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わたくしは何も存じません  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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30/50

30.忙しい大人を置いて、馬で林へ

 ブルーノが到着し、一つの屋敷に執事が二人になる。セシリオとブルーノでは、ブルーノのほうが古株だった。王城へ通うガブリエルが懐いていたこともあり、屋敷の采配を任せられるブルーノが王都邸へ移った。経緯を知っているため、セシリオは一歩下がって先輩を立てる。


「ブルーノさんが執事長に相応しいと思います」


「いや、私はもう引退も視野に入れておりますゆえ。この屋敷の采配はセシリオ殿に任せます」


 家令アードルフは、ブルーノの進言を受け入れた。執事が複数になれば執事長を置く。これはロイスナー公爵家だけでなく、王国貴族の決まり事のようなものだ。見習いを雇うこともあるため、自然とルールができた。


 上で難しい話をしているので、ガブリエルとラファエルは大人しく椅子で待つ。背もたれに寄り掛かるラファエルを、ガブリエルが注意する。習ったことを弟へ伝える姿に、大人の反応は二つに分かれた。微笑ましいと見守る者、痛ましいと嘆く者、ガブリエルは不思議そうに使用人達を見上げる。


 なぜ、泣きそうな人がいるのかしら? 記憶があれば思わなかっただろう。慌てて笑顔になる使用人に、ガブリエルは気のせいで片づけられなかった。聞けば教えてくれるかもしれないが、無理やり話させるのは違う。


 気づかなかった振りで、出されたお茶に手を付ける。味わって飲むお茶の温度はややぬるく、頬が緩んだ。猫舌のガブリエルはいつもお茶を冷ましてから飲む。でも公爵家の使用人達は知っているから、冷まして出してくれた。カップに注いでそのまま出すのではなく……。


 正式にはマナー違反なのだろう。それでも気遣いは嬉しい。家にいるときだけだから、と言い訳しながらお茶を味わった。ブルーノ達に同行した商人は、公爵夫妻との顔合わせを行っている。姉弟は邪魔にならないよう、部屋を出てきたのだ。


「リル、ラエル。一緒に庭の奥の林に行かないか? 馬を走らせるつもりなんだ」


 誘いに来たのは、従兄のカールだった。退屈していた二人は喜び、すぐにカールと手を繋ぐ。厩がある裏側へ向かうと、ケヴィンが馬の準備をしていた。王都邸から走ってきた愛馬は休ませ、代わりに主人が決まっていない馬達を走らせる。


 騎士団には常に騎士の数以上の馬が確保されていた。大きな音でも驚かないよう訓練された軍馬は、貴重であり価格も高い。平時から所有していなくては、緊急時に集めようとしても手に入らない。ガブリエルは学んだ知識で納得した。顔を寄せる馬達は穏やかで、荷馬車を引く馬より一回り体が大きい。


 複数の馬を連れていくらしく、他の騎士も馬に跨った。ガブリエルはケヴィンの前に、カールの背中にはラファエルがしがみつく。ちょっとした騎士団規模の十六頭の馬達は、かっぽかぽと軽い足音を立てて走り出した。


 騎乗したまま通れるよう敷地内の林は、高い枝を落としてある。楽しくて声を上げるガブリエルの斜め後ろで、ラファエルが音を上げた。


「無理っ、やっぱ怖い」


「自分で言いだしたんだ、必死でしがみつけ」


 厳しいようだけれど、ラファエルはそれ以上文句を言わなかった。弟の成長を見て、ガブリエルは嬉しいような擽ったい気持ちで笑う。林を抜けた先にある泉まで、あとすこし。

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― 新着の感想 ―
ホンマ軍馬ってすげえよなあ
小人も馬に乗ります。猫作者さんは馬の背に縛り付けて走ります。猫作者さん、辛抱してくださいね。
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