スライム出現
「……ん? もしかして動いているのか?」
ダンジョンの床に穴を二つ掘り、それぞれの泥が混ざらないように区切っておいた。
そこに用意した泥が、スライムというモンスターとして動き出すのかどうかを検証するつもりだった。
だが、ずっと見張っているだけなのも退屈なので、放置してダンジョンの壁を掘り続けていた。
いつもどおりせっせと壁を掘り、集めた土を土嚢袋に詰めて手押し車に載せていく。
そんな作業をしているときに、視界の端でもぞもぞと何かが動いているのが目に留まる。
やはり、ダンジョンで泥を作って放置するとモンスターになってしまうみたいだ。
スライムであるとすれば、このダンジョンに現れるモンスターとしては一番弱いものにあたるはず。
とはいえ、危険度がゼロとは言えない。
ダンジョン産の鉄でできたマイスコップを構えて、いつでも身を守れるようにしながら、床の穴へと近づき観察をする。
「ただの泥はなにも異常なし。やっぱり泥団子にしたのが影響したのかな」
泥がモゾモゾと動いているのは片方の穴だけだった。
ダンジョンの土に水を混ぜただけの泥は、今のところ動く気配はない。
まあ、それだからスライムにならないということは決めつけられないので、こっちはこのまま放置して様子をさらに見てもいいだろう。
問題は、僕がピカピカに磨き上げた泥団子を泥の中に置いたほうだ。
泥団子のあったほうの泥が穴の中でモゾモゾとゆっくりだが動いている。
多分、こいつはスライムというモンスターでいいのだろう。
「おい、聞こえるか、スライム? 僕の言うことがわかるなら、その穴からゆっくり出てきて僕のところまで来るんだ」
モンスターはダンジョンに現れ、人間を見ると襲ってくる存在だ。
ショート動画などではどれもそういうふうに解説していた。
探索者はダンジョンへと入り、高値を付けるお宝を求めて活動する。
その道中にどうしても邪魔になるのが人間を襲うモンスターで、日々多くの探索者はモンスターと戦っている。
だというのに、なぜだろうか。
不思議な感覚がある。
危険なはずなのに——なぜか、そう思えなかった。
ただ無害というだけなじゃい。
むしろ、味方になってくれそうな気がする。
そんなことがあり得るのか?
ただの勘違いかもしれないし、あるいはこのスライムが僕に何らかの方法でそう思わせているのかもしれない。
気づけば、スライムに呼び掛けていた。
僕の言葉がわかるのであればこっちにおいで、と声をかけてしまった。
穴の中のスライムがゆっくりと動く。
モゾモゾと動きながら床に掘った浅めの穴から這い出てきて、僕へと近づいてくる。
そして、僕の足元まで来て、ピタリと止まった。
それ以上は動かずに、僕の顔を見上げている、ような気がする。
まるで「次はどうするの?」と問いかけているようだった。
本当に合っているのか?
なんなんだ、この状況は。
ただ、穴掘りの最中にスライムが出ないかどうかを確認するための実験だったのに、なぜこんなことになったのかと思いながら、僕はしばらくの間足元のスライムを見つめ続けていた。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけけますと執筆の励みになります。




