173.街で評判の菓子店へ
アウグストの付き添いで、ガブリエルは街へ出た。祖父母は今夜帰る予定なので、一緒に食べるデザートを購入したい。先日の店のプリンが美味しかったと口にしたら、宿の支配人が別の店を教えてくれた。大通り沿いの店で、評判がいいとか。
「叔父様、並ぶかもしれないわ」
「気にするな」
気にするのはアウグストではなく、周囲の人だ。列の一番後ろに並んだのに、次々と譲られて前に出る。あっという間に先頭まで押し出された。
「この街の方は皆さま親切ね」
観光で来た外国人に優しいと勘違いしたガブリエルは、譲られるたびに会釈と礼をした。明らかにアウグストが怖がられているし、貴族の中で「ロイスナー公女殿下」は有名になっていた。あのシェンデル公爵夫妻の孫で、可愛がられていると。恐れられていることに、まったく気づかない。
カフェも併設しているが混んでいる。持ち帰る予定なので、気に入った商品を数点注文した。宿へ届けてもらう方法もあるが、ガブリエルは運んでみたかった。アウグストの機転で、一つだけ別の小箱に入れる。残りをアウグストが持った。
「叔父様が持つと、何だか可愛いわね」
ふんわりとした印象のピンクの箱は、小花がスタンプされている。カラーインクを使ったのか、鮮やかだった。一目で購入した店が判別できるメリットもあり、菓子店はこぞってカラフルな箱や袋を提供している。明らかに女性向けの華やかさがあった。
お菓子を購入する層の大半が、女性。使用人などが購入しに並ぶとしても、やっぱり侍女など女性中心だった。騎士に購入を頼む貴族は考えにくい。大柄な男がピンクの菓子箱を手に歩く姿は目を引き、その後、店は一気に繁盛した。
そんな後日の光景を知る由もなく、ガブリエルは真剣に小箱を運ぶ。転んだり落としたりしたら大変。ついつい俯きがちになり、視野が狭まった。横を歩くアウグストの服を視界に捉えながら歩き、突然立ち止まった叔父にぶつかる。
「叔父様?!」
「ああ、すまん……あれ、見覚えがないか?」
指さす先に、確かに見覚えのある人影がある。ガブリエルはじっと見つめた後、こてりと首を傾げた。見覚えはあるが、誰だかわからない。いや、思い出せない。
「思い出せないわ」
「俺もだ」
ここで切り替えが早いのは、意外にもガブリエルのほうだった。アウグストの袖をくいっと引き、行こうと示す。
「いま思い出せないなら、大したことないわ。重要な人なら後で思い出すはずよ」
だから早く帰ろう。菓子箱を気にする姪の薄情な発言に、それもそうかと納得した。アウグストが再び歩き始め、ガブリエルは隣を進む。その意識は人影から菓子箱に、完全に移っていた。




