171.対応の差が目を引く結末
ドナート伯爵家は、自ら妻子を断罪した。潔い当主の決断により、ほぼお咎めなしに決まる。これはシェンデル公爵家の意向のみで決定できるため、ドナート伯爵は胸を撫で下ろしただろう。庇って家を潰すような不手際は免れた。
そもそも妻や娘に嘘を吐かれたことが原因だ。きちんと問い合わせを出して手順を踏み、自ら処断したことで周囲の貴族からも理解を得た。
ソフィーを侮辱する場にいたが、その後の動きがなかったザイデル男爵家の未亡人は、夫の親族から跡継ぎを選んだ。家や領地の管理を引き継ぐと、社交界から距離を置く。シェンデル公爵夫妻へ直接縋ることはなく、手紙による謝罪を送った。
返事は不要である旨が追記された謝罪文は、あの場で暴走する彼女達を止められなかった後悔に満ちていた。自分は一切発言していないが、あの場にいたのに黙っていたなら同罪だと認める。彼女の誠意ある対応に、クラーラは感嘆した。
同時に少しだけ惜しむ。これだけの人ならば、社交界で十分生き残れただろうに、と。騒動が落ち着くまで謝罪を待ち、その間に家を守るための手を講じて去った。潔く舞台を降りる者を後ろから撃つことはあるまいと、信頼を示して。
この地下牢には、もう一人重要な人物が収監されている。現時点では他者の悲鳴を聞くだけだが、平民である彼女の未来は暗かった。ドレスを販売する店の店員だ。リーム男爵夫人と令嬢に濡れ衣を着せ、クラーラの判断を操った。
貴族を騙した罪は、平民の彼女に負いきれない。店は慌てて彼女を差し出したが、徐々に周囲が手を引くだろう。倒産は目前だった。店のオーナーが貴族であっても、平民の店員には何の関係もない。多くの貴族女性が訪れ、応対する間に勘違いしたのだろう。
一歩間違えば、シェンデル公爵家が無実のリーム男爵家を潰すところだった。その引き金を引いた店員は、この地下牢で飼い殺しにされる。死ぬまで外へ出さないのが刑罰だった。貴族に逆らった平民の末路としては、かなり厳しい罰だ。すぐに殺されるほうがどれほど楽か。
外の光を知るからこそ、地下牢の闇が身に沁みるはずだ。焦がれても、二度と届かない光を求めながら生きることになる。
別の牢に囚われたピータック子爵夫人は、王家が所有する別邸へ入り込んだ罪で貴族籍をはく奪された。シェンデル公爵家が願い出て、王家が使用を承諾した別邸でのお茶会だ。隣国の公女も同席した場で、呼ばれぬ客が入り込む。
もし公女が害されていたら、外交問題になった。シェンデル公爵夫人が傷つけられたら、ピータック子爵家の滅亡程度では終わらない。別邸での警護は王家に所属する騎士達の役割だった。その務めが果たせていないなら、会場を提供した王家にも責任が発生する。
そんなつもりはなかった、幼稚な言い訳が通用する段階は過ぎていた。




