174.恩は代を経てもお返しする
ソフィーは毎日父親の看病に通った。公爵家所属の騎士が複数同行し、他者の接触を一切拒む。シェンデル公爵の命令、の一言は効果が高かった。
気を利かせたガブリエルは、ソフィーへの同行を取りやめた。父と娘、二人で話したいこともあるだろう。けれど、地位が上のガブリエルが「一緒に」と口にしたら、彼らは拒めない。作法では役に立たない王太子妃教育の中で、この考え方は非常に役立った。
地位が上だからこそ、下の者の立場を思いやる。アードラー国王が直接伝えた言葉は、今もきちんとガブリエルの一部として息づいていた。ほかに役立っているのは、語学や歴史の知識といった実用的な部分ばかりだ。
メルテンス子爵家の管理に気づいたのは、エッカルトだった。領地や領民がどうなっているか、慌てて調べさせる。すでに搾取されていたら補わなくてはならない。しかし、まだテンツラー男爵令息が養子縁組をしていなかったため、権利関係に手をつけていなかった。
ほっとしながら、メルテンス子爵家の保護と管理人の派遣を宣言した。周囲の貴族の目を集め、他家が陰で食い散らかす被害を防ぐ目的がある。同時に、これはシェンデル公爵家がメルテンス子爵家を呑み込む話ではない、と知らしめる意味もあった。
あくまでもメルテンス子爵家は独立した一貴族であり、正当な血筋の跡取りソフィーも存在する。乗っ取りは失敗に終わり、彼女も無事であった。その身の安全と純潔はシェンデル公爵家が守る。エッカルトとクラーラが、政治的に動いた成果だった。
「シェンデル公爵家の皆様には感謝してもしきれない」
「ガブリエル様もお優しくしてくださったの」
どれだけ助けてもらったか語るソフィーに、父は涙を堪えながら頷いた。生来、体が弱く体調を崩しやすい。それでも妻の助けもあって領地を治めてきた。そこに付け込まれ、娘や家まで奪われそうになったことは、後悔だけが残る。
メルテンス子爵には、エッカルトから今後の話が聞かされていた。罪人の処罰について、王家が動いたこと、ソフィーの見合いに至るまで。管理人を派遣して守られた領地の話では、頭を下げて感謝する。罪人が罰を受け、二度と娘の前に顔を見せないことに安心した。
「恩はどれほど代を経ても受け継ぎ、必ずお返しするべきだ」
「ええ。もちろんよ、お父様」
微笑む娘に亡き妻の面影を見て、メルテンス子爵は口元を綻ばせた。厳しい現実の話を切り上げ、ささやかな妻との思い出を語る。体調も落ち着き、守られた今だからこそ……思い出すのは優しい記憶ばかり。ぽつぽつと語る父の話に、娘は嬉しそうに聞き入った。




