表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/26

25 みんなで ねこさん

雨の日の午前中。

外で遊べないため、部屋のテレビでネコ特集番組を流していた時だった。


画面の中で可愛らしい仔猫がニャーと鳴きながら首をすり寄せ、

前足で顔を洗う映像が映し出された瞬間、

テレビの前に座っていた3人の瞳が同時に怪しい輝きを放ち始めた。


「……ほげ」


最初にネコへ成り代わったのは悟だった。


おしゃぶりを咥えたまま190センチの巨躯を四本足形態へと変化させる。

そして、ゆったりとした足取りでこちらへ歩み寄ってくると、

仔猫が甘えるように己のゴツゴツとした巨大な頭を俺の太ももへ……。


ゴンッ!!


「ぐふっ!?」


重低音の打撃音。

ネコの「すりすり」などではない。

完全に雄牛の頭突きだ。


太ももの骨が軋む感触に耐えていると、

悟は満足そうに目を細め、喉の奥からゴロゴロゴロと音を鳴らし始めた。

いや、音というより振動だ。

大型船舶の機関室のような超重低音バイブレーションが俺の全身に伝わってくる。


「悟くん、可愛いけど力加減! 骨が折れるから!」


俺が必死に太ももを引き抜こうとすると、今度は背後に気配を感じた。


「ほげッ、ほげッ!」


龍だ。

パンパース一丁の巨漢が両手首をキュッと胸元で折り曲げ、

前足に見立てて器用にハイハイしている。

番組内のネコがキャットタワーの柱で爪を研ぐシーンを再現したいらしく、

龍の視線は部屋の柱へと注がれていた。


バシッ、ベシッ!


鋭い風切り音と共に放たれる高速の猫パンチ。

一撃ごとに柱の木肌が凹み、ミシッ……と嫌な悲鳴を上げる。


「やめて! 保育園の耐震構造を試さないで!!」


慌てて龍の胴体を後ろから抱え込んで引き剥がすと、

龍は「ほげぇい」と不満そうに腕を振り回した。

そのまま畳の上で体を丸め、足を綺麗にお腹の下へ格納しようと試み始める。

いわゆる「香箱座り」というものらしい。


しかし、発達しすぎた大胸筋と太ももの丸太のような筋肉が干渉し、

どうしてもコンパクトに収まらない。

肘が突っ張り、お尻が浮いた不格好なポーズのまま

「ほげ……? ほげー……」と困惑している。


俺はふと、上空から視線を感じた。


見上げると、高さ二メートル近くある備品ロッカーの頂上に

徹がしなやかな動作でしゃがみ込んでいた。

いつの間に登ったんだ。

ギシギシと断末魔をあげているロッカー。


「ほげ♪」


徹は喉を鳴らすと、自分の太い手首をペロリとひと舐めし、

そのまま耳の後ろを撫でて猫の毛づくろいを完璧なフォームで披露した。

無駄に動きが美しい。


「徹くん、危ないから降りてきなさい!」


俺が手を伸ばした瞬間、徹の眼光がキラリと光った。

お尻をプリプリと振る動作。

ターゲットを定めたネコが飛びかかる直前の、あの予備動作だ。


(待て、まさか——)


「ほげぇい!!」


ドバァッ!!


ロッカーの上から、80キロを超える黒猫(見た目は強面大男)が、

真っ直ぐ俺の首元めがけてダイブしてきた。


「がはっ……!?」


衝撃で視界が明転する。

まるで落ちてくる米俵を受け止めた格好になり、俺は床へと沈んだ。

俺の上に覆いかぶさった徹は、無事に着地できた(?)のが嬉しいのか、

俺の頬に自分のゴリゴリとした頬を「ほげ~♪ ほげ~♪」と擦り付ける。


そこへ、龍が「ほげー!」とすり寄り、悟も「ゴロゴロゴロ……」と

重油エンジンをフル回転させながら突っ込んできた。


床の上で繰り広げられる総重量250キロ超えの「猫ふんじゃった」。

ふみつけられているのは俺の方だが。


「ほげ」「ほげ」「ほげぇ♪」


三匹(人)の巨大なネコたちが、

心底楽しそうに俺の体の上で丸くなり喉を鳴らしている。

重くて息が吸えないし全員のヨダレで俺のTシャツは全滅状態だ。


だけど、目を細めて嬉しそうにすり寄ってくる表情は、

間違いなく庇護を求める小さな仔猫そのものだった。


「……たく、キャットタワー買い足す予算なんてないんだからな」


俺は痛む肋骨を庇いながら、上に乗っかる三人の頭を順番に撫で回してやった。


ーーー


【園長からの連絡帳メモ】

守先生。巨大ネコちゃんたちのお世話、お疲れ様でした。

雨が上がったので園庭の様子を見に行こうとしたところ、

廊下で正座のまま香箱座りを試みて固まっている龍くんと遭遇し、

新種の巨大置物かと思いました。

なお、通りすがりの方から

「はらっぱ保育園から猛獣の唸り声のようなゴロゴロ音が聞こえるが、

トラでも飼い始めたのか」と確認が入りましたので、

「かわいい子ネコちゃんです」と答えておきました(^-^)


ーーー


「はい、ネコちゃんたち! おやつのチュール……じゃなくてボーロ食べる人ー?」

「「「ほげーーーーーっ!!!!」」」


一斉に耳をピンと立たせ(たつもり)、目を輝かせて跳ね起きる大男たち。

しばらく我が園のネコブームは去りそうにない。


続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ