空白の十年
僕がダンジョンの穴に落ちて行方不明になった。
当初、両親は交通事故にでもあったのかと心配し、近所を探し回った。
それでも見つからず、知り合いに電話をかけまくり、最終的には警察へ相談に行った。
捜索願も出したが、得られた情報は一つだけだった。
――おそらく、ダンジョンに行ったのではないか、というものだ。
僕のクラスメイトの渚が、当時の僕がダンジョンの入り口で穴掘りに夢中になっていたと証言したからだそうだ。
だが、そこから先は何もわからないまま、時間だけが過ぎていった。
僕がダンジョンに行ったであろうことは当時のギルドから証拠を得たのだそうだ。
なにせ僕はダンジョンへ行くたびに土嚢袋や手押し車を借りていたのだから。
そして貸出記録から、行方不明当日に中学生の男の子へ確かに道具を渡していたことが確認された。
桂佑馬はダンジョンで行方不明になった。
これが僕の両親を不幸にしてしまった。
なぜなら、ダンジョンというのは自己責任の場所だからだ。
警察は、ダンジョンの中まで捜索しない。
ダンジョンへと入っていった中学生男子がそこから出て来なかったことを確認し、それで仕事は終わったとばかりに捜査は終了した。
むしろ、よくやってくれたほうなのかもしれない。
世の中には家出も含めて行方不明になる人の数は一年間で見ると昔から今も変わらず多いそうだ。
数万人レベルで行方が分からなくなる人がいる中で、一人ひとりを見つけるまで探すというのは、事実上不可能に近い。
ダンジョンに入り帰還していない。
そこまで突き止めただけでも十分だろう――それが他人から見た評価だった。
だが、それは世間一般での認識であり、僕の両親がそんなふうに思えるものではなかった。
とくにお母さんは非常に悲しんだ。
なぜなら、僕がダンジョンに行くようになったきっかけは、お母さんが言った言葉にあったからだ。
反抗期だった僕がイライラして家の壁を殴った時に、そんなことをするならダンジョンの壁でも殴っていなさい、なんていうどこの家庭でもありそうな、何気ない一言が本当に僕をダンジョンへと向かわせた。
その結果が行方不明であり、自分自身でもそのことを責めつつ、それを聞いた親戚からもあれこれ言われたようだ。
「あんなこと、言わなければよかったって……何度も思ったのよ」
お母さんは泣き崩れながら、声にならない声で何度もそう口にした。
「ごめんね。お母さんは悪くないよ。僕は自分の意志でダンジョンで遊んでいただけだから。でも、本当にごめんね。まさか、十年も経っているなんて夢にも思ってなかったよ」
玄関で泣き崩れるお母さんを介抱し、その後、仕事を終えたお父さんも交えていろんな話をし、改めて謝罪する。
でも、本当に意味が分からない。
いくら何でも十年間もダンジョンにいたっていうのはおかしいと思うんだけどな。
だが、どうやらそれは紛れもない事実らしい。
家の壁にかかっているカレンダーの年月日も僕が知る十年後の数字が書かれているし、テレビやネットでもそれがわかる。
なによりも、両親の顔が老けていた。
心配をかけたせいで、余計に疲れが顔に出ているのだろうか。
でもやっぱり、おかしいよね?
僕の体は十歳分も成長していないんだけど。
え、でも十年経っているんだよね?
もしかして、僕って中学生じゃなくなっているってこと?
中学校中退が僕の最終学歴になるんだろうか。
こうして僕は、二十三歳の大人になったのだった。
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