169.神をも恐れぬ愚か者の失態
ハイモは、テンツラー男爵家の三男に生まれた。当然だが、家督ははるか遠くだ。跡取りは長男、控えで次男、三男はおまけだった。他家に望まれるだけの才能があればよい。だがハイモは勉強も剣術も身に付かなかった。
遊ぶことは人一倍だが、それ以外の特筆する才能はない。いや……嫌な才能があった。口先三寸、適当な嘘で人を騙す能力だ。人のいいソフィーに取り入り、メルテンス子爵の病弱を知ったとき……ハイモは恐ろしい計画を思いついた。
メルテンス子爵はすぐに亡くなる。一人娘のソフィーと結婚すれば、次の子爵になれる! ここでやめておけばよかった。それだけなら、処罰される理由はない。だが……さらに欲を掻いた。遊び歩いた娼館のお気に入りを、子爵家の財産で買い取ろうと考えたのだ。
娼婦を愛人として囲うつもりだったが、ソフィーが思ったより潔癖だった。一族の血筋がどうの、領民がどうの。まるで「よい貴族」の見本そのものだ。その正義感と潔癖でまっすぐな性格が、ハイモには鬱陶しかった。面倒くさい。
自分に合わない女と一生を過ごすのでは、いくら実家より格上の子爵家が手に入っても割に合わない。そう考えた。父親の看護でほとんど外出しないソフィーの姿に、ある日、さらに悪い考えが浮かぶ。社交で顔出ししていないなら、別人でも構わないのではないか?
男爵家は貴族の中で一番爵位が低い。それはいつでも平民への切り捨てが可能で、世襲が重要視されていない貴族という意味だった。ゆえに、教育内容も甘い。三男ともなれば、さらに手を抜かれたはずだ。ハイモの中で爵位は、箔をつける勲章のような存在だった。
欲しい勲章を得るために戦うのではなく、誰かから盗み取ればいい。楽をして得をすることがカッコいいとさえ考えてきた。そんなハイモが真面な考えで動くはずもなく、最悪のシナリオを描いた。相談された娼婦は「できるならいいんじゃない?」と投げやりに返す。本気にしていなかった。
ソフィーの絵姿を持ち歩き、欲しがりそうな貴族を探した。嗜虐趣味のあるフィンケ子爵と知り合ったのは、娼館の一つだ。娼婦を傷だらけにして、出入り禁止を言い渡されるフィンケ子爵と出会う。ここから計画が一気に進んだ。
悍ましい計画があと少しで現実になる、ここでソフィーにより崩される。貴族のか弱い令嬢が、人前であんな騒動を起こせると思わなかった。暴力で支配し、大人しくなったと認識していた。だがソフィーは助かるタイミングを計っていたが、服従はしていない。全力で抗った。
「彼女の努力を、私は評価します。このような犯罪が我が国で行われるなど、陛下もお心を痛められたでしょう。その分だけ、彼らに痛みを刻まなくては……ねえ、あなた?」
「そうだな、さすがは我が妻だ」
シェンデル公爵夫妻は黒い笑みを交わし、夜会に向かうようなエスコートで地下牢への階段を降り始めた。




