318.思いを伝える難しさ
何度も書いては丸め、丸めては書き、ネロとミロは言葉を探した。どの表現なら通じるだろう、不快にさせないだろう。そんなことを考えながら、あれこれと推敲する。しばらくしてラファエルに助けを求めた。
「個人の手紙なんて書いたことない」
「こういうのは違うじゃん」
違うと見せられたのは、いわゆる「挨拶状」だった。尊称を付けて書き始め、時候の挨拶が続く。途中でどうして手紙を出したか丁寧に書かれ、今後の繁栄を祈って終わった。これでは公式文書に近い。私的な手紙の経験がないため、習った通りに書いてみたらしい。
「あのさ、これとこれは要らないよ」
ラファエルはペンを借りて、すっと横線で消した。挨拶、尊称、敬語で終わる末尾、繁栄のお祈り。ほとんど線が引かれる。残ったのは、どうして手紙を書いたのか。
「ここに足していこう。イグナーツ王子殿下へ、から始める」
言いながら、二人に書かせた。手紙を書いた理由も消して構わないが、全否定は間違っているとラファエルは考えた。知らないだけなんだから、覚えればいい。必死で考えたのに、全部線を引かれたら悲しいから。残した部分に付け足して、最後にその部分を消したら……文面が残る。
「うーん、出だしは?」
「こないだ、一緒に過ごしてどうだった? どうして贈り物をしたいと思ったの?」
質問に質問を返すのは失礼だが、ネロとミロが考えて作った文章ではなければ意味がない。ネロは「こないだはありがとう」から始めた。ミロも「一緒に遊んでくれて楽しかった。また遊ぼう」と記す。互いに覗き込んで、頷いてまたペンを動かした。
書き直す回数が減り、最後に残った手紙は私的な表現が並ぶ。僅か一枚、半日かけて仕上げた手紙を清書した。綺麗な花柄の便箋は、クラーラが用意させたものだ。その柄も二人で悩んで選んだ。同じ柄の封筒に入れ、封蝋を垂らしてスタンプで紋章を残す。
「出来たっ!」
「手紙って難しいんだな」
詰めていた息を吐きだし、二人が寝転がった。長椅子でぶつかりながら手足を伸ばす。疲れたと全身で示す二人に、ラファエルがお菓子を手に戻る。すでに書き終えたラファエルの分と合わせて三通、テーブルの上に並んでいた。
「ほら、お疲れ様」
ラファエルの指が摘まんだ砂糖菓子を、双子の口に押し込む。素直に受け取ったミロと違い、ネロはにやっと笑って指を噛んだ。軽く歯を立てたネロに、ラファエルが大笑いして指を突っ込む。
「ちょ! おま……何すんだよ」
「それは僕が言うこと」
反撃されたネロが飛び起き、ミロはきょとんとした顔で寝転がったまま。こうしてみたら、顔もあまり似てないかも。抱き着いて仲直りしたラファエルは、双子に贈る思い出の品を決めた。




