んだわけでも、島に漂着してそのまま餓死したわけでもなく。
国王や貴族たちの目論見は外れ、今日も元気に無人島生活を楽しんでいた。
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