321.お土産担いで峠を越えて
ルイス王国での長い滞在を終え、女神の通した道を進む。一緒に滞在した仲間の騎士達と、荷馬車に揺られていた。愛馬は繋いで一緒に歩いている。さすがに軍馬に荷馬車を引かせるわけにいかないので、馬車を引く太い足の馬を借りてきた。
「しかし、いろいろ面白かったな」
「また滞在したい」
「生魚が、意外とうまくて癖になる」
女神テアリスが、その力で切り開いた街道は立派な幅がある。馬車がすれ違えるほどの道を、一瞬で作り上げた。その代償として、今は微睡みの中にいる。そんな神々の事情を知る由もないケヴィン達は、感心しながら両側の綺麗な壁を眺めた。
まるで剣で切ったチーズのようだ。そう表現したのは、実家が酪農を営む家の次男だった。家を継ぐ兄が嫁を得たのを機に、騎士としてロイスナー家に勤める。ロイスナーの男達は基本的に、全員が剣術を習うのが決まりだった。
これは数代前のロイスナー公爵が言い出した施策で、王家や他の貴族家で働く道を与える英断だ。当時は多少反発もあったが、結果として公爵領の税収を支えた。生活が苦しくなれば、外へ働きに行ける。多少危険でも、それを補うほどの収入が得られた。
おかげで酪農家の次男のように、突然家を出ることになっても仕事が見つかるのだ。
「アードリアン王子殿下、こんなに土産をくれたけどさ……」
ケヴィンは後ろを振り返る。さすがに生魚は危険だろうと、干物や調味料を持たせてくれた。ほとんどが食べ物なのは、食文化が豊かで驚いたケヴィン達の反応が影響している。あまりに喜んで大量に食べるので、たくさん持たせてやろうと考えた。
「ロイスナーから馬と馬車を返すときに、お土産が必要だよな」
「ロイスナーの特産なら、チーズかな」
「乳はだめか?」
「うーん、この速度だと危険かも」
のんびり進む馬車は、すでに二日目だ。この速度では到着は明日だろう。三日も生乳を運んだら、傷むのではないか? 酪農業を営んだ者のセリフに、誰もが考え込んだ。国として贈った品で腹を壊したら、国交断絶ものだろう。
「火を通してもダメかなぁ」
別の騎士が口を開く。鍋で火にかけて、生の状態を変化させる。熱が加われば長持ちするのでは? と提案した。それをさらに煮詰めて、チーズやバターの原料になる。まだ液体の内に火から下ろしたら、運べるかもしれない。
「瓶詰めは割れるから難しい?」
「この道なら、下に布を当てて巻いたらいける!」
話を聞いてるだけだったガラス職人の跡取りが口を挟み、わっと話が盛り上がった。賑やかな馬車は峠を登り切り、下りに差し掛かろうとしていた。




