第二話 ひと時の別れ
「お客さん、到着しましたよ」
そんな御者の声にようやく着いたかと思い、アルバンが凝った体をほぐす。
「意外とかかったなぁ。まあ距離があるから仕方ないけど」
「文句を言いたい気持ちもわかるけど、さっさと出るわよ。あんたが出ないとつっかえちゃって出られないんだから」
馬車の最後方に座っていたアルバンをサージェスが押し出していく。それに続いてカイとリンカも馬車から降りる。
「もう退屈で死ぬかと思ったよー! ここから存分に満喫しないとね!」
「リンカまで…そんな張り切らなくても国は逃げないから落ち着きなさいよ」
「何言ってるのサーちゃん! こうしている間にも楽しみは減っていくんだから」
「サーちゃんって…まぁいいけど、カイみたいにまずはこの光景を目に焼き付けておいたら?」
馬車から降りたカイは、その瞬間から映り込んできた景色に目を奪われた。国の中心には、国全体を覆えるのではないかと思えるほどに巨大な大樹が存在しておりその存在感をこれでもかと主張している。
その周囲には地位の高い者が住んでいると思われる建物があり、それも決して景観を壊すことなく自然との調和を成している。
「美しさって面だけならサイラスを超えてきたな…」
サイラスにも綺麗だと思える場所は存在していた。だがそれは人の手によって生み出された物がほとんどであり、このどこまでも混じり気のない光景には雄大さを感じずにはいられない。
「この景色が見れただけでもここまで来た価値があったかもしれないな…」
「カイったらもう満足しちゃったの? 冒険はここからなんだからまだまだ楽しまないとだめだからね!」
「ああ、そうだな。とりあえずエンリーフのリスポーン地点だけ登録しに行こうか。サージェス達はこれからどうする?」
「あたし達もリスポーン地点だけ登録しに行くから一緒に向かうわ」
「そうか。それじゃあ一緒に向かうか」
予定を話し終わった四人は、リスポーン地点だと思われる大樹の元へと歩いていく。
「よしっ、これで登録はできたな。こっから二人はどう動くんだ?」
「そうねぇ…さっきの戦闘でアイテムも少し消耗しちゃったし補充しに行こうかな」
「そうすっか。こっからはカイ達とは別行動になるけど…いつかまた会うこともあるさ。お互いに頑張ろうぜ!」
「短い間だったけど楽しかったよ。今度飯でも一緒に食おう!」
「サーちゃんも元気でね…。体調には気を付けて、ご飯もちゃんと食べるんだよ?」
「リンカったら、母親じゃないんだから…。けどあたしもリンカ会えてよかったわ。また会いましょう」
同性同士ということで打ち解けることも多かったのだろう。少し涙目になっているリンカの姿にほほえましい気持ちになりつつもカイもアルバンと一時の別れを告げる。
そして去っていくアルバン達の後ろ姿を見ながら自分たちの今後を話し合う。
「俺たちの方はどうするか。これといって決まってるわけじゃないし、リンカはなんかあるか?」
「うーん…。私もそこまで詳しいわけじゃないからなぁ。観光名所とか聞ける場所とかどこかにないかなぁ…」
そんな悩んでいる二人を見て、近づいてくる者がいた。
「すみません。もしかしてこの国の外から来たお方でしょうか?」
「ん? そうですけど…あなたは?」
話しかけてきたのは穏やかな雰囲気を感じさせながらも、どこか目を引かれる男。全体的に細身でありその手には楽器を携えている。
「突然申し訳ありません。私は吟遊詩人のフ―フェルトと申します。どうやらこの国での目的が定まっておられないようでしたので、気になってしまったもので」
「吟遊詩人…ってことはこの国にも詳しいんですかね?」
「ええ、ここにもそれなりに滞在していますから、お二人にもこの地の魅力をご紹介することはできますよ」
いきなり話しかけられたと思えば、どうやら親切な人に気にかけてもらえたようだ。
「いいじゃんカイ! せっかくだし聞かせてもらおうよ!」
「…そうだな、すみませんこの国の名所を教えてもらってもいいですかね?」
「もちろんです。お二人は見たところ戦いがお得意のようですから、まずはモンスターが出現する場所からお教えしましょう」
二人の容姿や装備から戦闘職であることを察したのか、フ―フェルトは狩場の説明から始まる。
「この辺りだと近くの草原が最も有名な場所ですね。そこまで強いモンスターは出ないのでたくさんの人が狩りに励んでいるのをよく見かけますよ」
「あとはダンジョンであれば、ここから少し離れた場所に「堕哭の渓谷」や「枯葉の落葉」などがありますが…お二人であればまず、「枯葉の落葉」に向かった方がいいでしょう」
そこまで話されたところで疑問を覚えたリンカが問いを投げかける。
「なんでまずは「枯葉の落葉」なんですかね?「堕哭の渓谷」がまずい理由でもあるんですか?」
「いえ、ダンジョン自体に問題があるわけではないのですが…そこは適正レベルが高すぎる場所なのです。挑むのであれば、300程度は欲しいところですね」
「それならきついな…今の俺たちは90程度だし、挑めば瞬殺されそうだ」
「堕哭の渓谷」の危険性を理解した二人は、そこにはまだ挑まないことを決めて再び話を聞く態勢に入る。
「まぁ不用意に近づいたりしなければ大丈夫ですよ。狩場はこんなところでしょう」
レベル上げに適した場所は伝え終わったようで、次はこの国の観光地を教えてくれた。
「そして観光できる場所だと…人気があるのは色とりどりの花が咲き乱れる「フライルの花畑」や、自然の中でリラックスした体験ができる「フェミル」なんかもありますね」
リンカはどうやら「フライルの花畑」が気になったようで、目を輝かせながら話を聞いている。
「あとは少し歩いた場所になるんですが、近くに遺跡もあるんですよ。特に何かがあるわけではないんですが独特の雰囲気も味わえるので訪れる人は多いんです」
「へぇ…それも面白そうだな。今度行ってみようか」
互いに目的が定まってきた二人に対して、エンリーフの名所を語ってくれたフ―フェルトは、こんなことを提案してきた。
「お二人とも、せっかくなのでこの国に伝わる伝説を聞いていきませんか?」
「伝説? そんなものがあるのか?」
「ええ、古くから伝わっている物語です。真偽の方も定かではありませんが、私は吟遊詩人です。この地の伝説を語る機会を与えてはくれませんか?」
ほんの少しの笑みを浮かべながら懇願してくるフ―フェルトに二人は答えを返す。
「もちろんいいよ! 聞かせてください!」
「俺の方からもお願いしたい。聞かせてくれ」
二人から頼みを受けたところで、腰を下ろし楽器を手にかけて語りの準備を進めていく。
「さて、ではお聞きください。かつてこの地にて起こった史実。その変遷を象った物語『大樹の守護』伝説を」
アルバンとサージェスとはここで別れましたが、エンリーフ内にはいるのでまたいずれ再会することもあると思います。(忘れてなければ)
そして古くから伝わる『大樹の守護』伝説。作者としては内容は割と気に入っています。詳しいことはまた次話で。
それとあまり関係のない話ですが、ここだけではなく別サイト「カクヨム」の方でもこの「レコダイ」の投稿を始めてみました。内容としてはほとんど変わらないのでこちらでも楽しめますがよかったらフォローもお願いします。(多分作品名か「進道 拓真」で検索したら出てきます)
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