第三十五話 悪魔降臨
SIDE:ミヒル
俺と恵が出会ってから転生されるまでの話をされ、俺は困惑していた。
そもそも、俺は恵と抱き合っていた記憶がないのだ。
「恵に告白されて、断ったことまでは覚えているんだけど……。俺、本当に抱き合っていたのか?」
「ええ、間違いないわ」
「でも……俺、転移される前、必死に美保のことを探していたと思うんだけど……」
いや、探していたということは、美保の言っていた音がして逃げたというのは事実……もしかして俺、本当に恵と浮気していた?
あ~。もう千年以上も前のことだよ? もう何も覚えているはずがないじゃないか!
「そんなはずないわ。だって、あの時の竜也、凄く嬉しそうに成川さんと抱き合っていたもの」
「そうなのかな……? それに関しては、本当に記憶がなくて……。とにかく謝ることしかできない。すまなかった」
「今さら謝られたって……」
「だけど、あの時の俺は、本当に美保だけが好きだった。後出しでかっこ悪いけど、俺は確かにあの日の帰りに告白するつもりだったんだ」
これだけは絶対に間違いない。
俺は前世のほとんどを忘れてしまったが、転生した日が美保に告白しようと日、ということだけは忘れたことはないし、転生したときのことを思い出そうとするといつもそれが最初に思い浮かぶ。
「嘘よ……嘘よ……。あれが私の勘違いだったというの? もしそうだったとしたら……私は何のためにたくさんのものを壊してきたというの?」
「俺も一緒に償うよ。美保がこうなってしまった責任は俺にあるんだろ? なら、俺も一緒に罪を償うべきだ」
いや、償わないといけないだろう。
もっと早く……もっとあの時のことを忘れていないときに会えていれば、こうはならなかった。
自分の身可愛さに破壊士とちゃんと向き合おうとせず、逃げてきた俺が全ての原因なんだ。
「でも……どうやって償うの? もう、私はたくさんの取り返しのつかないことをしてきたわ」
「もちろん、死んでしまった人に償うことはできない。でも、これ以上被害を出さないことも償いにはなるだろ? この戦いを終わらすんだ。そうすれば、もうこれ以上誰も殺し合わなくて済む。君の中にいる悪魔を俺に殺させてくれ」
頼む。どうか、これからの世代ためにも、ここで決着がつけたいんだ。
「私の中の悪魔? もしかして……ずっと頭の中で私に話しかけてくる男のこと?」
「そう。そいつを殺せば、全ては終わるんだ」
「そうなんだ……。でも、それはできないよ」
「……どういうことだ?」
できない? させないってことか?
「だって、私の中にはもういないもの」
いない? いないだと!?
「それじゃあ……どこに?」
SIDE:レオンス
「随分と魔物の数が減ってきたな。途中から急に魔物が弱体化したのが謎だけど、弱くなる分には問題ない。後は、ミヒル次第だな」
そんなことを言いながら、飛んでくる虫たちを斬り落としていく。
うん。やっぱりさっきまでの勢いはないね。この調子ならそろそろ魔物を全滅できそうだな。
「うぐ……うわあああああ!」
「ん? この声はルーがいる方向からだな」
まさか? ルーがやられた? いや、そんなまさか。だって、ルーだぞ?
だが、何かあったのは確実だ。そして、ルーと一番近いのは俺。ここは、俺が確認しに行くべきだろう。
「うう……」
見に来ると、ルーは頭を押さえてうめき声を上げていた。
また、頭痛? 記憶は完全に戻ったんだろう?
「ルー、大丈夫か!」
バキン!
俺が近づくと、この二十数年間、常にルーの首についていた首輪が弾け飛んだ。
「お、おい……首輪が……」
バキ、バキバキバキ。
首輪が壊れたことに驚いていると、鎧がバキバキと音を立てて壊れ始めた。
「鎧が……これは、ルーが俺に破壊魔法を使っているということか?」
この鎧がこんな壊れ方をするとしたら、それしかない。
「ククク。オリジナルの全盛期には劣るが、今の彼女よりは断然マシだな」
「お前は……悪魔か?」
ルーとは思えない話し方をするルーに、答えは分かりきっているが一応問いかけてみた。
「そうだとも。はじめまして……。と言っても、私はお前がこの体と出会うより前には、この体の中に住み着いていたのだがね」
……ということは、ずっとルーの体の中に隠れていたということか?
「どうして……今まで出てこなかった?」
「時期を見計らっていたからだよ。どうせ、中途半端な時期に出ても、この体ではすぐ殺される。なら、絶好のタイミングまで眠っていた方が良いだろう?」
「それで、今か……」
確かに、今が悪魔にとって表に出てくるのに最高のタイミングだろうな。
「そうだ。俺が目を覚ますトリガーは、オリジナルの顔を見たときにしておいた。お前たちがオリジナルと出会うのは、最終決戦以外ありえないからな」
「ルーの記憶を消したのはお前の仕業か?」
「そうだ。私が中に入った時の記憶が残っていると面倒だったからな」
「全ては……お前の計画通りってわけか」
「そうだな。この体なら、余裕でお前を殺せる。そして、お前を殺せば、忌々しいあの男は死に、あの男に寄生している精霊も死ぬ! どうだ? 私の計画は完璧だろ?」
「いいや。そんなことはない。俺を余裕で殺せるという前提がそもそも間違っている」
「ふん! なら、お前はこの女を殺すか? 愛しているのだろう? 殺せるのか?」
ルーを人質にするか……。
「実に悪魔らしい戦い方じゃないか」
「褒め言葉と受け取っておこうじゃないか。それじゃあ、死ね!」
「この鎧は特別性だ。ルーが破壊魔法で何回も検証している! お前には、俺を殺せない!」
「おいおい……俺を計算に入れ忘れているぞ」
悪魔がニヤリと笑うと、鎧が一瞬にして消えてしまった。
「……え?」
「俺はこの体よりも破壊魔法を熟知しているんだぞ? それに、今は俺が寄生していることで、魔法の威力が桁違いに上がっている。それくらい、計算できても良さそうだけどな」
「く、くそ……」
こうなってしまっては、俺に勝ち目はなかった。
そして、次の瞬間に俺の四肢は消し飛んだ。
「即死回避の指輪か。一回だけだが、命拾いしたな」
「くそ……」
「それじゃあ、さよならだ。お前が寂しくならないよう、お前の嫁と娘たちもすぐあの世に送ってやる。安心して死ぬんだな」
「お前には……絶対に殺させない……」
くそ。意識が朦朧として、魔法も使えない。どうする? 今の俺に何ができる?
「フハハハ。その体でなにができるというのだ? 死ね! ん? ……どうして体が動かない? くそ、お前ごときが私の支配に抵抗すると言うのか!」
悪魔の動きが止まった。
もしかして……ルーが抵抗しているのか?
くそ……ルーが頑張っているんだ。俺も、最後の足掻きをするぞ。
「ぐうう……。よし。今度こそ、完全に支配できた。死ね!」
バキン!
「結界魔法?」
かっこ悪いが……娘たちにルーのことを任せることにした。
視界の端に少しだけ見える……空間魔法で召還した二人を確認して……俺は、意識を手放した。





