第三十四話 破壊の起源⑧
「それにしても……美保は凄いな。半年で合計点を二百点も上げるなんて、なかなかいないんじゃないか?」
高校から中学校まで歩いて向かっている途中、竜也がしみじみとしながらそんなことを言ってきた。
「それは元々が低いからよ。竜也が二百点上げるのとは話が違うわ。それに、私がここまで勉強をできるようになったのも、竜也が勉強を教えてくれたおかげじゃない」
むしろ、元々百点の私をよく三百点台まで上げてくれたと思う。
竜也には感謝しかない。
「いやいや。俺なんて大したこと教えられてないよ」
「何を言っているのよ。私に教えるためだけに、進学校に入れるくらい勉強していたくせに」
「そ、それは……教える側として、間違ったことを教えたら大変だと思って……」
本当……どうしてそこまで私の為にしてくれるのかしらね?
「ふふふ。竜也、今日までありがとう」
「どういたしまして。お互い、高校でも頑張っていこうな!」
「うん!」
「はい。合格おめでとう。この中に合格通知書と入学手続きとか諸々の書類が入っているからちゃんと読んでおいてね」
「わかりました」
学校に着くとすぐに面談室に呼ばれ、これから私が通うことになる高校のロゴが入った封筒を伊藤先生から受け取った。
ふふふ。私、本当に合格したのね。
「それにしても……。この半年、とても頑張ったわね。中倉さんの努力が報われて良かったわ」
「わ、私というより……竜也のおかげ……」
「ふふふ。愛する彼と同じ学校で良かったわね」
「か、彼って……ま、まだ竜也とは付き合ってないから……」
「あら? そうなの? まったく……竜也くんは何をしているのかしら? わかった。この後、竜也くんと面談の時に先生がお節介焼いてあげる」
「べ、別に良いですよ……」
「気にしない気にしない。ほら、竜也くんを呼んできて」
「わかりました……」
先生の勢いに押され、断ることもできずに面談室から出てきてしまった。
え? 先生がお節介を焼くってことは……竜也が告白するように……。
私は最後まで考えられず、顔が真っ赤になった。
それから、自分の心臓を落ち着けてから教室に戻った。
教室に戻るとまだ誰も来ておらず、教室にはまだ竜也しかいなかった。
「お帰り、どうだった?」
「い、いつもの面談と違ってこの封筒を渡されるだけだから……な、何もなかったわ!」
「確かに。それじゃあ次、俺が行けば良いのか?」
「う、うん。せ、先生が呼んでたよ」
先ほどの先生とのやり取りを思い出してしまって、私はまともに竜也の顔を見て話せなかった。
「了解。それにしても、トオルたちどうなったかな? そろそろ、学校に来ても良さそうなんだけど?」
そう言って、竜也が時計を見た。
確かに、門井くんと成川さんが受けた高校は、私たちが受けた高校の次に近い高校だ。
そろそろ到着していてもおかしくない頃だ。
「まあ、猪口くんは……ちょっと不安だけど、門井くんと成川さんはきっと大丈夫だよ」
だって、二人は模試でもずっとA判定だったし。
「それもそうだな。それじゃあ、行ってくるよ」
「うん」
「お、ここにいるってことは合格したってことだね? おめでとう!」
竜也を見送りしばらくすると門井くんが教室に入ってきた。
「ふふ。門井くんもおめでとう! 県一の学校に行くんでしょ? 凄いね!」
「まあ、俺は勉強だけしか取り柄ないからな……。ちょっと前からタツヤのジムに行かせて貰っているけど、自分の運動センスの無さを凄く感じるよ」
最近、クラスの男子の間で竜也に影響を受けて、ジムに入るのがブームになっていたりする。
受験が終わって、クラスの男子の半分がジムの会員になってジムのオーナーに図書カードを貰ったってこの前、竜也が笑っていたっけ。
「そう? 私は、勉強だけでも極められている門井くんが凄いと思うよ」
「そうかな? そう言われると、なんか勉強を頑張ってきて良かったと思えるね」
「あ、そういえば成川さんはどうなったの? もしかして……」
ここにいないってことはそういうこと?
「ん? いや、ちゃんと成川さんも受かっていたぞ。学校まで一緒に来たんだけど、何か用事があるとか言って階段前でどっかに行っちゃったんだ」
「ふ~ん。階段前……」
トイレかな?
「そういえば、タツヤはどうしたの?」
「今、先生に書類を貰ってるはず……。あれ? そういえば、帰って来るのが遅いわね」
時計を見ると、面談室に行ってから三十分以上が経っていた。
「ふ~ん。何か、書類に不備でもあったのかな?」
「どうなんだろう……」
なんだろう……なんか、嫌な予感がする。
「あ、門井くん! 合格おめでとう!」
私が何とも言えない不安に襲われていると、先生が入ってきた。
あれ? 竜也は?
「先生! おかげさまで、無事合格することができました!」
「何を言っているのよ。私はほとんど何もしてないじゃない。頑張った門井くんのおかげよ」
「ねえ、先生……竜也は?」
「あれ? まだ帰ってきてない? 結構前に、書類を渡して面談室を出て行ったはずよ?」
「まさか……」
私は、瞬時に最悪の展開を頭に思い浮かべ、すぐにそんなはずないと首を振った。
「え? なに? どうしたの?」
「ううん。先生は気にしないで。それより、門井くんに書類を渡してあげてください」
「そうね。それじゃあ門井くん、面談室に行きましょうか」
「はい」
門井くんと先生を見送った後、私は竜也を探すために学校の中を人気の少なそうな場所を歩いて回った。
そして、遂に見つけてしまった。
一番見たくなかった姿で。
「そ、そんな……」
竜也と成川さんは、使われていない教室で抱きしめ合っていた。
ガタン。
あまりの光景に、私は覗いていた扉に触って音を立ててしまった。
音に二人が反応したのを見て、私は逃げるように走った。
どうして……どうして……神様は私を嫌うの?
そんなに、私が幸せになるのは許せない? それとも、この半年の幸せは、この絶望を味あわせる為に用意されたものなの?
竜也も酷いよ……。私、ずっと竜也も私を愛してくれているって信じていたのに……。
私、もう何を信じて生きていけば良いのかわからない。
全てが信じられないし、憎いし、壊してしまいたい。
ああ……こんな世界、壊れてしまえば良いのに。
そう願ったとき、全てが真っ白になった。
サイドストーリーはここまで、明日からはまた本編です。
決着目前。あと少しだけお付き合いください。
ちなみに、こちらの竜也と美保のサイドストーリーは十巻の番外編にて続きを書かせていただきました。
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