帰宅
「……歩いて帰るか」
長いことダンジョンで彷徨っていたせいで、自分がダンジョンに来るために自転車を使ったかどうかを忘れた。
走ってきたんだっけ?
それとも自転車に乗ってきたんだっけか?
まあ、ダンジョンのそばは今大混乱みたいだし、その周辺一帯もかなり騒がしい。
歩いて帰ることができない距離ではない。
だから、このまま歩いて帰ることにした。
救急車にパトカー、野次馬などで混乱する人混みをかき分けながら、僕は家へと向かった。
なんかもう、この街中を歩くことすら懐かしい。
そういえば、自動車が多い街の空気ってこんなふうだったなーと感じる。
ダンジョンは人っ子一人見かけない大自然か地面の中ばかりを移動していたので、雑踏の空気が、どうしようも懐かしくなった。
テクテク歩いていると、久しぶりに見かけたお弁当屋さんで思わず一つ買ってしまった。
それを持ち、その先にある公園でベンチに腰掛ける。
そこで、買ったばかりのお弁当とお茶を口にした。
……うまい。
うますぎる。
白龍の尻尾肉やランダムフルーツも野趣あふれるおいしさで絶品だったのは間違いない。
が、この激安ボリュームたっぷり弁当の濃い味付けはダンジョンではついぞ得られなかったものだ。
特に塩味が舌を刺激する。
塩のおいしさってこんなにすごいのか。
いくらでも入るぞ、これは。
ガツガツと久しぶりのお弁当の味に感動し、気づけば涙がこぼれていた。
それでも手は止まらずに、あっという間に食べきってしまった。
「ごちそうさま。さ、早く帰らないとね」
残ったお茶で口の中をさっぱりさせた僕は公園のゴミ箱に弁当の容器を捨てて、再び歩き出す。
しかし、その道中でちょっとずつ違和感が増していく。
……なんで、こんなに懐かしいんだ?
確かにずっとダンジョンで迷子になっていたとはいえ、こんなにノスタルジックになるものなんだろうか。
それに、歩いているだけでもなーんか気になるんだよな。
だが、そんなことを考えつつも自宅が近くなってきたときには気にならなくなっていた。
とにかく早く家に帰ってシャワーを浴びよう。
たっぷりのお湯を沸かせたお風呂に入ったらどんなに気持ちがいいだろうか。
それを考えただけで極楽が待っていると脳が認識し、我慢できなくなってきた。
そのせいか、いつしか僕は小走りになり、そしてついにはダッシュして自宅へと駆け戻った。
家に着くと、インターホンを押す。
同時にリュックから鍵を探し出し、玄関を開けた。
そして、大きな声で帰宅の声をあげながら家に上がった。
「ただいまー」
「……ゆ、佑馬? 佑馬なのね? うそ、本当に」
「あ、お母さん、ただいま。今帰ったよ」
「お、おかえりなさい。でも、よかった。生きていたのね。どこに行っていたのよ、佑馬。この十年、私もお父さんもどんなに心配したことか」
「……は? え、なに? 十年? なんの話?」
「なにを言っているの。佑馬が行方不明になってからもう十年経っているのよ? でも、よかった。無事で本当に良かった」
玄関を上がったところでばったりとお母さんと鉢合わせた。
そこでただいまを告げたのだが、お母さんが、とんでもないことを口にした。
十年?
行方不明はわかるけど、十年ってどういうこと?
なにがなんだか、わからないけれど玄関で泣き崩れるお母さんを見て、僕の頭は混乱しながらもお母さんのそばにしゃがみ、その背中を撫でることしかできずにいた。
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