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わたくしは何も存じません  作者: 綾雅(りょうが)9月は3冊!


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333/337

333.非常時こそ頼られる人材

 地位が上がれば、給料が増える。それに伴い、部下と責任が増えて、仕事も増量された。増えるばかりで重い。痛む腰を撫でながら、ジーモンは嘆いた。


「もう隠居したい」


「すべて片付いたらにしてください」


 辛辣な言葉を残す部下が、また書類を積み重ねた。終わったと思った先から、また書類が回ってくる。ジーモンは「許容量を超えた」だとか「給料分以上は無理」などと文句を並べた。それでも書類が減ることはなく、仕方なく手をつける。


「下水道の清掃? 騎士団の仕事じゃねえだろ。専門を雇え」


 突っ返すため、返却用の箱に書類を放り込む。その際に一筆添えた。大通りから二本裏にある雑貨屋の存在だ。あそこは何でも屋で、金になればどぶ浚いも引き受ける。


「ひったくりが増えてる? そんなん、衛兵の仕事だろ」


 ぼそぼそ文句を言いながら、ひったくりの元締めの顔を思い浮かべた。王家の影響力が強かった頃、彼らは裏を仕切っていた。その仕組みが一度壊れたのだ。『前回』の記憶の影響だが、まあ仕方ない。女神様のすることは、人にはどうしようもねえからな。


 ジーモンはその紙を畳んで袖に差し込んだ。後で直接自分が回ってこよう。こういった街の隅々まで目の行き届く存在だから、重宝されている。その事実を、本人だけが自覚していなかった。バルバラの持ってきたパンサンドを取り出し、一つ目を齧る。


「ふん、国境の兵が引き揚げた? 罠かもしれんが……こっちも下げてみるか」


 籠の下にある地図にさらさらと書き込んだ。ウテシュ王国が常時配備していた兵力を削減し、砦以外の部分から引き揚げたらしい。同じように引けば、戦いに発展するリスクが減る。しかし罠の可能性も捨てきれなかった。


 深く考えすぎて、一周回った結果が「引き揚げよう」だった。完全撤収ではなく、離れた場所に配置して様子を見る。そういった細々とした注意事項を書き込んで、手に持ったパンを一口で終わらせた。


 その様子を少し離れた席から見ていた部下が、やれやれと首を横に振る。文句は人の三倍くらい多いが、仕事はできる男だった。上司として問題が多数なのに、蹴落とそうとする者がいないのは……彼が組織に必要だからだ。


 傾きかけた王国の最後の騎士団長になるかも……なんて噂も出ていた。本人が聞いたら、全力で否定して逃げ出すか。いや、逃げ損ねてぼやくのがオチか。その姿を想像できてしまい、騎士より文官向きの部下は口元を緩めた。


「あっ、この書類こんなとこに!」


 先日自分で横に片付け、その上に籠を置いたくせに……すっかり忘れていたジーモンが騒ぐのを見ながら、部下は立ち上がった。この後、パンを喉に詰まらせるだろう上司の、命を救うお茶を淹れるために。

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― 新着の感想 ―
 そのまま共和国軍の参謀総長に就任したらいい。任期? 後進が100人くらい育ったらかね。知らんけど。
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