表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたくしは何も存じません  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/41

28.引退しても団長の子守は継続中

 残念な脳筋集団と認識される騎士団は、実績は豊かだ。剣を振るえば敵を薙ぎ倒し、素手でも盗賊とやりあう。とにかく強さには定評があった。逆に頭脳労働が苦手で、書類などは派遣された文官が聞き取りをして作成するほどだ。


 元がロイスナー公爵領から借りているため、無理を言えば帰ってしまう。グスタフ王やヤン宰相が妥協した結果、専属文官が派遣されていた。『前回』の記憶持ちだった専属文官が逃げたので、代理としてジーモンが召喚されたのだ。


「そんなに怒らず、ほら、お茶でもどうぞ」


 笑顔のヴィリがお茶を差し出す。アンテス子爵領は、ロイスナー公爵領と接した小さな領地だった。公爵領より標高が低いのだが、茶の木が良く育つ斜面が領地の大半を占める。先代子爵が戦争で功績を上げたため拝領した土地だが、当時は荒れ地だった。


 こつこつと開拓するアンテス前子爵を見かねて、他国から得た知識で茶の木の栽培を勧めたのがヨーゼフの父だ。そこから付き合いが続いたヴィリは、ロイスナー公爵家次男のアウグストの幼馴染みとなった。バーレ伯爵の地位を得たアウグストの補佐として、王都にも出張している。


 家督を継いですぐ王都だったので、実家の茶の栽培は姉夫妻に任せた。出稼ぎと言い換えることも可能だが、本人は友情だと言い張っている。


「……ふん、お茶で懐柔されたりせんぞ」


 簡単に取り込まれないと宣言しながらも、評判のお茶を拒む気はないようだ。ジーモンはふぅふぅと冷ましながら、両手でカップを包んだ。猫舌の彼の仕草を見ながら、ヴィリは掴んだ情報をカードとして使う。


「なんでも……腰を()()()とか? 以前から()がありましたからねぇ」


 意味ありげに「噂」を強調するが、内容は言わない。そんな引っ掛け、気づかぬ俺だと思ったか。無視したジーモンは、ずずっと茶を啜った。行儀は悪いが、誰も指摘しない。そもそも実力重視の騎士団に、お行儀のいい連中は少ないのだ。


「その年で何人やっちゃったんですか?」


 直球で下世話な話に持ち込まれ、ジーモンは茶を噴いた。周囲の騎士がわっと避けて「きたねぇ」とぼやく。笑顔のままのヴィリに、派手に噛みついた。


「やってねえ!!」


「おや、そうですか? ではやられたんですね」


「違う! うっ」


 全力で否定するが、直後に痛みで撃沈した。腰を押さえて否定しても、誰も信じませんよとか……酷いセリフが続くが、ヴィリはある事実に気づいた。顔を近づけて声をひそめる。


「腰ではなく、尻? 随分と情熱的ですね」


 言いふらされたくはないでしょう? 折角隠しているんですし。完全な脅迫だが、ジーモンはあっさり屈した。この年になってそんな不名誉な噂は御免だ。若い頃なら相手を投げ飛ばして黙らせるが、隠居後とあれば分が悪かった。


 何より、ヴィリの緊張した雰囲気から何かあったことを感じ取っている。困って頼った後輩を、無下に切り捨てるのは無理だ。その面倒見の良さで、あれこれと世話を焼くうちに、頭脳派という名称がついたのだから。貧乏くじを引くことにかけて、ジーモンは才能に溢れていた。


 パン泥棒を捕まえて尻をケガする時点で、その嫌な才能は保証済みだろう。


「……報酬は出るんだろうな」


「好きなだけ。暗殺犯の特定をお願いしたいのです。すでに一人殺されていまして……別件で団長が寝込んでいます」


「いや、団長はいつものだろ」


 引退前から、少し頭を使いすぎるとパンクするアウグストを知るジーモンは、やれやれと頭を掻いた。やれる範囲は限られてるぞ、と忠告しながらも事件の概要を聞く表情は真剣そのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
貧乏クジ担当は大抵重要人物であり物語を味わい深くする隠し味。おれはくわしいんだ(^p^)
ジーモンさんは平和の為の大黒柱だったんですね。小人は猫作者さんおんぶしながら、聞き込み続けます。ふむ?怪しい人物がソーラン節踊って子爵の元に向かっていたと?ソーラン節怪しいです!!
文官だの頭脳労働担当の交代要員くらい、普段から育てておけよ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ