12話 生殺与奪ですの……
「ミ、ミロス~! ヘルプミ~ですわ~!」
「どうしたアーシア……ってうお! でけえカメだなおい」
シトシトと雨の降る海岸を散策していたわたくしの目の前に現れたのは、甲羅の高さがわたくしの胸のあたりまであるとっても大きなカメの魔物だった。
「あのヒレ型の手足、こいつはウミガメ型の魔物だな……アーシア、襲われないように下がっておけ」
「もちろんですわ!」
ミロスがわたくしの前に出てカメの魔物と対峙する。
「グワアアアアアアア!!」
「あまりスピードは速くありませんのね」
「そう油断して近づくと……っ!」
「グワァッ!」
「きゃあっ!?」
ミロスが魔物に近づいてゆっくり右腕を差し出すと、魔物はものすごい速さで首を伸ばして噛みつこうとしてきた。
「こんな感じで、あっという間に腕が持っていかれるってわけだ」
「想像してたよりも首が長くて動きも速かったですわ……」
動きの速さ以外にも、見た目でも油断しないように注意しないといけない。
可愛らしい見た目や動きをしていても、近づいたら豹変して襲ってくる場合もあるのだ。
「……コイツの甲羅は使えるかもしれないな」
「何にですの?」
「水の加熱容器だ」
「それは本当ですの!?」
ミロスが懐から黒曜石のナイフを取り出し、魔物に向かって構える。
「試してみないと分からんがな。しかし、そのためにはあの魔物を殺す必要がある。アーシア、良いか?」
「え? ええ……良いですの」
「……リスの魔物は殺さないのに、コイツは殺しても良いのか?」
「そ、それは……」
わたくしはミロスの問いに動揺してしまい、なんて言ったらいいか分からなくなってしまう。
「まあ、今回は甲羅が欲しいし、コイツを放っておいたらオレたちの拠点が襲われてしまうかもしれない。だからオレの判断でコイツを殺す」
「……はい」
ミロスはナイフを右手に持ってジリジリと魔物に近づき、ナイフを持っていない左手を魔物の前に近づける。
「グワアアアッ!!」
「フンッ!!」
「……ッ!」
ザシュッ!! と音がして、気が付いたときにはカメの魔物は首をだらりと伸ばして動かなくなっていた。
ミロスの左手に噛みつこうと首を伸ばしたところを、彼が右手に構えていたナイフで一突きにしたのだ。
「し、死んだんですの?」
「ああ……しかしこのタイプの魔物は死んでからもしばらく身体が動く。手足の爪も凶器だからな、まだ近づかない方が良い」
「分かりましたわ……」
首にナイフが突き刺さり、そこから流れる鮮血が雨によって砂浜に薄く広がっていく様子を、わたくしはただぼんやりと眺めていた。
「……さっきの、ミロスの問いですけど」
「ん? ああ、魔物を殺しても良いのかってやつか」
「はい……正直、少し考えてみても分かりませんの。リス子は殺してはダメだと考えているのに、この魔物に対しては殺しても良いとすぐに返事をしてしまいました」
このカメの魔物の甲羅が鍋として使えると聞いたとき、はやく倒して甲羅を手に入れたいと思ってしまった。
そして実際に殺してしまった今は、罪悪感だったり『可哀想なことをしてしまった』という気持ちももちろんあるが、『倒せてよかった、これで甲羅が手に入る』と思っている自分もいる。
明らかにリス子に対する気持ちとは違う感情が心にあった。
「まあ、さっきは少し意地悪な聞き方をしてしまったよ。悪かった」
「いえそんな、ミロスが謝るようなことではありませんわ。この島で生きていくなら考えなくてはいけないことですもの」
「そうだな……とはいえ今すぐ答えを出すようなものじゃないし、必要以上に重く受け止めることもない。オレ達が生きていく上で殺しが必要な場合は殺す。そうでない場合は殺さない。基本的にはそれで良いさ」
「……分かりましたわ」
雨の中、わたくしは息絶えた魔物を見つめながら心の中で祈りを捧げた。
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