忍者
ひとまず中卒資格を得るため、試験合格を目指して僕は自室で勉学に励む。
十年間ずっと行方知れずだったというのに、僕の部屋は以前と同じ状態で保たれていた。
普通なら、行方不明になって数年もすれば生存を諦めそうなものだ。
しかも僕には、危険なダンジョンに行っていたという証言まであった。
それでも、帰ってくると信じて部屋をそのままにしてくれていたのは、本当にありがたい。
ただ、それだけ両親に心配をかけたんだろうなというのはひしひしと伝わってくる。
そんなこんなで、ひとまず教科書とノートを開いて読み直す。
これも十年前のものになるが、僕にとってはつい最近まで使っていた感覚だ。
覚えていることも多いが、忘れていることもある。
自分でも実感がないのだけれど、ダンジョンでの出来事は本当に十年が経過していたんだろうか。
浦島太郎現象みたいに時間軸がずれて、十年後にタイムスリップした――そう考えたいところだけれど、勉強したことをそこそこ忘れてしまっていることは時間のせいにしたい気持ちもある。
まあ、そう言っていてもしょうがないのでしっかりと勉強を続ける。
ダンジョンでの経験のおかげか、超集中はもうスーちゃんの助けなしでも、呼吸するみたいに自然に発動できる。
しかも、超集中の熟練度が爆上がりからか、ものすごい集中力を何時間でも維持できる。
そのため、内容も割とすぐに頭に入った。
なので、中学一年から二年までの範囲はかなりの速度で復習することができ、だいたい覚えられた。
ただ、その後、お父さんが買ってきた現在の教科書をもとに再び覚え直しているところだ。
意外と、十年経つと習うことが微妙に違うようで細かな年号やら表記の違いがあったりするみたいだ。
「今、激熱のトピック。世界初のダンジョン攻略者、忍者は誰だ!?」
そんな勉強をする横で、僕のスマホからはショート動画が流れ、動画配信者が声高に叫んでいる。
僕が帰還してもう十日以上経過しているのに、いまだに世間はダンジョンについて盛り上がっていた。
ダンジョンの消滅。
それにより多数の探索者がダンジョンからはじき出されるようにして地上に放り出された。
この現象はこれまで世界中のどのダンジョンでも見られなかったものだ。
かつてない現象を前に、人々の間では噂が広がる。
ダンジョンの完全攻略。
それを達成するとダンジョンは消滅し、その時に内部にいた人は強制的にダンジョン外に出されてしまうのではないか。
信憑性の無い噂ではあるが、完全に否定することもできない。
日本政府や国民は大事件を前にして大混乱に陥り、そしてその熱がいったん落ち着いた後は犯人捜しを始めた。
いや、犯人というのもおかしいのかもしれない。
ダンジョンを完全攻略できる探索者の存在を明らかにし、それを大々的に公表したいというのが国としての思惑なんだろう。
だが、それが誰だか分からなかった。
後日、我こそがダンジョン攻略者だと名乗り出た人がものすごい数出てきたらしい。
前例のないダンジョン攻略については、確かな情報がほとんどない。
そのため、ダンジョンの奥がどうなっていて、何をしたら攻略成功なのかは不明な点が多い。
そして、肝心のダンジョンそのものはすでに消滅して存在していない。
それなのに、無数に出てくる自称ダンジョン攻略者たち。
その全員がどのように攻略をしたかを説明するのだけれど、それっぽい話が無数にあるかわりに証拠となるものは何一つない。
ゆえに、いつからかインターネットミーム的に真のダンジョン攻略者を「忍者」なる呼び名で呼び始めたみたいだ。
なんか、思った以上にとんでもない騒動になっている。
僕が真のダンジョン攻略者、でいいんだろうか?
だが、自分ではダンジョンを攻略したという実感は何一つない。
むしろ、僕よりもダンジョンを攻略したといえるのは、僕の隣で壁紙の汚れをきれいに食べてくれているスーちゃんなのではないだろうか。
そんなこんなで、騒動が大きくなりすぎたこともあり、僕は「ダンジョン内では遭難して気が付いたら消滅に巻き込まれて外に出ていた」としか話さなかった。
そのため、中でのことは誰にも話さずに過ごすようになっていた。
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