第23話「耕しんしゃった」
雨が止んだのは、三日ぶりだった。
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石畳には、まだ水たまりが残っている。
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宿の前。
源太は炭を起こしながら空を見上げた。
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源太:
> 「やっと晴れたね」
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その時。
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ガラガラガラ――。
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荷車の音が近づいてくる。
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マルコだった。
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荷台には、麻袋や木箱が積まれている。
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ロジャー:
> “…What’s all this?”
(なんだそれは)
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マルコ:
> “Composta.”
(堆肥だ)
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マルコは袋を叩く。
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マルコ:
> “E fertilizzante.”
(それと肥料)
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ロジャー:
> “…You actually brought it.”
(本当に持ってきたのか)
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マルコ:
> “Conosco gente.”
(知り合いがおる)
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袋から独特な匂いが漏れる。
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ジェームス:
> “…Smells terrible.”
(ひどい臭いだ)
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源太は逆に少し嬉しそうだった。
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源太:
> 「善は急げたい」
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その日の昼。
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源太たちは移動屋台ごと孤児院へ向かった。
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畑は雨を吸い、黒く重たくなっている。
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孤児たちが、不思議そうに荷車を見ていた。
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修道女が鼻を押さえる。
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修道女:
> “That smell…”
(この臭いは……)
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源太:
> 「肥やしたい」
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ロジャー:
> “…That smells like death.”
(死体みたいな臭いだな)
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マルコ:
> “Se puzza, funziona.”
(臭うなら効く)
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麻袋が開かれる。
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中には、
半分発酵した堆肥
家畜糞
古い藁
黒い土
が混ざっていた。
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源太は灰の入った袋も持ってくる。
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源太:
> 「混ぜるばい」
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鍬が入る。
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ガツッ。
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止まる。
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源太:
> 「堅かね……」
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もう一度。
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ガツッ。
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ほとんど入らない。
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ロジャー:
> “…Hard as stone.”
(石みたいだな)
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その時だった。
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足元で、スライムが揺れる。
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ぷる。
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ゆっくり土へ近づいていく。
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ぼこ。
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地面が、小さく崩れた。
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さらに。
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ぼこ、ぼこ。
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固かった土が、少しずつ柔らかくなっていく。
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マルコ:
> “…Madonna…”
(なんてこった)
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ロジャー:
> “…The ground moved.”
(土が動いたぞ)
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源太は試しに鍬を入れる。
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サク。
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今度は、簡単に入った。
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源太:
> 「おぉ……」
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源太はしゃがみ込む。
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ぷるぷる揺れるスライムを撫でた。
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源太:
> 「お前、そげんかことも出来るようになったとや?」
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スライム:
> ぷる。
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ロジャー:
> “…It understood that.”
(今、理解してたぞ)
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子供たちが集まってくる。
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源太は小さな鍬を持ち上げた。
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軽く土を返す。
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サク。
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源太:
> 「これなら出来るたい」
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孤児の一人へ鍬を渡す。
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源太:
> 「エブリデイ」
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土を返す真似をする。
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源太:
> 「ホリホリたい」
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子供たちが顔を見合わせる。
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アントニオが静かに通訳する。
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アントニオ:
> “Every day.”
(毎日です)
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恐る恐る、子供が鍬を入れる。
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サク。
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さっきまでの硬さはなかった。
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子供が少し笑う。
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源太は畑を見渡した。
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堆肥。
灰。
柔らかくなった土。
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だが、まだ足りない。
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源太:
> 「とりあえず堆肥と肥料入れたばってん……」
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土を指で触る。
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源太:
> 「多分、うちの灰だけじゃ足らんやろうね……」
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ロジャー:
> “…You need more?”
(まだ要るのか?)
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源太:
> 「土がまだ死んどる感じするとよ」
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足元では、スライムが静かに揺れていた。
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ぷる。




