324.ケヴィンの土産話と赤い瞳
恋人と別れたからと、兄弟で婚約者を取り合う気はないし、奪うつもりもなかった。ソフィーを魅力的だと思うが、女性と縁のなかったカールが意気投合したのなら嬉しいことだ。ケヴィンは素直にそう考えた。
「ルイス王国のお話を聞かせて頂戴」
戻ったばかりの騎士達を笑顔で労い、ケヴィンを屋敷へ誘った。久しぶりに顔を合わせた甥との時間を持とうとするミヒャエラに、ガブリエルが便乗した。
「ケヴィンお兄様、アードリアン王子殿下はお元気?」
「ああ、元気だよ。こちらへ来たいと言ってたな」
ケヴィンと娘ガブリエルの会話を、ミヒャエラは微笑んで見つめた。
公妃となったミヒャエラは、そう簡単に国を空けられなくなった。常に公王か公妃が残る必要がある。子ども達が大きくなり、政に関わるまで変更はないだろう。その意味では夫のヨーゼフのほうが、外交で外へ出る機会があった。
窮屈に思うより、楽しんだ方がいい。ミヒャエラはそういった切り替えが得意だった。
応接室を開けて、皆で座り込む。居間にしなかったのは、模様替えの最中だからだ。近々、公国への挨拶で他国から使者が訪れる。元公爵邸なので、広さは問題なかった。だが城ではないため、謁見の広間や玉座がない。
対等な外交関係を築くには、ある程度のはったりも必要だろう。奮起した職人達が、応接室を謁見用に作り直していた。隣の客間と繋げて大きくする計画のようだ。そんな近状を聞いてから、ケヴィンは口を開いた。
「驚きの体験をしたのは、ガブリエルのほうが多いだろうけれど……」
新しい書物を見つけて土産に持ち帰ったこと。料理の種類が豊富で、調理方法も驚くほど繊細だったこと。生魚に使う黒いタレを分けてもらったこと。調味料を作る技術が、チーズやバター作りに近いかもしれないこと。
一度話し始めると、尽きることなく出てくる。小さな体験も口をついた。
「海で泳いだぞ。目を開けたら、そりゃあもう痛くてな。何度も綺麗な水で洗うんだが、涙が止まらないし赤いのも取れない。もう赤い目になるしかないと諦めたくらいだ」
海が塩水という話は聞いていたが、ガブリエルも泳いだことはない。驚いて目を丸くし「私は入らないことにするわ」と呟いた。目が赤くなる、が想像できなかった。青い瞳が赤くなるのかしら? 想像の範囲で十分恐ろしい。
「大量の魚を貰ったんだが、あれは干した魚だ。一か月は問題ないと聞いた」
高山なので、実際はもう少し日持ちする。しかし、それを知るのは数年後のことだった。それまで、言われた期限を守って消費する。盛り上がったあと、魚を民に振る舞うことが決まった。
「魚を焼くのか……羊肉を焼くときの網で問題なさそうかな?」
ヨーゼフの提案に様々な意見が出て……肉用の網を使って魚を焼き、そのあとで肉も食べる案が通った。




