食べる感謝
どれほど時間が経ったのだろうか。
もはや僕には時間の感覚がなかった。
周囲は暗い。
ダンジョンの天井に開けた螺旋階段状の穴は光のない空間になり、僕は漆黒の闇の中でひたすらに体を動かしていた。
執念だけで動き続けているのかもしれない。
なんとしても脱出してやるという気持ちだけで僕は穴掘りを続けている。
それまであった唯一の光源はスマホの画面だ。
だが、これも今ではもう光ることはない。
途中に何度か時間を確認したり、気を紛らわせるために画面を見ていたのだけれど、それもバッテリーが尽き、完全に沈黙した。
食料も尽きた。
僕の鞄の中に入っていた白龍の尻尾肉もすべて食べつくし、ダンジョンバーも食べきってしまった。
普通ならばここで僕の命運は尽きていた。
だけど、僕はまだ生きている。
それもこれもすべてスーちゃんのおかげだ。
いつも僕を助けてくれるスーちゃんは、食料危機に対しても自分の身を削って僕を助けてくれた。
というのも、僕はスライムのスーちゃんの体を食べて、どうにか命をつないでいる。
半液状の体のスライムの体が食べられるとは思わなかった。
というか、そういう発想にすらならなかった。
だが、天井の岩盤を掘り進めていて、ついに僕が力尽き、空腹で倒れたとき、スーちゃんは僕の口に自身の体を無理やり押し込んできた。
最初はてっきり僕に愛想を尽かせて口を封じようとでもしているのかと思った。
それでもいい、と本気で思った。
ここまで僕が生きているのはすべてスーちゃんのおかげで間違いなかったし、スーちゃんに僕の命をあげてもいい。
本心からそう感じていたからだ。
しかし、スーちゃんは僕の息の根を止めるために口の中にスライムボディーを押し付けてきたわけではなく、食べさせようとしていたのだ。
僕がもごもご言っていると、自分から体を小さく切り離し、それを僕は飲みこんだ。
正直、うまいものではなかった。
ただ、味のしないグミのようなものが喉を通る感覚だけがあった。
味の全くしないスライムボディーはそれでも僕の胃を満たしてくれた。
気が付けば、涙が流れていた。
今まで食事をした回数を覚えていないが、生まれて初めて心の底から「食べられる」ということに、心から感謝した。
僕は一人では生きていけない。
ほかの命をいただいて、初めて生きていけるのだと実感した。
といっても、スーちゃんは今も僕の体を覆うようにしてスライムスーツとなっている。
実はスーちゃんは僕が食べていてもその体が尽きてしまうことはなかった。
なぜなら、ダンジョンの天井をくりぬいた際に出た岩や土を食べ、さらには岩盤内にときおりある魔石鉱脈で魔石を食べていたからだ。
理由はわからないが、時々いくつもの魔石がぼろぼろと取れる鉱脈が存在し、スーちゃんはその魔石を食べることで白龍の尻尾を食べたときのようにそれを自身の糧にしていた。
そして、魔石を食べて大きくなるスーちゃんの体を、今度は僕が食べる。
岩盤内で穴を掘る僕はそうやって命をつないでいた。
ダンジョンの天井岩盤の中で僕とスーちゃんは奇妙な共生関係を築いていた。
真っ暗闇の中、僕はスーちゃんに生かされながら、穴を掘り続けていた。
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