第四話 遺跡訪問
「フライルの花畑」を後にした二人は、その後も国を巡っていた。改めてここに暮らしている人々を見ていると、身に着けている衣服なんかからも文化を感じれて面白いものだ。
ここでは衣服を着ているというよりは布を纏っているといった方が正しい。
サイラスではしっかりとした衣服しか見てこなかったので、こんなところでもちょっとした違いが感じれる。
「俺たちから見れば少し変わってるけど、ここでは普通のことだしな。ああいう恰好をしてみるのも少し面白そうだ」
「カイ着てみたいの? 見る分にはいいけど寒そうじゃない?」
そう言われてみれば確かに、暑いときにはいいだろうが防寒の性能は低そうだ。今はそこまで寒いわけではないが、暖かいともいえない。
「ゲームの中とはいえ風邪ひいたら嫌でしょ?」
「…やめておこうか。体調を崩したら元も子もないしな」
言いくるめられてカイは諦める。心の中であの恰好をしているこの国の人たちに合掌をしながら去ったのだった。
二人はフ―フェルトに教えられた遺跡へとやってきていた。ここには大したお宝が眠っていることもないそうだが、やはり遺跡というロマンの塊を放っておくことはできなかった。
遺跡は所々にツタが絡まっており、それがまたこの場の時の流れを感じさせてくる。
「宝がないとは言っても、中の様子を見れるだけでも楽しいしな。早速探索開始だ!」
「テンション高いねー。けど何があるかは見てみるまで分からないし、頑張っていこうか」
始めから遺跡に潜ることに対してテンションが上がっているカイとは違ってリンカはそこまで興味を示していない。
やはりこういったものは男の方が惹かれやすいものというべきか。どこかはしゃいでる子供を見つめる母親のような視線を感じたため、少し気恥ずかしくなったカイは落ち着きを取り戻す。
「じゃ、じゃあ入るか。罠があるかもしれないから慎重にな」
「それはこっちのセリフだよ。絶対今のカイの方が罠に引っ掛かりそうだもん」
軽口を言い合いながら遺跡へと入っていく。目の前の遺跡、「扇緑骸楼」は新たな訪問者を迎えるのだった。
遺跡の内部は薄暗いと思っていたが、しっかりと明かりが整備されているようで視界も良好なまま進むことができた。
「ほとんど観光地化してるって話だったし、人の手が加えられててもおかしくはないけど…なんだかなぁ」
壁には長年の経過を感じさせる苔がこびりついていたリ、風化している箇所があったりとなかなかの雰囲気を味わえるが、時折遺跡を清掃していると思われる用具が置かれているのは肩を落とさざるを得ない。
「まぁまぁ、それだけ安全性が確保されてるってことだし良いことじゃん。…ん? カイ、この先にモンスターがいるかもしれない」
会話を続けながら歩いていると、リンカの《探査》に何か引っかかったようで知らせてくる。
「モンスターか…。どれだけいるかとかはわかるか?」
「多分数は二、三体くらいかな。でも油断してるみたいだし今なら奇襲もかけられるよ」
「なら倒しておくか。次に来る人が襲われる可能性もある」
「扇緑骸楼」はダンジョンではないためモンスターが発生することはないが、周囲は森に囲まれた環境だ。
その森に住んでいるモンスターが遺跡に移ってくることがあり、それは見つけたら討伐するかすぐに報告するように言われている。
「この角を曲がった先に…いた。あいつらだね」
リンカが示した先にいたのは三体の植物型モンスター「ケイトウッズ」。全身が木で構成されており動きは鈍そうだが、通路を完全に塞がれているので倒さなければ通ることはできない。
「見るからに炎属性が弱点っぽいが…俺たちは使えないしな。氷属性でもいけそうか?」
「なんか効きづらそうだけど大丈夫だと思うよ。いざとなれば《氷灰》で固めちゃうしね」
頼もしい言葉を聞きながら行動を起こすための準備を整えていく。
「まずは俺が先制を仕掛けてできそうなら一匹は持っていく。そのあとは魔法での援護を頼む」
「了解。気を付けてね」
いつでも駆け出せるように態勢を作りタイミングをうかがう。そして角の先にいるケイトウッズ達がカイのいる方向から視線を外した瞬間、一気に走り抜ける。
「《剛腕》、《鋭刃》!」
二つのスキルを同時に発動させ、左側にいたケイトウッズを頭から切り裂く。幸いにもその一撃で倒せたようで特に反撃もなく消えていった。
「ガシャアアアアアア!」
「《氷連弾》」
武器を振り下ろし、隙が生まれたカイを狙って自身の枝を伸ばしてきた残りのケイトウッズは、リンカの発動した魔法によって強制的にのけぞらされた。
「一刀両断にしてやるよ!」
そのまま流れるように大剣を振るい、二体にダメージを与えていく。そのまま倒れるかと思われたが、やつらの最後の抵抗と言わんばかりに叫びだした。
「「ギャアアアアアアアアアアアア!!」」
「っな、なんだこりゃ…!」
「耳が…痛い…!」
まともに立っていることすら難しいと思わせるほどの奇声。《鑑定》して見てみればやつらの体力も減少しているのでHPを代償に発動するスキルか何かだろう。
だがそんなことも考えていられないほどに叫び声は増している。何とかしたいが今耳を押さえている手を離せば鼓膜が破られそうだ。
どうしようもないかと思い、リンカの方向を見てみれば何か魔法を発動させようとしている。
「……ぁ、《氷縛》…!」
放ったのは対象を縛り付ける魔法《氷縛》。普段は対象の体を抑えるように使っているが、今回ばかりは違う。
リンカの狙い通りに魔法は発動しケイトウッズ達の口は縛り付けられた。
「ナイスだ! リンカ!」
口が押さえられ叫び声が止んだ瞬間にカイは二体の前に飛び出し、その体にとどめを刺していった。
「…いや、ひどい目にあった。それにしてもあんな方法、よく思いついたな」
「はぁ、はぁ…。…あの時は、とにかくどうにかしなきゃと思ってたからね。《氷縛》で対象の部位を狙うこともできるんじゃないかって思ってやってみたんだ」
とっさの判断だったようだが、今回はその判断に助けられた。
「油断したな…、けど助かった。ありがとな」
「いいよ、あのままじゃ二人とも危なかったしね。何とかできてよかったよ」
遺跡の探索に集中しすぎてモンスターの対処をおざなりにしていた。いくら観光に来ているとはいえ、ここはモンスターも住まう場所でもあるのだから気を抜きすぎることはできない。
「とりあえず倒せたんだし、結果的には問題ないよ。今の戦いを教訓にしていけばいいでしょ?」
「ああ…こっからは注意しながら進もう。もちろん楽しむことも忘れないけどな」
そんな言葉にリンカは笑いながら、「そうだね」と言ってくる。そこからの探索は順調に行われていった。
ケイトウッズのイメージとしては腕は枝が伸びていて、それを伸縮させて攻撃してきます。
あいつらが放った奇声の正体はスキル名として表すなら《爆震声》ってところですね。
カイの予想通り、自身のHPを代償に相手を一時的に行動不能にします。ただ自分も行動できなくなるので最後はどちらが先に力尽きるかの根競べになります。
今回はリンカのファインプレーで無事に勝てましたがね。
それと昨日、短編専用の作品を作ってみました。自分の作品一覧から確認できると思うのでよかったら見てね。
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